16話 自分勝手な母親
私――ラスク・ワトソンは不幸な女だ。長男であるトールは頭がおかしく、次女であるカミラは魔法の使えない無能だった。
そしてたった今、私の夫であるレイスは謎の男によって殺されてしまった。謎の男はこちらの方を向くと、「あなたもやりませんか?」と聞いてきた。
私はそこで我に帰り、悲鳴をあげながら馬車から降り、謎の男から逃げる。
謎の男と行者がなにか言っているが無視する。
そうして、私は命からがら家に帰ると、家の中はえらく静かだった。私は家の中を見て回るが、人の気配が全然しない。
私がだんだん不安になってきたとき、階段から長女のエルダが降りてきた。
「エルダ、使用人達は一体どこにいったの!?」
私は叫ぶようにエルダに聞くが、彼女は黙っているばかりでなにも答えない。
「エルダ! 答えなさい!」
「……全員やめましたわよ。使用人に対するお母様とトール兄様の態度が悪すぎたので」
「は? トールはまだしもなぜ私の態度が悪いと言われなければならないのです?」
トールは確かに乱暴な口調でよく使用人達に怒鳴りつけたり、殴っていたから分かる。でも、なぜ私が悪いのはわからない。
「」お母様。あなたは陰で色々意地悪をなさってたではないですか。例えばバケツをわざとこぼして拭かせたり――」
「あれは特訓としてやらせたのよ!」
「お母様が嫉妬していた使用人宛の手紙を片っ端から破いたのも特訓ですか?」
「そうよ! それ以外になにがあるの!」
さっきからエルダは何を言っているのだろうか。私には理解できない。
「……分かりました。それで、お父様はどこですか?」
私はエルダにそう聞かれ、思わず体を震わせた。そして、エルダにさっき起きたことを説明すると、エルダは深刻そうな顔をした。
「そんな……なら私達はどうやって生活していけば……」
そこで突然私はその問いに対する答え思いついた。
「正直生きてるかも怪しいところだけど、カミラに金をせびるしかないわね。アリスをだしに使って」
「……アリスなら使用人の一人に引き取られましたよ。お父様もお母様もアリスのこと虐待してたじゃないですか」
「なっ……アリスまで出ていってたの!? それから私達はしつけはしましたけど虐待はしてません!」
アリスめ、勝手に家から出ていくなんてとんでもない親不孝者もあったものだ。ああ、私はどれだけ不幸な女なのだろう!
「……そうですか。まあカミラに頼るしかないのは同意見です」
「そうでしょ! あの子はまだハレントにいるはず。急ぐわよ!」
「はいはい。分かりました」
気怠そうなエルダを連れて、私達はハレントへと向かった。
次回母親と激突させます




