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私の好きなセピア色  作者: 園
第1章
1/3

第1話「白と、見えたのはセピア色の世界」

初めての連載投稿。

気に入って見てもらえたら嬉しいです








普通に。



ほんとうに普通に。




「あぁ。そんな人居たな」ぐらいな認知をされ静かに過ごしてきていた千代にとって、この日がどれほど"普通"ではないかが計り知れたものではない。


終わりの鐘が鳴り、皆一斉に立ち上がる。

椅子の引きずられる音や、話し声。湧き溢れるように出てくる雑音。




「菊川さん。すこしお話いいかしら」


帰りの身支度を整え立ち上がった時、担任の先生に呼び止められ足を止める。

ここでは何だと職員室へ連れていかれるがその時の先生の顔、凄く困った顔をしていて不思議に思っていたのを思い出す。



もうすぐ夕方16時半。

赤い陽が指し、先に職員室に入った先生のシルエットが見えたが、逆光で顔もよく見えなかった。




「急にごめんなさいね。菊川さんのご家族から電話が入ってーー・・・」






音が消えた。



否、脳が判断を遅らせたんだ。




嘘だ。


その言葉は喉を通らず身体は震え、足は大きな音を立てて学校を駆けだした。


黒いセーラー服のスカートが捲れあがっても、赤いスカーフが顔に当たっても気にせずに、近くの総合病院へ向かった。

菊川という名を告げ通されたのはアラームが響く真っ白な病院の個室。


耳まで届くこの心臓の音とどっちがうるさいんだろうか







「っお母さん、?」



ーー菊川さんのご家族から電話あって、お母さんが倒れて病院で心肺停止の状態と連絡あったの。



先生の声が頭の中で聞こえた。

震えた、悲しい声。


白い服、好きでよく着ていたお母さん。

こんな白い服は見たくなかったな





普通で普通なわたし。普通を受け入れすぎた私の中の"普通じゃない"が溢れ、溢れて、こぼれおちた。







お父さんは登山家で色んな国を渡り歩いてたらしいけど、未だに行方不明。顔なんて写真でしか覚えていない。

お父さんがいなくなって私が小学生になってからもずっと1人でお母さんが私を育ててくれて今じゃ珍しくもない片親ってやつ。


お母さんもこんな寂しい1人を味わってたのかな

お腹の中にいる私と一緒に。





葬儀が終わった。あれだけ眩しく心臓を刺すような赤い陽は、いま落ち着いた青黒い空になっていた。


制服のまま畳の上を寝っ転がり、焼けた煙の匂いをかき消すように、い草の匂いを肺いっぱいに取り込むように深呼吸した。


暑さを和らげる風鈴がヒグラシと一緒に鳴いている。









「電気ついてる...久しぶりだな」


この畳の部屋から見える、塀を隔てた先に見える2階建てのアパートの一番端にある窓。

ずっと住居者募集中の看板が掛かっていたのに今日入ったのだろうか、電気がついている。半年ぶりではなかろうか。





まあ、そんな事より今日の夕飯をどうしようか、そして朝ごはんの食材も買わなきゃ冷蔵庫がスッカラカンで学校のお弁当も何も無い。


重い腰をあげ、財布を取り出そうとタンスの引き出しを開ける。

いつものようにそこには財布や印鑑、通帳、と貴重品がまとまって入っていたが

そこに見覚えのない四角い筒状の白いケースがあった。








「メガネ...?」



取り出してみると中身は少し大きめな、アンティークを感じさせる古めかしい茶色のメガネがあった。少しダサくて味がある。

お母さん目悪くないのに何でここにメガネがあるんだろうか








少しだけ、かけてみたら見える不思議な世界。



すべてが色を無くしたみたいに色あせている。





ーーーーー白と、見えたのはセピア色。









身内が亡くなる度涙が止まらない私です。

人間、一番最初に忘れてしまうのは亡くなってしまった人の声だそうです。



次回、10/31の18時に投稿予定。

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