第8話 奥原時太郎②
時太郎の能力は、幼い頃から少しずつ発現していった。最初の片鱗は、5歳のころ表れる。家のドアノブが2つになっていた事で、母親が気付き父親に相談。この他にもあった事象から、能力がどんなものであるかを割り出し時太郎に伝える。その時は、時太郎も気付いておらず無意識だったと言う。その後、幼稚園で園児とオモチャの取り合いになった際に、そのオモチャを2つにして2人とも遊ぶことに成功。そしてオモチャ箱に入れる際にぶつかり、1つになったのを見て新たな性質に気付いた。これ以降は、無意識の発動はなくなる。小学校三年生の時に、親との喧嘩により家をもう1つ作り別居しようとするが、それを作る空間がなかったために失敗。このことから、空間が空いてないと存在させられないことに気付く。それからも、便利なためよくこの能力を使用した。
ところが、ある日の放課後。忘れ物を取りに教室に戻った際に、ついに聞いてしまった。何度も家に遊びに行ったことのある友人、その頃時太郎が好きだった娘の会話を。
「なぁ、時太郎ってよ。なんか能力?あんじゃん?なんかさ、キモくね?」
「そうだよね。てか、あれ使えば学校サボれんじゃん、って思ったわ。落武者だっけ?」
「…影武者のこと?」
「そうそれ!あははっ、馬鹿だねぇ私!」
時太郎は、それをドアの外から聞いていた。妙に冷静になっていた。泣くことも、怒ることもなく冷静に、ドアから入った。
「俺の噂?盗み聞きは良くないと言うけれど…自分の話しされてちゃ入りづらいもんなぁ」
そう言いながら2人の方にポンと手を置く。
「前からな、やってたんだけどさ。こないだな、ダンゴムシと蟻を俺の能力で増やしたんだ。両方一匹づつ…俺の能力は、既に何かあるところには、発生させられない。だけど、同時に同じ場所に発生させればどうなる?結果はな…キメラの完成だよ!ダンゴムシと蟻のキメラ…キモかったぜ?」
2人で同じことをした。真ん中でサッパリ別れてるのではない。鼻は女子の、右目は友人の、左目は女子の、下唇は女子の、上唇は友人の、下は友人の、歯は女子のと言った具合でグチャグチャに混ざる。上手くやれば阿修羅も作れる。
「ヒィィ‼︎」
「気持ち悪いよなぁ?俺はこの感覚だったぜ?ドアの後ろでなぁ!『吐き気』するだろう?俺も吐き気がしたんだ。」
時太郎はこの出来事で、心の何処かに常に“冷え切った自分”がいることを感じるようになった。
小5に進学した時、桜木早苗が転校してくる。可愛いと感じながらも関わりたいとも思わない。全ての人を、どうでも良く感じている時期だった。そんな、時太郎に何を思ったか早苗は積極的に関わってきた。勿論、変な噂のある人物ではあったのだが、何かを感じ取っていたのだった。
そして小6、日光修学旅行にて同じ6班になった。3組6班は、クラス行動でも、全体行動でも1番後ろを歩くことになった。
「ここは〇〇といい…」
ガイドの話をガン無視して、森の方を見ると何かがいた。そっちに興味を出し、担任の隙をついて駆け出す。早苗はなぜか、それを追ってしまった。