4話目 クズ兄の末路
俺――トール・ワトソンは昨日の夜確かに目撃した。あの耳の聞こえない妹――カミラが魔法を使っているところを。
あの妹が魔法なんて使えるわけがない。人の言葉すらまともに発することができないんだぞ。
どうやって魔法を使ったのかは気になるが、それをあんな奴に聞くわけにはいかない。それを聞いてしまえば俺が穢れる。
だから俺は奴が家を出る時にも、見送りもせずに家に居た。あんなのは見ているだけで俺の心が汚れる。
「チッ、最後まで腹立たしい野郎だったな。消えてせいせいした。あんなのが家に彷徨いていると我等がワトソン家の地位が下がる」
俺はそう独り言を呟くと、魔法研究室へと向かう。俺は毎日ニ時間ぐらい、魔法の研究をする。今日は爆発魔法について研究する予定だ。
研究室はかなり広く、俺としても居心地の良い場所だ。この部屋には誰一人として入らせる気はない。
俺は早速、水晶に向かって爆発魔法を唱え、魔法を刻み込む。これにはコツがいり、下手するとそのまま魔法が発動してしまうので注意が必要だ。まあこの俺が失敗するはずがないがな。
そしてその水晶を台の上に置き、予め用意してあった装置の中にはめ込む。この装置は、魔法の持つ世界を見ることができるというものだ。
この世界の他にも、あるもう一つの世界が存在していて、そこからある特定の物や力を取り出すのが魔法だ。少なくとも俺はそう考えている。
そこで俺は、その世界のことを理解すれば更に魔法でできるものの幅が大きくなると考えた。
しかし、この装置から見えるのは世界のほんの一部だっため計画が難航しており、俺は少し諦めかけていた。
そして今回も、あまり良い結果は得られず、俺は落胆した。俺は絶対に魔法の仕組みを解明できるはずなのに、なぜなのだ。
俺はため息をつくと、次の爆発魔法を試すために水晶玉に魔法を刻みこもうとした。
次の瞬間、俺の手からこの部屋と近くの部屋を吹き飛ばすぐらいの大爆発が起きた。さらに周りに火が燃え移り、家が燃えていく。
「嘘だろ……このイケメンで社交パーティーではいつも主役で俺がこんな失敗を起こすはずがない!」
俺はパニックになり、水で消火することも考えずにただその場に座り込んだ。遠くで家族や使用人達の声が聞こえてくる。
まずい。この火事の原因が俺だとバレたら終わりだ。
そう考えた俺は急いで研究室から離れると、部屋にこっそり戻る。
そして荷物を纏めると、俺はこの場から逃げ出した。
……後で分かったことだが、この火事で家は半壊し、お金も一部なくなったらしい。