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いちいちソレを聞かないで ―ツインスタンダード番外編―

作者: 稲多夕方


 女子3人は下校中、カラオケ店に寄った。

「よしよーしっ! 制限時間1時間30分以内に90点以上を出しましょう! できなかった人は罰ゲームで腹筋ね」

 彼女の提案で楽しげにストイックなトライアルが始まった。


 髪の長い少女が必死にJポップを歌っていた。必死に。

 飲食物持ち込み自由。彼女が棒状チョコ菓子の箱を開けた。

 ――ぺりぺりぺり。ばりっ。ぽりぽりぽり。

 そこで小柄な少女が、なんとなーく聞いた。

「ところでミナ。最近、アイツとはどんなわけなの?」

「ん? なになにアスカ、アイツって誰のこと?」

「アイツといえば、アイツしかいないわけでしょ。あんたのカレシよ」

「ちょっ! か、カレシの話し?」

「ええ、そうよ。最近どうなのかなーって。で、どうなの? 仲良くやれてるわけ?」

「えーっと、うんうん。まあまあ、かな」

「ん? なによ。もうチューくらいしたの?」

「……いや、あの、えっと……」

「なんか顔がすぐれないけど……。聞いた手前、すこしは相談に乗るけど? なんかマズイわけ?」

「いやいやいやあ、そういうわけじゃないんだけど……」

 そこで少女が歌い終えた。決めポーズ。

 91点だった。

「おおーっ!」「寧々香(ねねか)、さすが。恐ろしい子……」

 パチパチパチピューピューとその場で最上級の歓声が沸き起こる。

「ふー。点数が出てよかったよ。――あ、うち、ちょっと席を外すね」

「うん寧々香。いってらっしゃい」

 部屋を出てトイレに向かう少女を見送った。

「で、で、で、なにがあったわけ?」

「あ、アスカ、まだ聞くの? もう曲、始まっちゃうよ?」

「ちょっと休憩。あんま歌いっぱなしだと、声が出なくなっちゃうし。そしたら本末転倒なわけでしょ?」

「まあ、たしかに、そうかな」

「でしょー。だから、あたしの番、1回パスでいいから。だから聞かせなさいよ」

「え、ええー」彼女が完全な冷やかしに困っていた。

「どうせ付き合っていることは知っているんだし、今さらじゃない?」

「う、うーん? そうなのかなぁ……」

「冷やかし半分で聞いてあげるから、言っちゃいなさいよ」

「いやいやアスカ、全力で冷やかしてるよね?」

「でも少しくらいはアドバイスもできるわよ。なにかあったんでしょ? ちょっとうかない顔してたわけだし。言いなさいよ。友達でしょ?」

「うーん。それじゃあ――問題というほどでもないんだけど……」

 彼女が渋々と語る。



 すこし恥ずかしがるように彼女が話す。

「昨日、その、いっしょに下校したんだけど、帰りにちょっと公園に寄り道して、ベンチに座って、ちょっとお話ししたんだ」

「へー。なにを?」

「えーっと、だから、その、()()()って……」

「へ?」小柄な少女が眉をひそめた。「その、()()()って、なにを?」

「いやいや、わかるでしょ? アレ」

 そう言って彼女が手にした菓子を口に運んだ。

「ミナ。でもそこ、外でしょ? 公園でしょ?!」

「うん。そうだね。――でもでも、人もほぼほぼいなかったし、まいっか、って思って」

