2話 冒険者ギルドにて
次の日の朝、私は荷物を背負うと、ニコラスと一緒に屋敷を出た。
『本当に良かったの、ニコラス?』
『大丈夫ですよ。僕はこの屋敷自体にはそこまで思い入れがありませんから』
ニコラスはニッコリと私に笑いかけると、私の荷物を持ってくれた。
『心配せずとも、なんとかなりますよ。僕もこう見えて武術の心得はありますから』
『そう。ならいいんだけど。それじゃ行きましょうか』
そうして私達は冒険者の集う場所、冒険者組合所(冒険者ギルド)へとやってきた。ここでは主に冒険者の取ってきたものの買い取りや、冒険に必要な道具などを売るなどのことがされている。
他にも、その近くでは商人達が店を開き、様々な商品を販売している。
『ここ、ハレントという街は面白いですね。屋敷の近くや僕の故郷では見たことのないものがたくさんあります』
『そうね。私もこの辺は来たことなかったからびっくり』
そんな手と顔を動かして会話している私達を人々は不思議そうに見ている。当たり前だろう。私が音が聞こえないのを初見で分かる人はいない。
その後、私達は冒険者として登録するために、組合所の中に入る。中はとても綺麗で、私の居た屋敷にも引けを取らないぐらいだった。
『ここからは私にお任せを。筆談だと時間がかかるでしょうし』
『そうだね。それじゃよろしく』
私はニコラスが向こうに行くのを見届けると、近くのベンチに腰掛ける。ベンチには布が敷いてあって、非常に座り心地が良かった。
そこで突然、いきなり茶髪の少年が話しかけてきた。だが、私は放心していたため気づくのが遅れた。結果、私は彼の唇の動きが分からず、彼がなんと言っているか分からなかった。
私はリュックから紙とペンを取り出すと、素早い動きで文字を書く。
――もう一度言ってもらえませんか?
少年は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに復唱してくれた。
〈君とお連れの人って見ない顔だけどここ来るの初めて? もし良かったら俺が案内するけどどう?〉
私は今度こそ彼の唇の動きを読み取る。
俗に言うチンピラのようだ。声の調子は分からないが軽薄そうな顔がそれを物語っている。
――結構です
〈そうか、残念だなぁ。あ、でもこれだけは言わせて。ここの近くにある真紅の洞窟だけは絶対に君達で行っちゃ駄目だよ。死ぬから〉
どうやら私の初印象とは少し彼は異なるタイプの人間らしい。割とすぐに引き下がってくれた。私の兄がそういうタイプだったので、偏見があるのかもしれない。
――ありがとうございます。気をつけます
〈ところで君、なんで筆談をしているんだい? もしかして喋れないとか?〉
少年は物珍しそうな顔をしながらそう聞いてくる。私は簡単にその辺の事情を説明すると、彼は納得したような顔をした。
〈なるほど、そういうことか。……君、それだと魔法とか使えなさそうだけど大丈夫なの?〉
――大丈夫です。こうやれば使えます
私は手話で「ライト」を唱えると、私の手から辺りに光が放たれた。するとギルドに居た人間が一斉にこちらを見てきた。私は少し恥ずかしくなって頬を赤らめる。
声は聞こえないが、辺りがざわついているのはなんとなく分かる。人々は顔を見合わせ、口々になにかを言っている。
〈凄いね、声無しで魔法が使えるなんて。これならモンスターに不意打ちするのも簡単そうだ〉
少年は人々には目もくれず、私に話しかける。その顔はどこか、私に興味を抱いてるように見えた。
〈……そうだ。君とお連れの人さ、俺とパーティーを組んでくれないか?〉
――嫌だと書いたら?
〈諦めて他の人探すよ。俺は今までソロでやってきたんだけど、それもそろそろ限界でね。ソロだけに〉
私は、夏だというのに彼の言葉を理解した瞬間、寒気を感じた。今半袖なのだから、冬を到来させるのはやめてほしい。
――連れと相談させて。それ次第で決める
〈了解。組合所の外で待ってるから決まったら教えて。駄目ならそれはそれで構わないから〉
――分かった。ところであなた名前は?
〈ああ、自己紹介がまだだったね。俺の名前はアラン・デューク。十六歳だね。三年間冒険者をやってるよ、君は?〉
〈私はカミラ・ワトソン。同じく十六歳。よろしく〉
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