第1話 シャベル持ちのジュン
ここは、都会とも田舎とも言えない街[藤川町]。海に面しており、夏にはサーファーがそこそこ集まる。一見穏やかで目立った事件もない町だが、実はこの町、能力者が何故か多い。悪魔の実が多く集まるわけでも、弓と矢があるわけでもない。能力とはいわゆる特殊能力のことで、持っている人は割といるが一般的には知られていない。その要員としては、持ってない人からすれば理解不能な領域にあるせいだ。また、この能力はその人の性格が反映されるため、同じ能力を持つものはいない。
そんな町に数ある中学校の中でもかなりの不良学校、羽沢中学校の、保存林で一年の男子が三年の不良に絡まれている。
「私の名は、春影涼星です。羽沢中学校の一年生で放送委員に所属しています。彼女はいません。自宅は、藤川町東部の住宅地にあります。毎朝、庭の金柑を見るのが日課です。そして、学校に金は持ってきていません。」
自己紹介と、理解不能な宣言を聞かされ苛立っているのはこの学校を牛耳る不良グループ[金曜夜九時]の幹部、シャベル持ちのジュンこと、林元順次だ。ジュンは、額に青筋を浮かべ涼星を睨みつける。
「あ?テメなめてんのか?」
「定番、というかありきたり…ひねりがないな」
生ゴミを見るような目でジュンを見ると、右手をジュンの下顎にソッと添える。
「【Mud Love】 邪魔者だからこそ、支配する。」
涼星の能力【Mud Love】は、発動中に触った生物を支配できる能力。一度に操れる数に限りはないが、同種類の生物でないといけない。また、異なる命令を出すことは可能。
ジュンは、くるりと向きを変え自分の教室に戻った。
晩春の少し暑い保存林で、不良を容易く退けると涼星は手帳を出した。そこには不良グループに所属する生徒の数名の名前が書かれている。どれも、涼星の能力で支配されているものだ。今の所、六人。今後も増えそうである。
「不良グループ[ゴールデン・タイム]のボス、優等生どもの集まり[生徒会]の生徒会長、どちらも僕がなる!」
林元順次の名を手帳にかき入れると、教室に戻った。