11話 クズ父親の末路
私――レイス・ワトソンは今、世界一不幸な人間だろう。ボンクラ息子が家の半分を破壊した挙げ句、逃亡したのだから。
「全く、お陰様で金が相当飛んだぞ。こうなったらなんとしてでもトールを見つけて潰さなければ」
私がそう呟くと、部屋のドアが開き、中から妻のラスク・ワトソンが入ってきた。
「あなた、今日は舞踏会の日でしょう? そろそろ出たほうがよろしくては?」
「そうだな。あのバカ息子とアホ娘のせいですっかり失念していた。すまない」
「いいんですよ。……正直、私達は不幸ですわね。二人もおかしい子が生まれたのですから。後はエルダとアリスがおかしくないといいんですけど」
「……エルダは大丈夫だと思うがアリスは怪しいとこだな。アリスはカミラなんぞに懐いていたからな。悪影響だと思って切り離したが、既に手遅れだとまずい」
カミラはワトソン家の歴史の中でも汚点以外の何者でもない。魔法が使えないなぞ話にならん。
「アリスは多分大丈夫でしょう。いい子ですし」
「だといいんだがな」
私はそう言って立ち上がると、舞踏会に行く準備をする。正直、下の身分の者に話しかけられると考えるだけで寒気がするが、仕方ない。
「それでは参りましょうか」
ラスクにそう言われて、私は渋々玄関から外に出ると、馬車で舞踏会の会場へと向かった。
舞踏会は、地獄だった。私には遠く及ばない権力の男が媚びを売ってきた。逆に私より上の者からはマウントを取られた。はっきり言って不快だ。
そうして私達が馬車で家へと帰る途中、突然男が馬車に乗り込んできた。
「誰だ貴様!」
私は男にナイフを向けるが、男は怯むどころか笑っている。その笑顔はどこか狂気じみていて、気味が悪かった。
「どうもえーっと、ライス伯爵でしたっけ?」
「違う! 私はレイスだ!」
「そうですか、それは失礼しました。それで一つ私とゲームをしませんか?」
「ゲームだと……そんな低俗なものやるわけがないだろう!」
なんなのだ、この男は。狂人なのは間違いないが、なぜ私達に話しかけてきたのだ。
「まあまあ、そう固いこと言わないでくださいよ。もしあなたが勝てば何でも好きな願い一個叶えてあげますから。例えば……あなたが内心欲しくてたまらない伝説の杖とかね」
「貴様……なぜそれを……!」
「私にはすべてお見通しですよ。あ、今なら絶賛逃亡中のあなたの息子もセットでお渡しできますが」
「……本当に、できるのか?」
「あなた!」
妻が私の服の裾を掴み、止めようとしてきた。私はその手を払いのけ、男の行動を見る。私はなんとしてでもあの杖が欲しい。あれさえあればマウントを取ってくる奴らともおさらばだ。
「できますよ。ほら」
男は指を鳴らすと、一瞬にして馬車が金貨で満たされる。詠唱をしていないことから魔法ではない。ならこの男が使っているのはなんだ?
「ん、ああ、これは手品の応用みたいなもんで魔法を使ってるんですよ。なに、分かってしまえばすぐに納得できるような簡単なものです。まああなたには分かりそうにもないですが。ヒントを差し上げると、魔法を使ったのは私ではありません」
男はクククと不気味な笑い声を上げ、私を挑発する。
「……まあいい。ゲームを受けようじゃないか。どんなゲームだ?」
「なに、簡単なものですよ。この箱の中に入っているものを手の感触だけで一回で当ててもらいます」
男はまたどこかから箱を取り出すと、私達に見せてくる。
「なんだ、そんなものか。よし、やってみよう」
私は箱の穴から両手を突っ込むと、その感触から思わず驚いてしまった。これは……まさか人間の手か?
「あ、そうそう。あなたが負けたらその時はあなたの魂頂きますので」
「なに! そんなこと聞いてないぞ!」
「聞かれなかったので。まあ答えてくださいよ」
私は男を睨みながら、考えたのちに「人間の右手か?」と答える。
「不正解! 答えは猫でした!」
男はそう言って箱の中のものを取り出すと、中から無理矢理毛をむしり取られ、人間の手の形に変形させられた猫が出てきた。
「ヒエッ……!」
妻が腰を抜かし、情けない声で悲鳴を上げる。
「ふざけるな! こんなのあってててててててててててててて」
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
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