R-Day 1: 雪の幻影<前編> -Side M-
みなさま、いつも読んでいただきありがとうございます。少し短めのお話です。
送られてきた三枚の写真のどれもがとても奇妙だった。私がこの学校を卒業したのは、もう三年前になるが、写真の建物は仮に三年間放置されていたとしてもおかしいほどの荒れ具合だった。もちろん、自分の学校だということは見ればわかる。だが、見れば見るほど空間が歪んでいるような気がしてならなかった。見ていると気持ち悪くなってきたため、画像を閉じて中学校かどうかの確認をする。
すぐさま返信が来ると、そこには雪が積もっているとの文面が表示されていた。そんなはずはないだろう。だって、私の家と中学校は近いのだ。現に今だって外に雪なんて積もってない…そう、積もっていないはずだった。
光がやけに入ってきていた自室の真っ白なカーテンを開けると、そこには銀世界が広がっていた。スキー場でしか見ないような光景に少し興奮を覚えたものの、自分の置かれている状況の異常性を少しずつ脳が認識していった。これはすぐに合流した方が良いのかもしれない。そう思いチャットの返信を返す。
「私もすぐ行く。」
それに対し、長い文にも関わらず、状況の確認が優先との連絡がすぐに来た。確かにその通りだ。私はすぐに「了解」と返事をする。私も身の回りの物で変わったものがないか一つずつ確認してみよう。今の時間はもうすぐ十四時だ。早く状況整理して連絡を取らないと日が暮れる。それにしてもやけに時間が経つのが早い気がするけど、焦っているからそう感じるんだろうか。きっと感覚の問題だと思い、ふとよぎった思考を一蹴し確認に戻った。
まず、自分の机の周りだ。シャーペンの数が増えたわけでも、ボールペンの数が減ったわけでもなくいつもと変わらない風景。参考書も毎日見慣れている本が机に積み重なっているだけだ。机の引き出しに少し思い出のものが入っているはずだ。
開けてみると、友達からのプレゼントや手紙、彼氏からのプレゼントもそこには存在していた。ただ、一つだけ記憶にない箱があった。なんの箱だろうと思い、そっと蓋を開けてみる。何もそこからは出てこない。でも、なぜか大切なものが入っていた気がしてならなかった。
後ろ髪を引かれつつも、思い出せないから部屋を出て階段を降り、一階のリビングへと向かう。やはり、誰も帰ってきてないようだ。人の声も物音もしない世界。家や道、木々など全てを包んだ雪が、全ての音を封じ込めているように思える。昨日と何一つ変わらない家の中が一層その静寂さを引き立てていた。
私はリビングに入ると気持ちを落ち着かせるためにもソファへと座った。家の中のアナログ時計が音を規則正しくカチカチと音を立てている。音の鳴る方へ目を向ける。時計は十四時二十分を指している。
「ん?まだそんな時間だった?だって、さっき十四時だったよね?」
私はそう言いながら携帯の時計を見ると、そこには十五時と表示されていた。私はこの時、これが今の状況を物語っている最大の謎だということに気づかず、リビングの時計が遅れているのだろうかと思ったのだった。
しばらく、そうしてリビングで一人静寂と思考の海に浸っていると私を睡魔が襲ってきた。そして、私はソファの上へと気づかぬうちに寝転がり、意識を静まり返るリビングの中へと落としていった。