「思っちゃったわけなの?! ほぼほぼってことは、少しはいたってこと?!」

「それでそれで、彼のバッグを漁ってみたら、やっぱりその箱が出てきたから、彼のほうもその気があったんだなと思って、――

『いや、これはただなんとなく持っていただけだから! てか、人のバッグを勝手に漁らないでほしい件について!』

――とは言われたけど」

「ミナの声真似が、すごくうまい……。臨場感たっぷりで、なんかイヤ……」

 少女は顔をしかめ始めた。

「でもでも、持っているってことは、むこうもその気があったってことだよね?」

「え、う、うーん。まあ、そういうわけかもね……」

「でしょしょ? 私は彼もその気があったと認識しているの」

「……ええ。」

「それで、私は彼の方から、それを取り出したのね」

「……棒状の……?」

「ん? ええ、棒状の」

「…………」

「彼の持ってたの、極太のだったんだ」

「ご、ごくぶと!?」

「それで、私はそれをくわえて――」

「……」

「で、待ってるんだけど、ぜんぜんしてくれなくて。まあ、彼も照れてるんだし、それもカワイイかと」

「……」

「何度か我慢できなくて折れちゃうし……。それで、先端をちょっとだけしか結局――」

「ミナ」

 鋭い声でいった。

「ん? どしたのアスカ」


「もうやめて」


「え、まあたしかにすこしノロケぎみに話しちゃったかもだけど、でもでも、聞きたいって言ったのは、アスカの方で――」

「……ええ、そうね! そういうわけね! でもね。そういう話したら良くないことの分別くらいはなさいよ!」

「えっ?」

「それにあたしたち学生でしょ。そういうのは――……いや、人の常識に口出しする気はないわ。でもね、そういうことバラされたら、アイツだって嫌だと思うわけよ」

「でもそれは、アスカが聞きたいって――」

「ええ、そーね。だけどミナも倫理観てモノがないの? 人に話していいこと、悪いこと、それくらいわきまえなさい」

「あ、あすか?」

「もういいわ! あたし帰る。でもねミナ。そんなことだと、友達失くすよ? ――じゃあね」

 小柄な少女がカラオケルームのドアを勢いよくあけて、帰っていった。

「わっ!」ちょうど出ていっていた少女が戻ってきた。「え、どうしたの?」

「わるいけど、先に帰るわ。じゃあね」

 小柄な少女は去ってゆく。

「みっちゃん。なにかあったの?」

「えーっと、うんまあ、どうしよう……」

 彼女が途方に暮れた。




 自宅自室にて腹筋の最中、彼女は通話していた。

「そういうわけで、怒らせてしまったのです、はい」

『なるほど。で、なんで僕に電話?』

「いや、アスカとの話の途中で、『アイツだって嫌だと思う』って言われて、確かにそうだなーって反省したの。だから、謝らないといけないかと思って。ごめん」

『ああ、そういうことか。――まあ、たしかに、そういうプライベートなことをバラされるのはどうかと思うけれど、まあアスカさんなら付き合っていることを知っているんだし、それくらいなら……』

「あ、うん。ありがと」

『でもさ、その感じだと結構に強引――というか、アスカさんの感じだと、強めに聞かれて、断りづらくて話してしまった、みたいな感じなんだろ? 皆元(みなもと)さんは悪くないんじゃないか?』

