30話 姉妹会談
――それって衛兵が黙ってないんじゃないの?
〈もちろん黙っていませんとも。今私達の母は指名手配になっています。……まだ捕まっていませんが〉
――捕まってないんだ……。それで、その件で私に相談したいことって何?
私に母を止めて欲しいならそれは相談ではなくお願いだ。だから多分考えられるのは――
〈母を止めたいのですが、私には殺さずして止める程の実力がありません。そこで、母を殺してでも止めるべきか聞きたかったのです〉
そう、これだ。だが、この相談に関しては完全に前提条件から間違えている。
――そもそもの問題として、アリスは多分人殺せないでしょ。肉親なら尚更さ
〈こ、殺す覚悟は既にしています。これ以上母が罪を重ねるのを黙って見過ごす訳にはいきません!〉
覚悟ねぇ……。その覚悟が殺そうとする直前に崩れないといいんだけど。
――どの道私は殺すべきじゃないって答えるよ。妹に人殺しを勧める姉なんかいないからね
〈やっぱりそう答えますよね……。ですが、母が話をすれば自首してくれるとも思えないのです〉
――それは同感だね。あの人は絶対に話を聞いてくれはしないよ
それはもう散々体験してきた。今更あの人の性格が変わることもないだろうし、それは間違いない。
〈それに、指名手配と言っても生死は問われていないんです。だから、どこかの誰かに殺されるよりはせめて私の手で痛みなしに殺したいのです〉
――そういうもんかな。私はむしろ他の誰かが殺してくれた方が気が楽だけどね。やっぱり人は殺したくないし
〈そうですか。その辺は少々意見が食い違いますね〉
――そうだね。ただ、もしアリスがあの人を殺そうとするなら私が殺すよ、あの人を。
〈なぜそうなるのですか!〉
アリスは怒った顔でこちらを睨みつける。でも全然怖くない。顔に威圧感がなさすぎる。
――アリスが殺されるのも人殺しになるのも嫌だからね
〈そんな……ならもう殺すなんて言いませんからカミラお姉様もこの話はなかったことにしてください……〉
アリスはしょぼくれた顔でしぶしぶと答えた。
――うん、分かった。だけど、こっそり殺そうとか考えちゃ駄目だよ。下手したら返り討ちに遭うからね。
〈分かりました……。ただ、一つお願いしてもいいですか?〉
――なにかな。言ってみて
アリスの次の一言は、なんとなく想像がついていた。そして、その想像は見事に的中した。
〈カミラお姉様のパーティーに私を加えていただけないでしょうか〉




