第2話 目覚め
目が覚めると本当の病院にいた
清潔感漂う真っ白なシーツ
誰もが覚えのある病院特有の匂い
しばらくボーッと自分の小さい手を眺めていた
夢じゃ無かったか
いくら頬を抓ってもここが現実であることを頬の痛みが主張している。
と、そうこうしていると目覚めたことに気づいた近くにいた看護師に、あれよあれよと言う間に精密検査を受けるはめになった。
しばらくすると元いたベットに戻された。
やっと一息つける
暫く呆然と天井を眺めていると、突然、扉からノック音が聞こえてきた。
入ってきたのは、若い頃の母さん、妹の藍奈、2つ上の兄の空翔が見え、
「グッッッハ」
「蒼太兄ちゃん!」
突然、藍奈(子ども)が勢いよく抱きついてきた。
「腹に、モロに、」
いきなりの痛みに悶絶していると母さん(若い)が藍奈を注意する。
「藍奈!病院では静かにしなさい!」
「驚いたぞ、家に帰ったら蒼太が倒れたって聞いて」
空翔(推定中学生)が眉を寄せ言った。
「体は、大丈夫なの?」
今現在お腹の上に居る妹が聞いてくる。泣いていたのか目が赤くなっている。
「ああ、もう大丈夫だ」
頭痛ももう無いし。俺は藍奈を安心させるように頭を撫でた。
にしてもこの頃の藍奈は可愛かった。中学に入ると、俺と空翔の当たりが強くなりだして高校になったらいきなり呼び捨てで呼ばれ始めた。思春期に入ったのだろう。
(もうお兄ちゃんと呼ばれないと思っていたが)
こんな状況の中、嬉しさが込み上げてくる。
「ビックリしたのよ?学校から連絡があって、病院に着いたら貴方意識が無くて、お母さん心臓止まるかとおもったわ」
「丸一日意識無くすって何やってたんだ?」
「俺そんなにも寝ていたのか?」
「!?」
空翔がいきなり驚いた顔をする。
「どうした?」
俺は不振に思い尋ねた。
「あ、ああ、医者から聞いてなかったのか」
「うん、起きたらいきなり精密検査受けさせられて、話を聞く余裕も無かった」
そんな話をしていると俺は下から視線を感じた。
藍奈がじっとこちらを見ていたのだ。
「戻った!いつものにーちゃんにもどった!」
「ん?それってどういう」
ことだ?と聞こうとした時、突然扉が開いた。
白衣を着ていることから病院の先生だろう。
◇
「こんにちは、蒼太君のお母さんですね?精密検査の結果、脳に異常は特にありませんでした。念の為、今日1日入院してもらいますが、何も問題が無ければ明日退院しても大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
「ただ学校からの連絡で頭を強く打ったらしく記憶が混乱していないか確認したいと思います」
先生がこちらを向いた。
「それじゃあ、簡単に自己紹介をしてくれるかな?」
「敦賀蒼太24歳ゲーム企画課所属」なんて言えるわけないし...これ詰んだな。
俺が悩んでいると先生が緊張をほぐしにきた。
「緊張しなくていいんだよゆっくりでいいんだ」
そうじゃないだ、もし俺が本当のことを言ったら即、精神病院に搬送されるだろう。それはまずい。
仕方が無いか適当に答えるしかないか・・・
「敦賀蒼太、神蘭小学校、4年雪組9才...です」
「名前をボールペンでかいてくれるかい?」
紙とボールペンを渡され何が何だか分からないが、自分の名前を書く。
「じゃあ、何で倒れたのか覚えているかい?」
記憶では小学校の記憶は、朧気すぎて全くわからなかった。思い出そうとしても記憶は霧のように消えてゆく。
俺が首を横に振ると先生は「そうか...」と呟いた。
俺は、間違っていないか不安になり母さんたちを見ると藍奈は話を理解していないのか俺に笑顔を向けてくるが、母さんと空翔の様子が明らかにおかしかった。
「蒼太君、君は小学5年生10才なんだ」
一年ずれてしまっていたか
「おそらく小5までの記憶と学校からの報告から対人関係の記憶、他にもあるかもしれませんが今はなんとも...日常的な動作は分かっている様子ですが…」
対人関係?・・・あっ、知り合いらしい奴らなのに初対面の反応をしたせいか!?
「おい蒼太!本当に覚えてないのか!?藍奈に群がる虫どもを排除したのは!バトモンのカード超レアあてたのは!」
あー懐かしい集めてたなそういえば。
当てたかは覚えてないが。
「記憶喪失には精神状態やストレスも関わりますが蒼太くんは頭を打ったことによるものでしょうなぁ」
「先生、蒼太の記憶は、戻るのでしょうか...」
「蒼太君は、家族や日常の動作は理解している様子です。まだハッキリとしませんがおそらく、記憶喪失の中でも選択的健忘と呼ばれているものかと思われます」
「選択的健忘ですか?」
「はい、簡単に説明しますと、ある一部のことを覚えていますがその他の記憶が抜け落ちている症状です。記憶喪失のかたは、ある日突然思い出したり、何年もたった時に思い出した事例があります。ですが思い出すことが無い事例もあります。覚悟していて下さい」
「そう、ですか。」
「思い出すには脳の記憶領域を刺激することが効果的と思われます。いつも道理の生活を送ることが大事です」
先生は母さんと話終わると部屋から出ていった。
「蒼太、大変だと思うけど学校は退院してから行くからね。お友達と学校には連絡は入れておくから」
「俺は記憶喪失なんて信じられないんだが、どうやら本当みたいだな。安静にしてろよ」
「蒼太にーちゃんばいばーい」
そう言って昼頃になると母さんたちは帰っていった。
...記憶喪失か、確かに小学校の記憶が曖昧だが、
過去の俺に何かあったのか、それとも子供の脳に俺の意思が入ったからか、
分からないな。
窓からは、オレンジの光を出しながら太陽が沈んで行った。