僕はまた間違えてしまった
学園長室にやって来た僕達は、ある人物がそこにいるのに気付いた。
「あれ? なんでこの世界の神様がここに」
「「「「え?」」」」
若い男性で服装もこの世界の人とはちが、いくつもの白い布などを合わせた服を着ている。
彼は僕に、、
「久しぶりだね。師匠と一緒に最後にあったのが、一年ちょっと前だったかな」
「はい。それで今日はどうしてこちらに?」
「うん、“彼女達”の片割れの一人を吹き飛ばしてくれたお礼を言いにね」
「そうだ! 師匠は、師匠はどうなったのですか? 相内と聞きましたが!」
「少し前に目を覚ましたけれど、まだ動ける状態じゃなくて、もう少ししたらローデルに会いに来ると思う」
「! そうですか……師匠、無事だったんですね」
「本当にね。異世界から性格面と“適正”がありそうな人間を呼び寄せたのだけれど、思った以上に彼には世話になってしまった」
笑う彼を見ながらそこで僕は、
「あの“神々の作物”について等を聞いたのですが……」
「ああ、“彼女達”の名前さえ呼ばなければ、説明しても構わないよ。“彼女達”を表す名前は、“魔法”に近い。そもそも“魔力”が強くて人間を止めているからね」
「では……神様についても含めて説明していただけないでしょうか?」
それは、古代文明によってこの神様が作られて、こちらからの疑問では、誤魔化すとはいえ答えないといけなくなるのでは? と僕は推測したからだ。
それにこの神様は頷き、
「まず私の名前は“神々の作物”。それの人格及び魔力によって生じさせた人型の“人形”です。服装は古代文明の、ミル・アレンジャーのデザインです。“機械仕掛けの神”とも、この存在は呼ばれていますね。さて、それで“彼女達”がこの世界に戻ってきた時のための準備の一環として、3年前、貴方の師匠をこの世界に召喚しました」
「3年前、ですか」
「はいい。彼は私との魔力的な接続が、この世界の人間よりもやりやすく、そのために古代文明の統一表現、“魔法言語”による全ての変換接続を、この世界に呼び出すにあたり付加修正を行いました。性格には彼の複製を作成し、意識だけをこちらに連れてきた形です。あくまでも“協力”といった形ですが……善良な彼はすぐに承諾してくれました」
「師匠はそういう人ですから。でも、“魔法言語”?」
「はい、“魔法”を使うのに必要な、事象の本質を示すものです。ですが、“彼女達”が私に接続して文明崩壊をさせたために、この世界の“人間”の生命保持のために“彼女達”レベルまでたどり着けないよう、文明レベルを低下させることを目的に、“魔力”接続から逆算して一部の記憶を“消去”しました」
「文明の記憶消去、なるほど」
「また“魔法言語”に近づかないよう言語も変更し、“魔法”出力時は該当するこの世界の言語を“魔法言語”に変換し出力するようにしています」
僕はこの世界で違う言語を使っていても同じ魔法が使える理由をようやく知る。
それから彼は、
「そしてその以前文明崩壊をさせたその立方体、私のかけらを世界中に散らばらせて隠しました。ですが“彼女達”に幾つか見つけられて、その一部を使われ獣人都市ミレニアムが消失されたりしましたね。“元に戻し”ましたが」
「“元に戻し”ました? 師匠も僕達もすごくショックを受けたのですが」
「“彼女達”に気付かれないようにするために、多少のタイムラグ必要なのと、まだ実際に使ってみた場合にどの程度の“修正”が可能か分からなかったので試験運転的なものもあり、元に戻すのに時間が必要だったのです」
「つまり、時間がまき戻ると?」
「そうですね、世界を分解、数時間前の状態などに再構築する、という事です」
それを聞きながらどこかで聞いたことがあるなと僕は思いながら、ふりかえる。
ミルフィが青くなりながらそこに立っていた。
「ミルフィがそうなのですか?」
僕が問いかけると彼は首を振り、
「いえ、そのうちの一人です」
「……」
「“彼女達”が来る前に幾つかの“計画”を事前に用意していまして、そのうちの一つです。この世界のどこかに“彼女達”が現れた場合、即座に追跡するようにしているのですが……すぐに“彼女達”は予想を超える被害を出したりするので、対処が難しいのです。そのために記憶を保持させたまま、その周辺に、再構築させることにしたのです」
「そうなのですが。でもそんなに沢山の人数が?」
「そうですよ、この世界は小さいので一気に壊して再構築も可能といえば可能ですが、それぞれの能力を与えた個体を一定人数置いてその人間を中心に範囲を決定し再構築した方が魔力の使用が少なくて済みますからね。魔力自体は、あの黒い闇に飲まれた古代文明から送られてくるものが大量にあるとはいえ、最近ではその一部を回収し再生に回しているものですから節約できる部分は節約したかったのです」
そこで彼はミルフィを見て、ミルフィがびくっとなる。
「君は、世界に問題が生じた場合の“試金石”であり定点観測の場所でもあるのですが、以前君が死亡した時はすぐにちょっと前に戻る予定だったのですが、獣人都市ミレニアムが“彼女達”に再び狙われないように、2-3日前に戻る形になってしまいましたね、あれは申し訳ありませんでした」
「え、えっと、本来違うのですか?」
ミルフィがおずおずと聞くと、彼は、
「意思で戻れるのと同じくらいですかね。そもそも“彼女達”は不老不死に近いので、この世界の時間、つまり日付などは気にしないので出来る方法だったのです。しかしその話をしたらリョウスケに、失敗したらセーブデータからやり直しか、と半眼で言われてしまったね」
といった話らしい。
