ショートストーリー 禿げた人が散髪に来た
ぼくは年五回散髪に行く。
理容師にいつも直毛で硬い毛ですねともよく言われる。
それでもさすがに年を取ってきたので若いときに比べれば、髪の毛も手入れしやすくなった。
若いときは毛がピンピン立って始末に困っていた。
六十を超えた現在まだ毛はふさふさあり白毛も少ない。
最近は整髪料もいいのが出て、髪の毛は自分の思うように手入れできるようになったが、
若いときは今のように、ジェルとかムースかなかったので、ほとんどスポーツ刈りにしていた。
ぼくは散髪屋の善し悪しはひげ剃りにかかっているといつも思っている。
特に顎のひげをお丁寧に剃ってくれて、ざらざら感が全くなくなってしまうことに満足するので、
それをやってくれないと不満が残る。
でもぼくの行っている散髪屋は二千円なのでそう多くは望めないし、
毎回違う人がしてくれるので毎回髭のそり具合も違う。
それに実習生が髭を剃るのでやっかいだ。
安い店だから辛抱しなくてはならないのだが、せめて散髪をしてくれる人が髭も剃ってくれよと言いたくなる。
そして昨日も散髪屋に二ヶ月半ぶりに行ってきた。
ぼくが椅子に座って頭の毛を刈ってもらっていると、上品で頭が半分禿げた人が入ってきた。
丁度空いていたのでぼくの横に座り理容師となにやら話し始めた。
「今日は軽四で来たよ。いつもはセルシオを乗っているのだがね」
ぼくはセルシオを乗っている人がこんな安い散髪屋に来るんだ、と半ば呆れていた。
金は持っているがケチなんだなと思いを巡らしながら聞き耳を立てていた。
するとこの人とんでもないことを言い出した。
「わしは頭が半分禿げているから、散髪代も半分にしてくれ」
なるほど、言い分としては筋が通っている。
すると理容師が、
「お客さん、禿げている人、特にお客さんのような頭の人は普通の人よりやりにくいんですよ。
普通の人より倍はもらいたいくらいです」
お客、
「……」
なるほどと思える節がある。
禿げている人はいかに毛を残して散髪するかに腕がかかっているらしい。
その理容師の言葉を聞いたとたんお客は、一言もじゃベラなくなって、
なんだか気まずい空気が流れていた。




