剣を取り戻せ! (1)
紙をばらまいてから数日が経った。
「……本当にアレで依頼人が来るのか?」
「やるべきことはやったっす。後は待ちましょう。果報は寝て待てっすよ」
片桐は寝っ転がって本を読みながらそう言った。時々ぐふっ! だの あはは! だの笑い声が聞こえてくるので恐らく漫画でも読んでいるのだろう。……この世界に漫画あるのか?
こっちはすることもなく退屈なので、片桐に話しかけてみることにした。
「そういや片桐。お前の書いた広告読んだけどさ、便利屋の名前勝手に決めてたよな」
「あー便利屋ホームズのことっすか? 二人とも元探偵でホームズのように事件を解決するから便利屋ホームズ。我ながら良いセンスっす」
「へぇー」
実は結構気に入ってる。が、褒めて調子に乗られても嫌なので黙っておくことにした。
「じゃあ家の前に看板でも立てといたらどうだ?」
「なるほどっす。じゃあ早速──」
コンコン
すると突然ノックの音が聞こえてきた。
え、ほんとに来た。
片桐は目を光らせて口をパクパクさせながら扉に指を指している。依頼人来たぁ!! とでも言ってるのか?
更に片桐は扉の方を向いたり俺の方を向いたりするのを繰り返している。
「……いや早く出ろよ」
「分かったっす。ん、んん……は、はーいどちら様っすかー?」
そう言いながら片桐は扉を開いた。扉の方をちらっと見ると、そこには屈強な体で背中に剣を差した180センチはありそうな男が立っていた。
「広告の紙見て来たんだが。ここが便利屋で合ってるのか?」
「いかにもっす! さぁどうぞ中へ」
片桐は男をこの家に上げた。というか場所あんな紙でよく分かったな。
「じゃあ後は桜井さんお願いします。慣れてるでしょ」
「俺かよ」
俺は男を座らせて話を聞いてみることにした。
「えーっと、とりあえず名前と職業を……」
「ラルフ・リーノだ。冒険者をやっている」
「どのような依頼でしょうか?」
「実は俺の大切な剣を取り返してほしくて」
「ふむ……取り返してほしいってことは盗まれたのですか?」
「いや……話せば長いんだが」
「構わないですよ」
と、営業スマイルをぶちかます。そう。相手の心を開くのが大事なのだ。心を開いてもらうと情報を沢山話してくれるようになり、依頼の成功率が格段にアップするのだ。
リーノはそれじゃあ……と言って話し出した。
───
あれはつい3日ほど前のことだった。俺がギルドにある酒場で酒を飲んでいた時に、チビでひょろひょろなモヤシみたいな奴が俺に話しかけてきたんだ。
『ねぇ君カッコイイ剣を持ってるね! ちょっと見せてよ!』
ってな。俺はガキが触るもんじゃねぇ、って言って追い払おうとしたんだ。するとガキが
『じゃあ僕と決闘してよ。勝ったらその剣ちょうだい』
って馬鹿なこと抜かしてきやがった。俺は無視して酒を飲んでたら
『あっれれー? 僕に負けるのが怖いのー? ねぇー?』
って煽ってきやがった。俺はもうブチ切れてな、表に出してボコそうとした。
……だが負けた。俺はあいつに一度も攻撃を当てれなかった。そして剣を奪われた! 許せねぇ!! 思い出しただけでもムカつくぜ!!
で、新しい剣を買ったがあれは駄目だ。使いづらい。もう俺はあの剣じゃないと戦えないんだ……
───
「ふむ、なるほどなるほど。つまりクソガキに煽られた挙句に勝負に負け、ボコボコにされ更に大切な剣まで奪われたと」
「くっ……てめぇ!!」
「ちょ、ちょっと桜井さん! お客さんを怒らせちゃ駄目ですよ!」
……話を整理しただけなんだけどな。
しかし見たところこの男は弱そうには見えない。こんな体してるし……その辺の人よりは絶対に強いはずだ。
そんなことを考えていると、片桐がリーノに話しかけだした。
「気になるのはその子供っすね。何か情報……名前とか知らないっすか?」
「確かな……サトウ? とか言ったかな変な名前だった。あいつはここ最近急にギルドにやって来た。詳しい情報はよく分からない」
俺は片桐と顔を見合わせた。
「サトウ? ……佐藤ってまさか」
「転生者っすねこれ」