第1話 俺の時間
夜を照らす月の蒼白い光がビルに遮られ辺りは電光掲示板が照らす道を同僚と帰る。
俺、敦賀蒼太は、大学卒業後、ゲーム会社に入社して2年目のしがない24歳。独身だ。
人並みに結婚はしたいが、相手がいないのが今のところは悩みだ。
そう、あれはデスクでパソコンの作業をやっている時だった。
割と仲のいい同期の柏木青葉に
「敦賀さ結婚とかって考えてるか?」
「あー、俺にはまだ早いし、興味もないな」
そんな話していると、近くを通った39歳独身のA先輩が来た。
「お前ら、自分はまだ早いとか言っていられるのも今のうちだぞ。」
『「A先輩?」』
「若いうちに積極的に出会いをモノにしないと、周りは明るい中、いつの間にか自分だけがぽつんと立っているんだ。」そう悟りを開いた表情で言った。
体験者のマジな話であって俺と柏木の顔が歪む。他の同僚も話を聞いていたのか顔を青くしている。
「この歳になると諦めが来るがな」
この時のA先輩の顔は、俺達は一生忘れないだろう…
そうして先輩は、俺達に不安の種を植え付けるだけ植え付けて作業に戻って行った。
◇
そんな事もあり俺を含む同僚全員、彼女募集中である。
最近では過労死の問題、働き方改革もありゲーム会社であれど休みはあるが、バグ処理やウイルス感染、アップグレードなどなど、やることが沢山ある。ゲーム会社なのだから仕事をしなければ会社の存続に関わるし、皆仕事に精を出す。
会社が潰れれば逆にこっちの生活が危険だ。
なので毎日、帰宅時間ぎりぎりまで、パソコンの前に座り苦情の処理、書類仕事etc・・・
別のゲーム会社では会社に泊まり込み仕事をするところもあると聞く、そう考えればこの会社はホワイトだろう。
ぎりぎりとはいえ帰宅出来るのだから。
(ぎりぎりまで働けという上の意思を感じるが...)
これぐらいでブラックと言っていたらさぞ恨まれることだろう。
仕事は大変だがやりがいがある、あり過ぎて困るほどだが。
幸い同僚は気が合うし、先輩は厳しいが分からないところは厳しくも丁寧に教えてくれる。そう悪いものではないだろう。
「敦賀ってさ、顔はいいのに残念だよな!」と、
突然、隣を歩いていた柏木が言ってくる。
それをお前が言うか。
真偽のほどは知らんが、アイドル事務所にスカウトされたとか噂が立つほどこいつは結構美形だ。ウザいから言わないが。
「顔だけは余計だ。」
「だってお前顔は綺麗な方なのに声がアンバランスというか・・・」
「地声だ。わざわざ声高くさせるなんて面倒だろうが」
「普通な声出せるんだから出せよー。先輩の前では猫被って高いくせに?」
ニコニコした顔がウザイ...
◇
『敦賀君、書類、ミスしてるわよ』
『本当ですか!すみません!すぐに直します!えっと、ここがこうなって・・・ん?』
『ここよ、列がズレてる、苦手なのかもしれないけど今のうちに慣れておきなさい。これぐらい出来ないとこれから大変よ』
◇
クール美人で有名な瑞月先輩は社内の憧れ、マドンナだ。入社した当時は、同期全員が盛り上がっていた。そんな先輩が教育係に選ばれた俺は、同期全員+先輩狙いであろう上司の視線+殺気入りに気づかぬ振りをした。
「あの先輩、怒らせると怖そうだろうが。愛想良くした方がいい。」
俺は高校の時、極端に声変わりをしたせいで声が低すぎ、それに気づかず、いつもの調子で迷子に話かけ泣かれた事がある。他にも、不良に絡まれたりした事もあったが幸い近くを通った警官に助けられ事なきを得た。そんな事もあり俺は声を人によって使い分けるようになった。
「へー」
「ニヤけた顔がウザイ、それから先輩は婚約者居るだろうが」
何故ゲーム会社などに就職しているか謎だが先輩は良いところのお嬢様らしい。そりゃ婚約者の一人や二人居ても不思議では無い。
(いや二人もいるのはそれはそれで問題だな)
恋愛感情なんて無い、尊敬する先輩だ。
そう、順風満帆とは言わないが俺はこの生活に満足している。出来れば彼女が欲しいが。
これからもずっとこの日常が続くと思っていたんだ、
このときまでは・・・
◇
キーンコーンカーンコーン
キーンコーンカーンコーン
ん?なんだ?
チャイムの音?