ミルフィはそれ以上聞く気が起き無いようだった。
そこで僕は、
「師匠は世界改変前と後を覚えているようですが」
「貴方の師匠であるリョウスケは私、“神々の作物”と直接接続しているため、その“世界改変”の影響を受けないというだけです。まあ、こっそり改変したおかげで今の所リョウスケの危機的な状況は“元に戻し”のおかげで準備ができたこともありましたね」
「でもこの世界での予知、予言を使えば、もう少し話は簡単なのでは? 広範囲を網羅する、というのはちょっと非効率的な気が……」
「いえ、予知といっても全てを“予測”して打ち出すわけにはいかないのですよ。選択をいくつか拾っていく過程で、とんでもない結果が出ることも多々ありまして」
「とんでもない結果ですか?」
「ええ、そうですね……例えばそこにいるお譲さん、エルザさんですか? 彼女のパンツが水色の縞パンといったものですね」
僕達は沈黙してエルザを見た。
エルザはさすがに神様相手に怒れないのか顔を赤くして、プルプルしている。
今日はこういう事が多いなと思いながら、
「そういった結果が出ても世界の危機には対処できないと」
「そうです。情報の取捨選択はなかなか難しいものがありまして……なんだかんだ言って、ローデル、君がこの世界に生まれてくれたこともリョウスケに出会ってくれたことも最終的には良かったと思います」
「あ、あの、はい……ありがとうございます」
そう言われて僕はどことなくうれしさを感じてしまう。
さらに彼は、
「しかもリョウスケに追いつこうとして、天才的な“分析”“応用”能力をここまで使いこなして努力でリョウスケに追いつこうというのはもはや、“チート”といっても過言ではないでしょう」
「え……え?」
「いずれこの世界の最強の魔法使いになれるかもしれません。頑張ってください」
「……はい、頑張ります」
意外なお墨付きをもらった僕はどうしようかと思ってとりあえずお礼を言う事に。
でもそういえば“彼女達”はここから去ってしまったのだから、
「師匠は元の世界に帰るのですか?」
「リョウスケはここを行ったり来たりして遊ぶそうだよ」
「! 本当ですか!」
「うん、数日後にローデルに会いに来るからその時いろいろ話を聞いたらどうかな?」
「! はい」
「……相変わらずローデルは、師匠が大好きだね」
「憧れの人ですから」
「……あこがれだけであそこまで突っ走れるのだから人間は凄いです。さて、一通りお話ししたので、また私はいつもの仕事に戻ります」
そう言って彼は消えてしまったのだった。
色々とありすぎた出来事にぼんやりとしてしまうけれど、とりあえず当面の危機は去ったようだ。
そして僕は皆に言わなければと思っていたこともある。
「あの、皆が手を貸してくれたおかげで助かりました。ありがとうございます」
「当然でしょう、私、強いもの」
他の人は頷くのにエルザだけはそんなことを言う。
だから僕は、
「優しい人ですね」
「……だからどうしてそういうの」
「うーん、師匠に似ているから? 初めて会った時も思いましたが」
「……別に偶然会ったから案内しただけで、そんな所が師匠に似ているの?」
珍しく不思議そうにエルザが聞いてくる。
それを聞きながら僕は目を瞬かせて、
「いえ、町のゴロツキに襲われた時に、エルザが挑発してたじゃないですか」
「……続けて」
「それでそれから嬉しそうに、魔法でたたき潰そうとしていたじゃないですか。yぽく師匠が『挑発してから圧倒的な力を持って叩き潰した方が“楽しい”だろう』と言っていたのでそうなのかなと」
そこでエルザが沈黙した。
周りのみんなも沈黙して様子を見ている。
僕は不安を掻き立てられる。
そこでいつにも優しい声音でエルザが僕に問いかけた。
「つまり、男らしいと私の事を言いたいのね。女と見えないと」
「い、いえ、そんなわけではなく」
「言い訳は聞きたくないわ。そうね、“決闘”はこうなってはうやむやになったからやはり普通に、ここで決着をつけるべく後二回戦うべきね。ミニスカ女装メイドニーソ付きに、震えるがよい」
にたぁとエルザが凄みのある笑顔で僕に告げた。
怒る過ぎて笑顔になった、お姉さんの顔に似ていた。
確かその後師匠がどうなったかというと……そう思った僕はほかのみんなに、
「た、助け」
「頑張ってね~」
「がんばれよ」
「応援しているから」
「ローデル君、がんば!」
といった声援だけでだれも止めてくれませんでした。
そう、全員が僕を裏切った。
なんでと思うのだが、そこで、
「さあ、覚悟はいい? ……行くわよ」
「ひいいいいいい」
エルザは“殺る”きだ、本気の気配がする、それを察知した僕はその場から逃走した。
待ちなさいというエルザの声が聞こえる。
でも立ち止まったら僕どうなっちゃうんだろう。
逃げねば!
そんな風に都合の悪い出来事から全力で逃げて、それ以降何度もエルザに“決闘”を挑まれるなど色々なことのある学園生活が始まる。
師匠とも再会したり、お姉さんのうちの一人がこの学園の伝説的な天才で、エルザの憧れの人だったり、他にもエルザにお姉さんと呼ばせたがっている変わった人が出てきたり、他にも新たな陰謀に巻き込まれたりと目まぐるしい日々が続いていく。
けれどこんな生活が楽しいと僕が思えたのも事実だった。
そして無自覚チートと僕があだ名されたり、またも起こった世界の危機に立ち向かったりするようになるのもその後の事。
まだまだ僕は、成長中です。
「おしまい」
ここまでお読みいただきありがとうございました。
楽しんで頂けましたら、評価、ブックマークをよろしくお願いします。
2016/8/25




