全てをなかったコトにする方法
魔法学園にほど近いそこそこ人通りの多い場所。
そんな場所とて細い路地には皆、目をやらないものであるらしい。
もしくは気づかないふりをしているのか。
確かにこのような風体の荒くれ者と積極的に関わりたい人はいないだろう。
そう思いながら僕は、何の魔法で行こうかなと考える。
逃げられないように目の前の彼らは、行き止まりの路地に僕達を押し込んでいるので、彼らを倒して逃げるより他ない。
僕がそう思っているとエルザが嗤った。
「なんだ、そんな小さなナイフで私達を脅かす程度の小物なの?」
「ちょ、ちょっと、エルザ、どうしてそうやって挑発するような……」
ミルフィが焦ってエルザの手を引っ張り、止めさせるように言う。
どうやらエルザは活動的なようだ。
でも挑発するよりは油断している所をボコボコにしたほうが、最小の労力で怪我をせずに倒せると思うのだ。
でも師匠は言っていた。
挑発してから圧倒的な力を持って叩き潰した方が“楽しい”だろうと。
エルザもそういう人種なのかもしれない。
そう僕はエルザの性格に対して分析してみたのだが、
「私、こういうタイプ嫌いなの。ちょっと自分が優位が立てそうだからって調子に乗るような無能が」
「なんだとこのアマ!」
「威勢がいいのはいいが、後で泣きを見ても知らないぜぇ」
「怖いもの知らずなのは、痛い目を見る、勉強になるなぁ、お嬢ちゃん」
笑う三人のゴロツキ達。
ただ今の会話から僕は、
「あの~、僕達に貴方がたは何を求めているのでしょうか」
彼らが何をしたいのかが分からなかったので、とりあえず僕は聞いてみた。
そこで彼らは目を瞬かせてから僕を見て、嗤った。
「そうだな有り金全部おいておけ」
「後は金目のものもだな」
「それにそこのお嬢ちゃんたちには、俺らを馬鹿にした慰謝料を体で払ってもらおうか」
ということらしい。
それを聞いたエルザが蔑むような瞳でそのゴロツキを見て、
「触れるのも汚らわしい。魔法で焼きつくしてやろうかしら」
「ほう、魔法が使えるのか。だが俺達も、冒険者もやっているものでね。ちょっとした魔法は弾き返せる。そもそも都市の町中で強力な攻撃魔法は禁じられているだろう?」
「……そうね、最近不穏な気配があるものね。強力過ぎるものは駄目か」
エルザが悔しそうに呟くのを聞きながら、なるほど、いつものアレをしておいた方が良いのかと僕は思い、空気を読んで魔法を使った。
「“魔法限定消去結界”」
僕の言葉とともに周囲に不可視の結界をはられる。
これで外に魔法の気配も力も、ほぼ出てこない。
師匠がやらかしたら、一瞬で壊れる程度のものしか“無詠唱”では出来ないけれど、多分これくらいなら大丈夫だと思う。
只の人間相手だし。
そこでエルザが僕の方を掴んだ。
「今、呪文を唱えずにやらなかった?」
「え、はい。何か問題が?」
「いえ、後で話すわ。そしてこの結界は魔法がもれないと」
「はい、なので魔法で気絶するまでボコってから、傷を癒やせばまるで問題がないと」
「……正当防衛は認められるけれど、面倒なのには変わりないわ。それで行きましょう」
エルザがにたりと嗤った。
この顔、そういえば師匠が喜悦に満ちた顔で敵をボコる時の顔に似ているなと僕は思ったのだった。