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私の好きなセピア色  作者: 園
第1章
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第2話「その男、紙にまみれた虫」



世界観を書くって難しいですね。







度がないレンズなのに、部屋をぐるっと見渡すと魚の目から見える世界のように歪んでいる。




「〜ーー!!ー!」


庭の、というより隣のアパートから怒っているような声が聞こえさっきの窓に目をやる

丁度人が居るようで人影のシルエットが2つ見えた。




「頼みますよ先生!!次こそは!」

「ダーッ!もう分かったからさっさと部屋出てってくれ集中出来やしない!俺はこれを今日仕上げなきゃいけねぇんだ」


煙草を吸いながら片手に紙を持っているまるで鳥の巣なんじゃないかってぐらい髪の毛がウェーブしている髭面の男が窓を開けた。

灰色のスウェットを着ていて、少し見える部屋には本が積み重なっている。一人暮らしなんだろうか?

男が人を追っ払っているのをジッと見過ぎたのか、ゆっくりとこちらを振り向く。



「....こ、こんばんわ」

「...」



返事がなく固まっている様にみえた。

そりゃそうか、真っ暗な部屋から制服着た髪の長い女が出てきたらオバケだと思うよね




「お兄さん今日引っ越してきたんですか?今迄電気付いてなかったし。私はここに住んでいるんです。お隣さんですね」



そっと部屋の電気を付けてこっち側も見えるようにしてみるとあぁ、よろしくとポツリと呟くように言った後、焦った声が聞こえた。


え、と声をあげながら上を見ると

夏なのにまるで雪のように空から紙が降ってきている。





綺麗。


空は暗く、後ろから光が当たり、紙だけが光ってヒラヒラと降ってくる光景に思わず千代は、空に手を伸ばした。

掴もうとするとヒラリと避けられ、掴もうとしない時に寄ってくる。

やっと掴めたその紙に目をやると原稿用紙なんだろうか、格子柄の線が入っている



「わ悪い!今取りに行く!」


焦った男の人と手に持っている原稿用紙を交互に見つつ、頷く。

そういえば鳥の巣のお兄さんの部屋に居た人が"先生"って言っていたけど、学校の先生なんだろうか?作文の宿題?

子供が書いたような字は無く、達筆で蛇のような字が羅列している。



「勝手に入ってすまん。そして落としちゃって悪いな」


拾い集めながら待っていると、しばらくしたらあのだらしない格好の鳥の巣のお兄さんが申し訳なさそうに頭を掻きながら庭に入ってきた。



「これで全部かと。珍しい体験出来たので平気です これ宿題ですか?」

「助かった。宿題?...ああ、これは俺の商売道具なんだ」


集めた原稿用紙を渡す時、顔を見上げる

近くで見てもクマが凄いのか、はたまた髪の毛で目元が暗いのか分からないほど前髪が長い。



「商売道具?」

「そう。商売道具。俺小説家やってるんだよ」



得意気そうに原稿用紙をトントン軽く叩きながら口元を上げている。

暗い夜だと不気味ですよ。



「だからこんな蛇みたいな綺麗な字が並んでたんですね 子供が書いたにしては不思議だと思ってました」

「...読んでみるか?」

「え?」


困惑したが真剣な表情でこっちをジッと見つめられ断れず、縁側に座って渡された原稿用紙を見つめる。

人が書いたばかりの作品を読むってなかなか無い体験で緊張で少し喉が渇く

読ませてもらいますねと声をかけると、唾を飲む音と共に紙が鳴る。















80ページ。多いようで少ないこの枚数でこの鳥の巣さんは何を伝えようとしているのかが良く分からなかった

内容は工事現場のおじさんとOLの恋物語。

工事中、休憩しているおじさんが自動販売機で水分を買っている時に通りがかったOLさんに一目惚れし、その心情、葛藤が描かれていた。




ただ。




なぜこんな暑苦しいんだろうか。夏だから?今の気温が暑いのかこの小説が暑いのかがわからない。そして感想を期待している隣に座っている鳥の巣さんの目が痛いほど暑くて怖い。





「どう?どう?今月最高に出来が良くてまだ完結はしていない小説なんだ」

「ど....どうなんでしょうかね?」

「感想を聞かしてくれ。正直で言い」


クマにかこまれた目がキラキラと輝き、さあさあと身体を詰め寄せて来た。


身体を引かせながら困惑したこの顔は見えないのかこの人



「しょ正直でいいんですよね?」

「もちろん」



「....つ」

「つ?」


「つまらない...暑くて内容が入ってこない...」


さっきまでのキラキラの眼差しは石のように固まってフリーズした。



一気に正直に言ってしまった罪悪感が押し寄せて来て思わず額を打ち付けるほど強く土下座をする



「すいません!すいません!」

「いいんだ...俺は才能ってのものがないんだ...」


ああ月が綺麗だなーと出てもいない月を見上げる鳥の巣さん。ヤケになって逃避してないか?




「ーーでも」



消しゴムで何度も消したんだろうか、筆圧で色んな文字を重ねて文字を連ねている

文章は変でもこの人の書く字はとても情があり必死に書いたんだろうなという事は伝わってくる。




「鳥の巣さんの字、わたしは綺麗で好きですよ」






チリンと風鈴が鳴いた



ーーその男、紙にまみれた虫。






天パで悩んでいた幼い頃なんですが今は縮毛矯正でサラッサラです

目指せロングヘアー。




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