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Crescent  作者: 藍和
第一章「表世界編」
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序章

 俺はエンミュと共に、眠りの扉の奥へと進んだ。


 火山の中とは思えないほど空気は冷たく、まるで別の世界に来たかのような錯覚がした。

 少し進むと壁が広がり、空の見える大きな空間が現れた。

 その月明かりに薄く照らされた広場の中心には、美しく輝く鱗を全身に羽織った白銀の龍が、まるで展示物のように眠っていた。


 「綺麗だね・・・」


 エンミュの呟きに対して首で肯定しながら


 「ああ。伝説の通りだ。」

 「これでさよならかぁー。ちょっと寂しいかも。」


 言葉とは裏腹に嬉しそうな笑顔を浮かべるエンミュ。腰に巻き付いている妖刀の柄を、そっと撫でようと手を動かした時。


 ブゥン!


 手が柄に触れた瞬間、白銀の尾がエンミュを広場の端まで吹き飛ばした。


 「エンミュ!」


 俺は叫びながら剣を抜き、白銀の龍と彼女の間に飛び出した。


 「どうして・・・!」


 既に目を覚ましている白銀の龍は俺を見て少し目を細め、ゆっくりと体を持ち上げながら口を開いた。


 「生きていたか。」


 俺たちに奇襲を仕掛けたとは思えないほど優しく、温もりのある声だった。

 言葉の真意を理解できずにいると、背後からエンミュの声がした。


 「久しぶりだっていうのに、いきなり殴るとはご挨拶だねぇ。ヘリオス。」


 後ろを振り返ると妖刀【黒真珠】を盾に、尾の一撃を耐えたエンミュが立っていた。


 「別れの挨拶は随分前にしたはずなのだがね。ヘカーテ。」


 体を起こした龍は見上げる程大きく、鈍く光る三日月を背に太陽と同じ色をした瞳でこちらを見下していた。

 対するエンミュは様子がおかしい。明らかに声色が変わっている。それに・・・


 「エンミュ?」


 瞳の色が紅いのだ。いつもは透き通ったサファイアブルーの瞳が今は澱んだルビーのように紅黒い。


 「少年。その娘にもう自我はない。完全にヘカーテに操られている。」


 全身に鳥肌が立った。その名はこの世界に残る伝説の中で最悪の悪魔の名前だ。


 どういうことだ。一体何が起こっている。エンミュがヘカーテ?白銀の龍が突然攻撃してきたのもそれが理由なのか?


 「時間はない。娘を助けたいのなら、あの刀を折る他あるまい。」

 「黒真珠を?あの刀は何をしても傷一つ付かなかった。」

 「あの刀身はヘカーテの外殻だ。身体に巻き付いている忌々しい薔薇から、娘の生命力を吸っているのだよ。」

 「でもどうやって・・・。」


 あの妖刀【黒真珠】は、この冒険中に刃こぼれ一つしたことは無かった。


 「フン。私の刀を壊す?できるならやってみるといいさ。」


 不意にヘカーテが霞んで見えた。瞬間。

 キィン!と甲高い金属音が頭上で響いた。


 続いて広場の壁や床を蹴りながら妖刀を振り回すヘカーテと、それを尾や爪を使って退けるヘリオスの攻防が続いた。

 再びお互いが距離を取り、膠着こうちゃく状態となる。


 「随分消極的じゃないか。その様子じゃ、お主が死ぬのも時間の問題じゃな。」


 ヘカーテの挑発的な台詞に対して、ヘリオスは沈黙で返した。

 明らかにヘリオスは、エンミュの身体を傷つけまいと戦っている。さらに、妖刀の攻撃を受けて白銀の鱗が処々(ところどころ)傷付いていた。


 再度剣戟が始まり、ヘリオスが防戦を強いられる戦いが続いた。

 このままではエンミュを助けるどころか、ヘリオスが倒れてしまう。守護神を失った世界は均衡を保てなくなり崩壊するという。


 エンミュの体を傷つけたくないという自身との葛藤の中、身動きを取れずにいた時。


 突然、ピカッと何かがヘカーテの耳元で光った。


 三日月型のデザインをしたピアスだ。元々は俺の両耳に付いていた月の加護が得られるというピアス。


 「エンミュ・・・。」


 左右対称のデザインをしたピアスが付いた左耳に触れながら、俺は決意を決めた。




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