「ええ、まあ、そうなんだけど。怒らせちゃったから」

『んー、でもアスカさん。それくらいで怒るかな?』

「そうだよね……」

『あ、そろそろ病院に着くから、電話切るね』

「ああ、うん。真斗(まこと)くん。最後に言わせて」

『ん?』


「――がんばって。帰ってきてね。私、まってるから……」


『決死の覚悟で戦場に赴く兵士を見送るような雰囲気を出さないでもらえますか。割とマジで怖いので。さすがに歯医者で死ぬことはないと思うけれど……』

「あはは。そだね。歯医者では死なないよ」

『あ、そうだ。アスカさんの件なんだけど』

「ん? なになに」

『――ん。あ、でも、あえて言うまででもないことではあるけど……』

 彼が、一応いった。

















 小柄な少女は自室でベッドに寝そべっていた。

 こんこんこんこん、と。

 ドアをノックする音が聞こえた。

「姉ちゃん。電話」

 弟の声だ。

 無視。

 そういえば、スマホを居間に置き忘れていたかもしれない。

 ――ま、いいわ。どうせ……

 どんどんどんどん、と。

 ドアを強打する音がうるさい。

「姉ちゃん! 電話だって」

 弟の大声だ。

 無視。

 どかーんどばーんどぎゃーんどんがらがっしゃーん! と。

「ねえちゃ――」

「やかましいわぁああああああああああああああ!」

 小柄な少女がドアを蹴り開けて、弟は吹き飛んだ。




 電話はやはり彼女からだった。

「もしもし、ミナ?」

「もしもしもしもしもしもしもしもしももしもし! アスカ!?」

「ええ、あたしなわけだけど。まあ落ち着きなさいよ。あと『も』の方が1回多いから」

「ええ、はい。そだね。――でも、よかった、電話に出てくれて」

 彼女は一呼吸入れる。そして話す。

「その、まずは、不快にさせてしまったみたいで、その件を謝りたくて、ごめんなさい」

「いや、いいわ。あの件は、あたしから聞いたことでもあるし。でもミナなら、どの辺りまで話していいかという、分別くらいできているモノだと思っていたから」

「…………」

「で、それだけ?」

「あ、いいえ。あのですね。それから確認したいことがございまして」

「……なによ?」

「カラオケの時に話したこと、もしかしたら勘違いがあるかもみたいだから。訂正というか、認識の確認をしたい、です」

「認識の確認?」

「うん。そうですそうです。例の公園での行為についてですが、あの、その、私と彼が、『なに』をしたと思っています?」

「え、な、なにって、そりゃ、カレシカノジョが、人気のない公園で、ってそれは、その、セッ――」

「ストォォォォップ!」彼女が少女の言葉を止めた。

「な、なに?」

「やはりやっぱり、勘違いがあったようでございます……」

「え、勘違いって、なによ。どんなわけ」

「……違うから」

「へ?」

「わ、私と彼は公園でセ――……ごほん。」咳払い。「とにかく、そーいう行為をしたわけではなくてですね」

「まあ、未遂だったわけだしね……」

「それもそうなんだけど、そうじゃなくて!」

「そうじゃなくて?」



「私達が行ったのは『ポッキーゲーム』だから!」



「……はい?」少女が気抜けした返事をした。

「だからだから、ポッキーゲーム」

「…………」

「ちょうど話していたときに食べていたし、それで示したし、伝わっていると思ったんだけど。……ほらほら、私がみんなに食べていいよ在庫処分だからって、提供したよね?」

「…………」

「えっと、あのですね。ポッキーゲームというのは、棒状のチョコレート菓子の端と端を互いにくわえあって、同時にすこしずつ食べてゆき『おいおいこのままじゃチューしちゃうぜ? いいのかよグヘヘヘヘ』という感じに度胸を試すゲームでして――」

「いや、知ってるから! 知ってるわけだから!」

 誤解は解けた。


「いや、あたし、知ってたわけだから『ポッキーゲーム』? ええ。そーよ、そーいうわけよ。知っていたわけだから!」

「えっ! アスカ、知ってたの?」

「ええ、ええ。知っていたわよ。だから友達に、カレシと『ポッキーゲーム』がどーのこーの会話をフるのは倫理的にどうなのか、ということで、ちょこっとだけ怒ったわけよ」

 チョコだけに、と少女が無駄に付け足した。

「えっ! ちょこっと?」かなり怒っていた気がするが、それに先ほどの発言で――「でもでもアスカ、さっき――」

「いいえ、あたし、知っていたから!」

「あ、はい。せやね」

 そういうことになった。


「でも、わかったわ。なるほどね。『ポッキーゲーム』でチューしてくれなかった、と。そういうわけね」

「あ、ああ、はい。そういうわけでござる」

 照れ隠しで口調がおかしい。

 だがまあ彼にも、虫歯なので移したら悪い、という大義名分があるのだが。

 そもそも、相談するような事柄でもなかったのだが、少女が聞いてきた案件だった。

「なるほど。それならミナ、アドバイスがあるわ」

「え、」


「もう、ポッキーとか関係なく、チューしちゃったらいいわけじゃない?」


 倫理観どこいった、おい。

 彼女はそんな感じのツッコミをした。

お読みくださりありがとうございました。

お疲れさまです。


これ、ミステリでいいのか?

そんな疑問の声が自身の内から湧いてきますが、いいのです。

これはミステリです。謎です。ヒントはいろいろあったわけですし。

ええ、はい。もう一度。


これはミステリです!



時系列? 

あれです。――こまけえこたぁいいんだよ! と。

そういうやつです。



あと一応、弁明しますが、

お菓子会社のまわし者ではありません。

でもチョコレートはおいしいとおもいます。



あ、よろしければ、本編もどうぞ。

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