第3話「」
ハッと口元を抑える。
私いま鳥の巣って言った?初対面なのに失礼だよね、なんて内心焦っていると
別々にあった両手を攫われ、胸の前で熱く握られいた。驚いて顔を上げると髪の毛で余り見えない目元が、とても真剣で、口元が少し笑っている。
「小説...」
「?」
「書くの手伝ってくれないか?あんたの言葉は俺のココに沁みて、力になって、良いの書けそうだ」
「...え?」
手伝う?何を...?
「俺の書いた作品、担当よりも先に見てほしいんだ」
そして、原稿だー!と声をあげながら鳥は巣ごと旅立ってしまった。握られた手が暑く、その感覚が手の中に残り、どっちの熱かを誤魔化し両手を首に当てる。
断れなかったのは勢いに呑まれただけかもしれない。不思議と嫌な気分ではなかったのは何でだろうか
「眠そうな顔。おはよう」
「...おはようございます」
水曜日、朝の6時。
学生にとっては早めの起床時間。葬儀後初の登校日で緊張していたのか目覚ましより早く起きてしまった。
欠伸をしながら雨戸を開けていたら、アパートの窓から鳥の巣さんが煙草をふかしながら手を振っていた。今日は灰色の着物を着ている。昨日も灰色の服を着ていて灰色が好きなのだろうか
「今日学校何時に終わるんだ?」
「5時限までしかないけど買い物しておきたいので、16時前には家着きますよ」
「今日、1本見てほしいものがある。帰ってきてからそっち入らせてもらうよ」
それじゃまた夕方にと返事をしお昼のお弁当を作りにキッチンへ向う。廊下を歩く度軋むフローリングが年代を感じさせる。
明治時代から立っているだろうこの平屋の一軒家はおばあちゃんのお母さん、祖母から受け継いだ大切な家。
所々リフォームで強度を増して新しくしているがやはり明治に建てたものだけにガタが来ている所もしばしば
古くて薄暗くて怖いという人もいるけど、私はこの畳の匂いも味のある雰囲気もとても好き。
釜風呂だったお風呂も、今やきちんとリフォームして中庭が見える窓がついたお風呂とちょっとリッチな感じにしている
「お母さんいってきます」
仏間のお母さんの写真の前にある緑色のお線香が白い煙をたてながら燃え音もなく灰を落とす。