初クエスト
街に帰ってきたリンが初めにしたことは、食料を買うことだった。
このゲーム、食料ゲージが存在する。食料ゲージは歩いたり走ったり時間経過でも減るが、減少量はそこまででもない。
それより減少が早いのはダメージを喰らった時だ。体力がゆっくりだが回復していき、その代わりに食料ゲージが減少する。某有名掘削作成ゲームと似たような役割だ。
これが序盤お金がかからない理由だったりする。つまり、ポーションを買うより食料だけ買って冒険に出た方が手っ取り早いのだ。もちろん進めば進むほど自然回復では足りなくなっていくが、今はHPも多くても200くらい。結構自然回復でなんとかなる。
最短だと1000ゴールド分の食料だけ買い込み、平原→森→第2の街まで一度も帰らず行けるらしい。別にゲーム内で夜になっても現実世界で眠くなければ寝る必要ないしね。
社会人の人は夜から始めるのだが、ゲーム内1日ではさすがに不可能で、夜が来て、現実世界でも12時を回り出す。夜になると敵が強くなるので、ここでラントルに帰りたいが、帰ると第2の街まで行けない。(丑三つ時すぎても全然起きてゲームができるなら話は別だが。)
それでも強行して進むこともできない訳でもないようだけど。腕に自信の無いプレイヤーは見張りを残して放置するみたい。
VRヘッドギア外しても放置できるのかって?もちろんヘッドギアを外すにはゲームをログアウトしなくちゃいけないし、無理やり外したらゲームが落ちて死亡扱いになる。
このゲームで死亡するとペナルティーでゴールドとアイテムの一部、それに経験値も落とすからレベルも下がることもある。じゃ、どうやって放置するのかって?
寝るみたい。ログアウトは街でしかできないため、困ったプレイヤーが考えたのが 《寝る》だった。眠ることで実質的な放置を可能にしたって聞いた。トイレに行けないからガチ勢はトイレでプレイする人もいるって聞いた。初めて聞いた時びっくりした。
VRヘッドギアをつけていても集中すればマットレスの感覚が分からないでもないから食事をすることも可能ではあるらしいんだけど、VRヘッドギアが邪魔でまともに出来ないっぽくて。
そんなこんなで夕暮れになっていたが、あんまりもん周りに人はいなくて、スムーズに帰ってこれた。食料ゲージは1日活動していたが3分の1くらいしか減ってない。ダメージないとこんなもんだよね。
うーん、美味しそうな匂いがするな…
「いらっしゃいお嬢ちゃん」
大通りから少し入ったところで出店のおじさんと出会った。そこには焼き鳥?が並べられている。
「これって何のお肉なんですか?」
おじさんに問いかける。
「うさぎの肉だ。このへんにたくさんいるから安く買えるからな」
焼き鳥だと思った肉はうさぎの肉だった。
「おいしいよ 1本どうだい」
「おいくらですか?」
「1本50ゴールドだ」
「3本お願いします」
そう言ってリンは150ゴールドを出す。
「まいどありぃ」
そう言って貰った3本の焼き鳥ならぬ焼きうさぎの内2本をアイテムボックスにしまい1本だけ食べる。
「うーん美味しい」
鶏肉とはまた違った食感だったが、これはこれで美味しい。そう思いながら南の生産ギルドまで歩いていく。
夜になって閉まっていた扉を開けて中に入り、奥のカウンターへ。現実世界のお昼頃からなのか、あまり人はいなかった。
「すみません薬草を納品しに来たのですが。」
「薬草ですね。このトレイの上にお願いします」
そう言って銀色のトレーが出てきた。
「はい、分かりました !」
返事をしたリンはトレイの中にアイテムボックスに入っていた薬草を全部出す。自分で持っていても仕方が無いしね。
「全部で50本ですね。合計1000ゴールドです。ギルドカードを頂けますか?」
1000ゴールドをもらい、ギルドカードを手渡す。すると受付嬢が何やら唱え、それが紫のカードの中に吸い込まれて行った。
「はい、ありがとうございました」
そう言ってギルドカードを手渡してくる。今のでクエスト達成がカードに記録されたようだ。
「後、作業場って借りることが出来ますか?」
「少々お待ちください」
そう言ってなにやら確認をする受付嬢。
「大丈夫でした。係のものがご案内します」
そう言われて右奥の階段から2階へ登って…3階へ登って…4階へ登って…5階へ登ってようやく自分の場所に案内された。2階から作業場のはずだし2〜4階までは満員っぽい。全然人いないじゃんって気のせいだった。皆ここにいたんだね。
「1回3時間までです。延長したい場合は係のものまで申し付けください」
そう言ってちらっと入口付近にあったカウンターの方を見ると、案内してくれたお姉さんは降りていった。周りを見渡すとみんな真剣な表情で蔓を縫ったり錬金をしたり。簡易炉を取り出して鉄を打つ人の姿も見られた。
リンがこれから作るのはカゴだ。必要なのは蔓が20本分。今あるのも蔓20本。失敗はできない、、わけじゃない。なぜなら下で売っているからだ。
戦闘職の最短は平原→森→第2の街まで一直線だと言ったが、実は生産職も最短は3000ゴールドで蔓100本、ただの草よりも丈夫な、丈夫な草を100本と編み棒、その売り上げを使って初心者用レザーセットとうさぎの皮を20枚買えばギリギリLv19に到達し、持ち金と売上で装備と食料を準備してそこから第2の街まで戦闘職の人について行くというのが最短なのだ。
じゃあなんでこの方法を取らなかったのかって?この方法、失敗することが考えられていないからだ。1度でも失敗するとゴールドが足りなくなる。いや、クエストクリアしてるんだからゴールド貰えるじゃんと思ったんだけど、そういう訳にも行かないらしい。
何しろ、第2の街に着いた時にあるクエストで、2000ゴールドくらい必要になるからだ。これをクリアしないとLv20になってもスキルを獲得できず、また第2の街は物価が高いので第1の街より利益が出にくい。
そんなこんなで、最低でも2000ゴールド、クエストの後にも材料を買わないといけないから3000〜4000ゴールド程度が必須になるのだ。
カゴが利益50ゴールド、草織は100ゴールド、うさぎの革バックは150ゴールド程度。うさぎの革は高くないけど10個作っても残るお金は3500ゴールド程度で、ここから食料、ダメージくらった時の為にポーションなども買うとなると、結構ギリギリだったりするのだ。
戦闘職のプレイヤー達と最速でまっすぐ行くのも上手くいかない。Lvが足りないからだ。
失敗すると、ゴミができてしまい、使った材料は消滅する。Lvも上がらない。だから、1度失敗すると2回分増えるくらいの計算になる。
これを繰り返すのはメンタル的にもしんどく、特にゲーム苦手な人、リアルでの物作り経験が少ない人、ない人はプラスで1000〜2000ゴールド程度持っておくと安心である。じゃないと泣くことになる。と攻略サイトに載っていた。
ここからはLv19までいかに失敗しないかの戦いである。集中力、器用さが試される。
リンは手に蔓とナイフを握る。
無言のまま、生産職の戦いがスタートした。
注 もう少し後で敵モブの死体焼いて食べてるじゃん とか敵モブの死体で装備作ってるじゃんということに花梨は気がつくのですが、ちょっと悩んだ後、「ま、自分で敵モブを倒さなければいっかな」 という軽い結論に至ります。
別に大丈夫だよね?タイトル詐欺じゃないよね?