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ラスボス戦

 現れた魔物たち。

 そちらを先に倒さないとと僕が小さく呪文を唱えようとした所で、


「それで、あそこにいるあの女の相手は、ローデルしか対抗できないの?」

「エルザ?」

「今の話を聞いた範囲では、私達では対抗できなそうだけれど、どう?」

「珍しく飲み込みがいい……」

「答えて」


 その問いかけに僕は頷く。

 

「じゃあ、後ろは私達に任せてね。“役立たず”」

「! ちょ、それは酷いのでは?」

「私達の力を見くびりすぎなのよね」


 そう言って笑った呪文を唱え始める。

 それを聞きながら僕は、そういえば師匠の周りにいたお姉さん達もよく怒っていた気がする。

 なんでも一人で解決するなと。


 でもエルザはどことなく師匠に性格が似ている気がするんだよなと思いながら、後ろをお任せして僕は、“無詠唱(ノン・スペル)”で、


「“苛烈なる炎(プラス・ファイヤー)”」


 炎の魔法を使う。

 それを“彼女”は面白そうに避けたり、消失したりする。

 “空間操作”の能力。


 それが“彼女達”には強いけれど、以前のふれたら真っ二つになるような凶悪な技は使ってこない。

 彼女の師匠が時空の彼方に飛ばされたのが影響しているのかもしれない。

 先ほどの異空間、この世界の“外”での攻撃は、ずいぶんと“弱い”。


 だが殺すくらいの事を自分にできるのか分からない。

 何しろ、今まで人なんて僕は殺したことがない。でも、


「やるしかない。“水の塊(ウォーター・クレイ)”」


 彼女が飛ばしてきた炎を消し、そのまま近くまで近づき、


「“風の盾(ウィンド・シールド)”」


 風の結界で弾き飛ばそうとするが、彼女が指ではじく動作をするだけで知れらは消し去られてしまう。

 やはりこの程度ではだめか、そう僕は思いながら防御のための風の結界を張る。

 そして呪文を唱え始める。


「呪文を唱えるんだ、どれくらい強くなったのかな? お勉強で弱くなっているんじゃないのかな?」


 そんな挑発を聞きながら僕は呪文を唱えていく。


「数多の星々は

 かつて我がそばに寄り添い

 共に歩んだもの

 今は眠りと微睡の中で

 見守りの歌を歌う

 けれど一度願うなら

 そのそばに舞い降りる」


 師匠の力をさらに応用した特殊魔法。

 この一年の間に勉強の合間に考えた技だ。


「“流星の悪夢(スター・ナイトメア)”」


 その言葉とともに、“彼女”の足元に魔法陣が広がる。

 白い光に見舞われた“彼女”ははっとしたように、何かを防御しようとするけれど、


「なにこれ。一部、重い……防ぎきれない」


 苦しそうに魔力を使って防御をする彼女。

 僕にとって“仲間”にしたいのもあってか、はたまた一人であったのが幸運だったのか。

 彼女の油断を上手くつけたのと……予想以上に好まh上の威力が高いのか。


 魔法陣の範囲内に地水火風のすべての属性魔法、空間的なものまで一斉に放出する魔法。

 相手の属性が分からない時に、凶悪な相手に対して使おうと思ったのだ。

 属性が分かればそれにあわせて彼女は防御するけれど、ランダムに一斉放出されるその魔法では選択するのに時間がかかる。


 攻撃に耐えきれないのと空間的に縛り付ける効果がこの魔方陣にいる“彼女”は動けない。

 やる時は一気にしないと、時間がたてば自分が不利だとわかっている。

 そしてここまでの状況で、これ以上長期戦になるのは逃げられても戦っても損害が大きいと僕は考えて、


「これだけは使いたくなかったけれど仕方がないよね。“吹き飛べ”」


 僕は腕輪の力を使う。

 ぎょっとした彼女がすぐに、にやりと笑い、


「このお礼は、これで代えさせてもらうわ」


 そう告げて彼女が消えると同時に床に落ちる立方体。

 そこで、立方体から黄色い光が、こぼれ始めたのだった。







 零れ落ちた光に僕は、見覚えがあった。

 師匠があの時空間転移してくれなければあの獣人都市の……。

 悪夢のような出来事を思い出して慌てて“分析”をし、もしだめならこの腕輪で地上までと僕は考えるけれど、


「“炎”で全体を調べてから、“土”で右から左、次に水です!」


 ミルフィの声に僕は、言われた通りに瞬時に魔法で分析する。

 そしてそこから導き出される魔法で、その動きを“停止”させる。


「“大樹の鋼(ツリー・スチール)”」


 魔法をしみこませて一部を同化させ、供給されている魔法を停止拡散し……命令を排除し塗りつぶす。

 一秒が数分ともいえるような感覚の中それを僕がやってのけると、カチッという音がして光が収まった。

 しばらく様子を見るとそれ以上は動かない。


 大丈夫なようなのでそれを拾い上げる、ミルフィにお礼を言おうと振り返るとそこで、彼女が青い顔をして立っているのを見る。

 まさかと僕は思って、


「何回失敗したのかな?」

「10回です、きりがいいですね。ははっ」


 そう笑うミルフィに僕は絶句する。

 そこでエルザに、


「とりあえずは何とかなったのね?」

「はい、“彼女”は時空の彼方に」

「結局本当の名前は分からないままね。教えてもらえる?」

「……止めた方がいいと思います。名前でその魔力の形が生じると、ここに戻ってきやすくなるといっていましたし」

「仕方がないわね。でも大したことのない敵に見えたけれど本当はどうなの?」

「“彼女”が何かしてくる前に、何とかしたというのが正しいです」


 それにエルザが沈黙して、代わりに、


「あれだけの魔物の相手、よくできましたね」

「まあね、この程度はどうにかなるのよ。……まあ、本当のところさっきのローデルの魔法の方がよほど恐ろしく強くみえたけれど」

「え? よく聞こえません」

「なんでもないわ。それで、どうするの?」


 エルザの問いかけに周りを見回すと、出入り口がない。

 けれど空間をつなげただけでそこまで遠くには移動できないだろうと考えた僕は、


「とりあえず地上に出るために軽く天井を壊しましょう」

「その腕輪を使ってあの女を飛ばしたみたいに転移できないの?」

「場所が分からないので下手をすると土の中に、となるので無理です」

「壊すのが妥当そうね」


 納得してくれたらしいエルザの声を聴きながら僕はすぐそばの天井に向かって魔法を放つ。

 大きな音がして崩れた天井から赤い光が降り注ぐ。

 夕暮れ時の光だ。


「午後の授業に間に合わなかった」


 そう僕が、ある事実に気付いて衝撃を受けていると、天井から誰かがのぞいた。


「やあ。倒してくれたようだね」

「……ミスティア学園長、気づいていたなら手伝ってくれてもいいのでは?」

「いや、私の手では負えなくてね。“彼女”は私は逃げるので精いっぱいな相手だからね。しかもあの遺跡は罠だらけで入り込めなかったし。事前に全部かたずけておいたはずなのだがね」


 と、一気にミスティア学園長は仕方がないのだという。

 とりあえずは立方体のアレを投げて受け取ってもらい、僕達は地上に帰還する。

 師匠についても含めて聞きたいことがあったのだがそこでミスティア学園長が、


「そうそう、師匠の事も含めてお話ししてあげようと思うから学園長室に来るといい。興味があるならほかの人達も一緒でいいぞ。一生に一度会えるかどうかの人物も来ているしな」


 そう、ミスティア学園長が言うのだった。









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