第4話 夜空の下で
「これか」
さすがにシーツを持ったまま登ることは難しく腰に巻くことにし登り始めた。
大人が使うからか、子供の体の俺には少しキツイがなんとか登ることができた。
「はっ、はっ、、」
もう少しで登りきれるなというところでお疲れ様と、さっきの少女が手を伸ばす。
「ああ、ありがとっう。」
少し息が上がってしまったが、俺は少女の手を取った。
「よっと」
勢いよく腕を引っ張られ無事登りきることが出来た。
「ん?」
「どうしたんだい?」
俺が突然声を上げたのは少女の手が冷たかったからだ。
風とうしがいい場所でしかも夜、薄いカーデガンだけの姿でいたらそれは寒いだろう。
きっとこの子も入院しているのだろう。何の病気かは分からないが病気の子供に助けられ、使うはずだったシーツを借りるなんて情けない。
俺は腰にまいていたシーツを少女に被せると驚いたのか、少女は少し目を見開いた。
「ふふ、ありがとう」
そう言って少女が微笑んだ。やはり美少女だ。
「礼を言うのはこっちだ」
「でもそれじゃあ君が寒くなるだろう?おいで?」
「え?」
さすがにいい歳した大人が見ず知らずの少女と近距離接触はまずいだろ!
「あっいや俺は十分温まったから」
「年下が遠慮するなよ」
「うわっ!」
そう言うと少女は俺に抱きついてきた。
結果的にもっとまずい絵面になった気がする。
「うん、こっちの方が温かい。」
っん?
「年下?」
「君は小学生だろ?僕は中学1年さ。」
まさか兄と同年代!?
よくて1つ上ぐらいかと思ったが...
それにしては・・・
「小さくないか?」
「うっ、言ってくれるなよ。結構きにしてるんだ...。というか現時点では君とあまり大差ないよ」
「うっ、すまない。」
墓穴を掘ってしまった…
「ふふ、まぁいいよ。それよりほら上を見なよ」
何だと思い、俺は言われた通り見た。
「っ!」
ハッと息をのんだ。空を近くに感じるからか、とても綺麗に見える。
これが、手が星まで届きそうという感覚か...
「ふふ、夕日も良いけど星もいいだろ?」
「ああ」
「空はいつも移り変わる。他の人はいつも一緒だというけど僕は違うと思うんだ。ずっとずっと違う表情を見せてくれる」
そんな話を聞きながら俺達はしばらく一緒に星を眺めた。
◇
「少し気になったんだか」
「ん、何だい?」
返事をするのと同時に少女は起き上がった。
「君は、女子だよな?」
「当たり前じゃないか。僕みたいな美少女はそうそういないさ」
「じ、自分でいうのか・・・」
「ムム、公然の事実だといって欲しいね」
「おおかた僕の喋り方に疑問を持ったってところかな?」
大当たりだ・・・
しばらくするとまた俺は眠気に襲われた。そろそろ戻ろうと伝えようとする前に、先に少女が口を開いた。
「君は、変わったね。いい意味で、かな?それとも戻ったって言うのが正しいのか」
「え、」
この少女は今なんと言った?
「はは、これを言うのは2度目かな?初めまして蒼太君?」
「な、なんで俺の名前を知ってっ?!」
「教えてくれたのは、君さ」
そう言って少女は俺を指刺す。
まさか、もしかして、俺は昔、この少女と会ったことがあるのか?
いやそんな記憶はないはずだ。
俺は立ち上がろうとするがどうしてか体が金縛りのようになり動くことができない。
「ふふ、悩んでいるね?でも教えてあげないよ。彼もきっとそれを望んでいないだろう。けど、僕は少し怒ってるんだ。だから少しだけ、少しだけだからさ」
少女は星を見上げた。俺はその時の表情を見るとこが出来なかった。
「君は何をいって?」
「言うなればこれはヒントさ、蒼太君。これは仮説だけど試す価値はある」
『失われた記憶を探すんだ』
「それが真実への1番の近道だ」
「僕が言えるのはここまで」
「バイバイ、願わくばまた一緒に星を見よう」
そういって少女は俺の視界から消えた。
「まてっ!」
やっと動けるようになったとき、後ろを振り向いても辺りを見渡しても少女の姿は無かった。
病室に帰ると案の定看護師達に怒られた俺はベットに寝かされた。
あれは、夢か幻か疑ったが手元に残ったシーツの温もりがそれを否定した。
あの少女、いや彼女は何物なのか。
俺は一晩中考え続けた。
簡単にだが彼女の言葉を整理した。
1つ目、彼女は俺と会ったことがある。
2つ目、彼女は俺を「戻った」と形容した事から、何故かは不明だが俺が子供に戻った事を知っている可能性がある。
3つ目、彼女が言った「彼」の存在。
これについては全く全貌が掴めない、謎な存在だ。
俺をこんなふうにした黒幕か?だがこんなこと人間に起こせるのか?
4つ目、これは関係あるか分からないがいきなり金縛りになったこと。
そして5つ目、記憶を取り戻したら真実が分かるかもしれない事。
情報は増えたが分かったことは少ない。謎が増えただけだ。
それに記憶なんてどうやって思い出せばいいんだ...
ただし、彼女がただの電波であればこの仮説は全て無意味だがな!
「はぁ、」
頭が痛くなり俺は静かに目を閉じると眠りの中へ落ちていった。