VS妖怪リモコンずらし
ある日の夕方。洗濯が終わったことを告げる電子音のメロディーが家の中に鳴り響く。
「家主よ。洗濯が終わったぞ。」
先日から我が家に居座っている妖怪、ハンガー隠しが呼び掛ける。
彼女は今、台所で夕飯の支度をしている。
「はいよ。」
リビングでテレビを見ていた俺は適当に返事をした。
「妾は干して来いと言っておるのじゃが・・・」
少ししてハンガー隠しがリビングに顔を出す。
十二単にフリル付きのエプロンと奇妙な格好をしている。
「え?ああ、今良い所だからこれが終わったらやるよ。」
「全く、大人にもなってその調子でどうする。」
ハンガー隠しは溜息をつくと、ぶつぶつと文句を言いながら台所へ戻って行った。
完全に母親である。
「・・・さて。」
十分ほどして番組が終わり洗濯物干しに取り掛かるため、傍らのテーブルに置かれているであろうリモコンを手探りで探す。
「あれ?」
リモコンが無い。
テレビをつけた時、手の届く位置に置いた筈だ。
テーブルの上を探る手元に視線を移す。
「・・・。」
思考が一瞬停止する。
テーブルの奥に誰か居る。
細身で茶髪でグレーのセーターを着た若い男が無表情で座っている。その手元には俺が探していたリモコンがある。
「・・・どちら様ですか?」
自宅で知らない人に出会うことに対し、若干の慣れを覚えていた俺は聞いた。
「どうも、妖怪リモコンずらしです。」
男は静かに口を開く。
やはり妖怪の類だったか・・・
「・・・ああ、うん。とりあえず、リモコン返して。」
「どうぞ。」
あっさりとリモコンが返却され、俺はそのままテレビの電源を切った。
「・・・ええと、帰っていただけますか?」
先ほどと変わらぬ様子で居続けるリモコンずらしに退去を促す。
「いやぁ・・・」
表情に薄っすら苦笑い成分を入れながら彼はそう言った。
「いやぁ・・・じゃねぇよ。」
「家主、さっさと洗濯物を干さぬか!」
ハンガー隠しの声が台所から飛んでくる。
「はーい、ただいま。・・・とりあえず、お前も手伝え。」
「はい。」
そして、俺はリモコンずらしを引き連れ、洗濯物を干しに行くのであった。




