彼女を怒らせてしまった
失敗しませんように、と僕は思いながらエルザに魔法を使おうとすると、ミルフィが、
「エルザ、こんな得体のしれない魔法を受けるつもりですか?」
「良いじゃない、無害そうだし」
「本当に無害かはわからないんですよ!? 」
「この私が見て大丈夫そうだって言っているのだから信じてほしいわね。それに珍しい魔法のようだから、私自身確かめてみたいわ」
そう挑戦的に言い放つエルザに僕自身も、プライドをくすぐられる。
この魔法だって僕が改良した自信作なのにと心のなかで思いながら、どうせ無理でしょうというかのように僕を見てくるエルザに向かって僕は、
「こうしてこうして……“ステータスオープン”」
「ふえ?」
エルザが変な声を上げて、同時にエルザの横に僕の魔法で作られた体力、魔力のデータが現れたが……即座にエルザ自身が自身の手で隠してしまった。
これでは僕の方向から数値が見えない。
そして僕から背を向けながらエルザが、
「ま、まあどうやら本物のようね」
「信じてもらえてよかったです」
「ええ……でも、だとするとこんな魔法……え?」
そこで何かを言いかけたエルザがそこで声を上げた。
同時に、ビリッという音がする。
布の裂ける音だ。
今回は失敗しなかったと思ったのに、と僕が青くなっている間にその音は更に大きな音となって、エルザの服に裂け目が入り、パンっと乾いた音を立てて、来ていたワンピースが布のは変化した。
「きゃああああっ」
高い悲鳴を上げて座り込み、胸のあたりを手で隠すエルザ。
背後にいる僕は表情がよく見えないが、羞恥心で真っ赤になっていることだろう。
慌てたようにミルフィが駆け寄り、薄手の青いカーディガンをエルザに着せている。
だが僕が見ている範囲では、ぎりぎり下着の手前で止まったようだ。
以前から、こういった問題が僕にはあったので、お姉さん達にお願い出来ずに師匠に練習を手伝ってもらった。
何度か服を破り、木の影からお姉さんたちがこっそり顔を赤くして覗いていたのだけれど、多分師匠は気づいていない。
そうやって練習して以前よりは服を破いてしまう可能性を減らしたのに、こんな時にばかり失敗してしまう。
とりあえず声をかけたほうが良いだろうと思ってエルザに、
「あの、すみません」
「謝るくらいなら、それより服をよこせ!」
涙目で振り向かれ、僕は怒られてしまった。
その時ちらりと形の良いエルザの胸の谷間が、手で隠しきれずに見えてしまったのはただの不幸な事故という役得だったのは良いとして。
「え、えっと、昔、サイズが一緒だからってお姉さんのお下がりのズボンやシャツを貰って着ていたのですが、身長的にはそれが使えるかも」
「……突っ込みたい言葉が幾つかあった気がするけれど、いいわ、それで。サイズは……」
と言って僕は言われた通りのサイズをエルザに渡した。
「今そのバッグに入りきらないような服が出てきた気がしたけれど、いえ、良いわ。後にしましょう」
エルザが、ありえないだの何だの小さくブツブツ言っているのが聞こえたけれど、渡したシャツを着始める。
そしてシャツを着終わって、次にズボンを渡すと……。
「これ、サイズが小さくない?」
「いえ、言われた通りのサイズです」
僕は普通に受け答えしたはずだった。
だが、そう告げるとビクッとエルザが震えて、次に顔を真赤にして僕を見てから、
「こ……この……もう、絶対にゆるさないんだからぁああああ」
「あ、ちょっと……!」
涙目で去っていくエルザを呆然と見送っている僕に彼女を追いかけるミルフィが、一度振り返り微笑み、
「エルザが失礼しました。魔法学園は、この眼の前の大通りが別の大通りと交差した所で、左に曲がると目の前に見えるはずです」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ。では」
そう言って去っていくミルフィ。
そんな彼女たちを僕は見送り、とりあえずは魔法学園への道を下見して、僕は宿に戻ったのだった。