表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

前夜<後編> -side M-


 あれから二十分ほど経ち、家へと帰宅する。リビングにいる親と兄弟に「ただいま」と言った後に、洗面所に立ち、手洗いとうがいをする。受験生にとって、この時間は大切なものだろう、きっと。その後、自室へと上がり、携帯を確認する。

 まずは彼氏からのチャットに返した後、Sと書かれたアカウントをタップする。年末の挨拶に返信が来ている。体調を労ってくれているようだ。こっちはいたって元気だが、心配してくれているのだから、返信しないわけにはいかないだろう。

「ありがとう。そっちこそ風邪ひかないようにね。」

 と、簡単に返し、外で座って冷えた体を温めにお風呂へと向かう。


 体を洗った後、ゆっくりとお湯に浸かり体を温めながら、今日の予備校の帰りの時間を考えていた。久々にさっきのチャットの相手のことを考えたなと思いつつ、思い出していたことに対して、深くは考えなかった。彼は、本当に短い間の彼氏とも言えるかわからないような関係だったし、中学生の恋なんて憧れや友達感覚の好意の延長でしかないはずだ。だから、今思い出したところで、何か変わるはずでもなく何も変えられない。そう、思いつつも、今日、こうして思い出したことにとても強く意味があるのではと感じている自分がいることが、自分自身で信じられなかった。

 そんな悶々とした思考を終えて、シャワーを浴びてお風呂を出た。体を拭いて部屋着を着た後、水を飲み自室へと戻る。


 ちょうど自室へ戻るために部屋のドアを開けようとすると、携帯が長く震えていることに気づいた。ディスプレイには、Sと表示されていた。「どうして、この悶々としているタイミングで電話してくるんだ」と、心の中でタイミングの悪い彼に対して毒づきつつも、電話に出る。

「もしもし、どうしたの?」

 相手の声は聞こえづらいが、かろうじて、「今どこに」と聞こえた。その声が聞こえた後、電話は切られてしまった。

「もしもし?もしもし?」

繋がっていない携帯に呼びかけるも、当然返答はない。正直、切羽詰まっているような相手の状況に驚きを隠せずに、電話をかけ直す。だが、全く出る気配がなく切れてしまう。

もう一度、彼の電話番号にかけてみる。インターネットの届かないところなら、こっちで使えるはずだ。そしてかけてみると、電子音のメッセージが聞こえてきた。

「おかけになった電話は電波の届かないところにあるか、電源が入っていないためかかりません。」

全く、どこにいるんだろうか。半ば怒りながらも心配になったので、一応、チャットに「大丈夫?どうしたの?」とだけ送っておく。だが、流石に自分のこともしなくてはならないので、心配をしつつも勉強を始める。


 しばらく経ち、丑三つ時となり眠る準備を始める。携帯を確認するが、彼からの通知は来ていなかった。そんな状況に少し寒気を感じつつ、携帯で動画を見始める。もう、学校があるわけでもないので「朝起きられなくても大丈夫だ。」と思い、しばらく幾つかの自分の好きなコンテンツを見る。そうこうしているうちに、いつの間にか意識は遠くへと離れていった。


 やがて太陽が高く昇ってきて、白を基調とした自室の布団とシーツが太陽の光を反射し、光が目に入ってきた。

「んっ。」

 目が覚めた。手の中にはスリーブ状態の携帯がある。今までの通知を確認する。一番上に来ているのは、彼氏だった。しかし、彼からの通知はない。Sと書かれたアカウントを開くが、トーク画面に送ったメッセージには既読がついていない。「昨日の嫌な予感はなんだったんだろう」と不安に襲われる。まさか、虫の報せなんてものが本当にあるとは思えない。だが、そうとしか思えないような状況なのは確かだったが、警察に通報して時間がかかるのも今は避けたい。そうした不安を、違うSNSで限定公開をして投稿する。

『ちょっと怖い。大丈夫なのかな。』

 彼とのトーク画面のスクショを小さく加工をして見えないようにし投稿する。仲の良い友達にしか見られない上に、二十四時間で消える便利なシステムだ。それを確認し、友達の投稿をみた後、また勉強を始めた。予備校まではまだ時間がある。お昼ご飯を食べてから出よう。そう思いつつも机へと向かった。


 一時間ほど経ち、SNSを確認するが誰からも見られた形跡がない。なんだろう、と思いつつも友人たちの投稿を見てみる。いつもは誰かしらの投稿があるはずだが、この一時間で誰も投稿しなかったみたいだ。「こんな日もあるのかな」と、思いつつリビングに出てお昼ご飯を食べる。家族は出掛けたのか両親も兄弟もいなかった。母が作って置いてくれたであろうパスタを一人で温めて食べる。


 食べ終わり、予備校へ行く支度をする。部屋着から着替え、ケーブルに繋がっていた携帯からプラグを抜き取る。その瞬間、スマホに短い通知音が四回鳴った。送り先は彼だった。「よかった。生きてるじゃん。」と、安堵しつつトーク画面を開く。

「全然、大丈夫じゃない。なぜか中学校の中にいつの間にかいたけど、何かがおかしい。」

 というメッセージとともに写真が三枚、トーク画面には添えられていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