何故?うちの近くに学校なんてあっただろうか?
「うっ、ぁ?」
起きたばかりで光が眩しく上手く目が開けられない。
ここは?何処だ?なんだか見覚えがある気がするが・・・
目に入るのは真っ白なシーツ、締め切られたカーテン。そんな中、横たわる俺。
「こ、こは、びょういんか? ゔっっ」
声出しに違和感があったが、とっさの痛みに頭をおさえる。
頭が痛い二日酔いか?飲み過ぎて担ぎ込まれたとか、最悪だぞ・・・
だが昨日は飲んでいない筈だ。柏木に飲みに誘われたが、新発売のゲームの最終確認やテストプレイをし、連続出勤ということもあり、疲れがたまり飲みに行く気力も無く、断りを入れてそのままマンションに帰ろうとして・・・して、?
「蒼太君、起きた?」
俺は突然の言葉に驚くと、締め切られていたカーテンを開いた人物を見上げた(・・・・)。
入ってきたのは眼鏡をかけ白衣を着た美人な女性、知的な雰囲気を醸し出している。
これまた既視感に襲われるが、気のせいか?
受診に来た時でも見かけたのだろうか。
「気分はどう?頭痛や吐き気はある?」
君付けが気になるなだが・・・
「はい、えっと頭に少し痛みが、気分は、」
大丈夫です。と続けようとしたところで、
何処からか大量の足音がきこえてきた。
『「蒼太!」「そーくん!」「そーちゃん!」「アオ!」』
勢いよく部屋に入ってきた4人の子供達 、急いで来たのだろうか息を切らしている。
俺の名前を呼んでいる、が何故だ?
子供の知り合いなんていたか?
と思い既視感を覚える。が気にしない。
おそらく同名のお友達でも入院しているのだろう。
だが病院での大声は他の患者さんに迷惑だろう。
「えーと、きみたち?他の人に迷惑だから静かにしないとダメだよ?」
泣かれないように出来るだけ優しく言うと、ふと、さきの違和感に気づいた。
声がどこかおかしい。風でも引いたのだろうか。
ふと子供達を見るとビックリした顔で顔を青くしているのに気づき思考を切り替える。
どうしたんだ?声が怖かったか?それとも言い方がキツかったか?
「アオ?」
翡翠色の瞳が特徴の男の子が一人こちらに近づいてきた
「アオ」とは何だと思い少年を見るとまた言いようのない既視感をはっきりと感じる。
なんだかこの子ども、見覚えが、、あ、る、よう、なってもしかして、、
「草薙翠?」
あまり話したことは無かったが両親とも仲が良いことで名前は覚えていたが・・・
子どもの名前を理解した途端に頭が混乱した。
だって、草薙は俺が小学校の時、隣に住んでいた奴だ。中学に上がるころ県外に引っ越してしまったから、それから地元の奴にも草薙にも会っていないが、というよりも、俺と同い年のはずなんだが?
結婚してたのか?子供ができたのか?にしても似すぎじゃないか??何故俺の名前を呼んでいるんだ???
疑問で頭がゴロゴロしていると、白衣を着た女性が話しかけてきた。
「蒼太君、大丈夫?顔色がわるいよ?」
ちょうどいい、どうして俺がここにいるのか尋ねようと思い女性を見ると首に掛けてある名札に気がついた。
神蘭小学校保健医
清水 叶
そうして俺はこの違和感に気付いた、
どこか広く感じるこの部屋、
目の前の女性が自分よりすごく大きいこと、
自分の手がとても小さく、視界が低いことに
何より大きく開いたカーテンから剥き出しになった鏡
そこに映る少し青みがかった髪の少年
あまりの出来事に目眩がする
「うそ、、、だろ、、」
絶句した。
病院だと思っていた場所は、昔通っていた小学校の保健室を彷彿とさせる。
俺はあまりの事態に頭痛がし、ベットに突っ伏した。それに驚き、慌てて動き出す人達。
「蒼太君!?」
「蒼太!?どうした!」
「蒼くん!」
「アオ!先生、アオはどうしたの!」
「ソーちゃん!?」
思い、だした、こいつらは、俺が小学校時代のクラスメイトと、先生・・・
緊迫した空気の中、コンコンと扉を叩く音が響いた。
「しつれいします!2ねん花ぐみの、敦賀藍奈です!あの、おにいちゃんがたおれたってきいてきました!」
そこに居たのは、今は大学生である筈の妹の藍奈が、当時小学生のころの姿で立っていた。
有り得ない情報が重なり俺の脳みそは限界になり、そのまま意識がブラックアウトした。