前夜<前編> -side S-
まだ、Alisa in wonderland も完結していないのに四年ぶりに新作を出そうとしている自分にはびっくりです。書き始めたのはこの小説も四年前でしたが、なかなか時間がなく、投稿に踏み切れていませんでした。全く作品のテイストは違いますが、楽しんでいただけたら幸いです。
Freude, schöner Götterfunken, Tochter aus Elysium, Wir betreten feuertrunken, Himmlische, dein Heiligtum!
Deine Zauber binden wieder, was die Mode streng geteilt, Alle Menshen werden Brüder, wo dein sanfter Flügel weilt. ―An die Freude (Friedrich von Schiller)―
クリスマスも終わり、年も終わりに段々と近づいていた。そんな中、街中には第九が流れている。簡単に言うと、あの歌詞の意味は、「新しい時代の夜明けだ。元の輝かしい過去へと戻ろう。人類は皆、兄弟となる。」で、良いだろう。そんな歓喜を表しているのが、あの曲の歌詞なのだ。現在の苦しみから逃れ、過去の喜びへと戻る。でも、そんなことをしていたら、また、苦しみの世界へとそのうち戻るのではと思うこともある。何はともあれ、街は年末、そして新年へと向かっていた。僕はそんな街中を一人で歩く。誰かとこれから過ごす予定でもなく、ただ、一人でこの丸の内の街を歩いていた。そして、時折吹く冷たい風にあおられて、ビルの間の狭い空を見上げていた。
まだ、イルミネーションも灯っている東京の空には星は少ししか見えない。シリウス、プロキオン、ベテルギウス…。冬の大三角だ。こうして冬の空を見上げると、そこには他の星は見えてないのに、だんだんと見えてくる気になってくる。そうすると昔の思い出が僕の中へと流れ込んできた。
あれは僕の人生で二回目の受験の時だった。僕には、後輩がいた。彼女は、僕とは仲が良かった。彼女は星が好きで、宇宙も好きだった。僕も宇宙が好きだった。彼女とは、そのころ、僕の参考書などをあげたり、学校で話したり、塾で授業後に話したり、授業中に向かいの教室の時は目配せをしたりする仲だった。そう、そういう仲だった。何より、彼女は僕の受験期の心の安らぎの一つだった。僕は第一志望校に受かろうと必死だった。そして、落ちた。
話が逸れた。そう、彼女の話だ。彼女と出会ったのは、二年のころだったと記憶している。お互いのことなんて知らなかった。いや、わからない。彼女は僕を知っていたのかもしれない。でも、とにかく僕は彼女を知らなかった。彼女との初めての出会いは、彼女の彼氏で僕の後輩とのやり取りの中で会った。彼は僕に彼女を紹介した。彼とは以前から友人だったのだ。僕と彼を結びつけたのは音楽だった。そして、彼は僕と彼女を結びつけた。今、思えば彼女との出会いというのは本当に偶然にすぎなく、彼女には僕と出会う運命なんてなかったのかもしれない。一つ一つ思い返してみると、思い出したことがある。彼女は僕のことを知っていたということだ。まず、僕はとある委員会の委員長をしたことがあった。委員長は、アリーナの壇上の上で、話をしなければならなかったのだ。そのとき、彼女は僕のことを知ったのだろう。そして、その後彼女と僕は出会ったのだ。
こう、紆余曲折あり、彼女と僕の物語は始まり、いつの間にか終息を迎えていた。
そうか。星か。僕は星にはなれない。周りのダークマターにすらなれないのかもしれない。強いて言うならば、そうだな。宇宙の外の空間と言うべきかもしれない。とにかく、僕はいくら星を求めて、この沢山の星の中から手を伸ばしても、届かないのだ。
結局、僕はその宇宙を見上げる事しかできないみたいだ。そんなことを考えながらしばらく空を見ていた僕は、赤いレンガが象徴的な駅近くにある郵便局の建物に向かって歩き出す。今できることは歩き出すことだけかもしれない。時たまに呼び止めるセールスたちを振り切って、僕は逃げるように、この年末の夜を過ごしていた。