表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Crescent  作者: 藍和
第一章「表世界編」
17/18

第十五話「裏世界の管理者」



 火山迷宮の暑さとは一変して、緊張感のある冷たさが全身を包み込む。


 広間までの短い通路が、不思議と長く感じる。


 「表世界でヘリオスが眠っていた所まで後少しだな。」

 「眠ってないわよ。」


 扉が開く音が聞こえたのに寝てるわけ無いでしょと、口を尖らせて言葉を返してくるヘリオス。


 「ほら、無駄話もここまでよ。」


 広間の光が漏れる出口が迫る。暗さに慣れきった視覚しかくでは、その入口が白い壁のようにさえ見えた。


 「『管理者』ってどんな方なんだろ。」

 「ヘリオスの知り合いなんだろ?なら、安心できると思うけど。」

 「ふふっ。きっとビックリするわよ。」


 ヘリオスが小さく笑ったのを最後に、三人同時に光の壁に足を踏み入れる。


 「うっ……。」


 眩しさに目を焼かれ、視界が空白に包まれる。

 昨晩とは打って変わって、煌々《こうこう》と輝く太陽が広間全体を照らしている。

 視覚を失っても、両腕に感じる柔らかい感触が、二人がそばに居ることを教えてくれている。


 徐々に明るさに目が慣れ始め、世界が色を取り戻していく。

 それにつれて金色に輝く何かが、広間の中央にたたずんでいるのが見えて―――



 「なっ……。」



 ―――巨大な金色の龍だ。



 ヘリオスの龍の姿にとてもよく似た守護龍しゅごりゅうが姿を現す。

 ヘリオス(龍)との違いは色だけではない。頭の上に大きな角が二本生えているが、ヘリオスは一本だった。


 そして何より、瞳の色が違う。


 ヘリオスは太陽のように強く輝く瞳だったが、この金色の龍の瞳は青くんだ瞳。


 よく見覚えのある美しい輝き―――













 ―――まるで、人形エンミュの瞳にそっくりだ。












 不思議とそう思ってしまい、無言でその瞳を凝視してしまっていた。




 「遅かったじゃないか。」




 金色の龍が頭を持ち上げながら低い声を発する。

 こちらを見下ろす神龍の威圧感は恐ろしく、思わず背筋が伸びる。


 「ごめんね。ちょっと一悶着ひともんちゃくあったの。」


 ヘリオスが一歩前に出て、神龍と対峙する。


 「ヘリオス待ちわびたぞ。ん?その格好と口調……。後ろの二人は神族なのか?」

 「ん~。そんなところかしら。」


 「誰だ………えっ。」


 首を伸ばして俺たちを上から覗き込んだ途端、頓狂とんきょうな声をあげる。



 「セレン君とヘカーテちゃんじゃない!」



 突然金色の龍は、威圧感のある低い声とは対照的な明るい声を出し始める。


 「そういうことなら……。」


 神龍は翼をたたみ、首を縮めてその場で丸くなる。


 (まさか・・・。)


 龍が瞳を閉じた瞬間、眩く発光した。




 太陽に逆らうように広場を照らす光が収まると、龍の丸まっていた場所には金髪の美少女が立っていた。


 (やっぱり・・・。)


 案の定、裏の守護龍も愛らしい女の子に姿を変えた。


 長い髪を左右で二つに結び、元気に揺らしながらこちらに走ってくる。

 容姿は驚くことにヘリオスと瓜二つで、身長も同じくらいに見える。髪の色と瞳の色が違うくらいだ。


 「ひっさしぶり~~!!」


 出合い頭に凄まじい速度で突進してくる少女。


 「うおぉっ!?」

 「姉さん!?」


 捕まえようと間合いを見計みはからって手を伸ばしたつもりだったが、少女は腕に捕まるよりも速く俺とエンミュのふところに飛び込んできた。


 「むふふ~。大きくなったねぇ~。」


 俺たちの胸元から、あの青い瞳が見上げてくる。

 ん?今、エンミュが姉さんって呼ばなかったか?

 金髪の美少女は、無邪気な笑顔を浮かべながら話しかけてくる。


 「ん~?捕まえられなかったのが不思議?」


 俺の表情を読み取ったのか、疑問を口にしてくる。


 「それもですけど、俺達のことをなんで知ってるのかなと思いまして。」

 「あはは忘れるわけ無いじゃん。何言ってるの~。」


 少女は一層笑い声を大きくしながら、話を続ける。


 「さっきのはねぇ。『陽炎かげろう』だよ。セレン君に見せるのは初めてだったかな?」


 陽炎。意図的に周囲の空間を歪ませて、虚像を認識させたといったところか。それよりも、俺たちのことを知ってる―――


 「よく似た技を、貴方は知ってる筈よ。」


 俺が少女に声かけるよりも早く、ヘリオスが話に入ってきた。


 「……桜舞おうぶか。」


 俺は言葉を飲み込み、エンミュを一瞬見てから答える。ヘリオスはゆっくりと頷き、陽炎について説明してくれた。


 「桜舞は気の流れに乗る体術で、相手に認識を錯覚させる技よ。でも陽炎は空間そのものに影を落として自身の姿を隠す魔術なの。」

 「残像が見える(・・・)のか、創り出して見せる(・・・)のか…ってことですか。」

 「そうそう!似ているけど全然違うってこと!」


 得意げに腰に手を当てる金髪の少女。


 「教えていただきありがとうございます。ところで、俺のことを知っているようですが―――」

 「待って。」


 またもやヘリオスが話を遮ってくる。


 「私から説明するわ。現状の確認と今後の方針についても話があるの。」




















 まずヘリオスは金髪の少女にエンミュについて話してくれた。


 説明が終わると、少女は涙を浮かべながらエンミュと抱き合っていた。

 この様子を見ると、エンミュが敵対心を抱いていたのはヘリオスだけのようだ。


 そして現在の世界の状態について語り始める。


 金髪の少女は話を聞くや否や立ち上がり、両手を胸の前で握りしめて、何かを詠唱えいしょうし始めた。

 ヘリオスいわく「表世界の参照を中止している」らしく、しばらくすると人差し指と中指を立てる『ピースサイン』という成功の合図をしながら話に戻ってきた。


 次に、金髪の美少女について話してくれた。

 彼女の名はセレーネ。有名な伝説『神話戦争』にも出てくる月の女神だ。

 ヘリオスとは姉妹関係だと言うので、エンミュが姉さんと呼んだのも納得がいった。


 「私が長女。セレーネが次女。エンミュちゃんは末っ子よ。」


 ヘリオスの言葉に、何か引っかかりを覚えた。


 「待ってくれ。三人姉妹じゃないだろう。少なくとも、もう一人居るはずだ。」


 俺の発言で、場に重い空気が流れ始める。


 しかし、エンミュは先刻せんこく「姉様を見殺しにした」と言っていた。

 最初はセレーネの事かとも考えたが、呼び方が「姉さん」なところや、セレーネと話す表情を見てみても、彼女たちの間に暗い過去があるようには見えない。


 「……ええ。居るわ。」

 「……エンミュちゃん。」


 姉である二人が心配そうな顔でエンミュを見つめる。

 彼女にとっては、あまり思い出したくないような記憶なのかもしれない。

 それでも俺は、エンミュの過去に何があったのか知りたかった。

 口元をきつく結んでいだ彼女は、目を閉じて深呼吸した。


 「大丈夫。私はエンミュ(・・・・)だから。」


 目を開き、凛とした表情で言葉を続ける。














 「セレン君に話します。私達の過去のことを。」







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