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世界の秘密

 お話をしてくれるらしい彼女。

 だから僕は黙っているとそこで、


「まず初めに、この世界って元々は“魔法”を強く出現させるために古代文明が作られたって知っているかな?」

「え?」


 あまりにも突拍子もない話に僕はそうつい呟いてしまう。

 それに彼女は更に続ける。


「それで、この世界“神々の作物(アンブロシア)”を作ったの。まさかその名前を付けてこの世界の人達が私達をそう呼ぶとは思わなかったわ」

「この世界の名前が……作物?」

「そう、地上の人間にとってより良いものを作り上げるために作られた、“魔法制御世界”、それがこの世界の正体。でも弱いといっても地上の人間は魔法を使えるし、特に私と私の師匠は強い魔力とそれを使う術を持っていた。だからこの“神々の作物(アンブロシア)”がなくても私達は、この力を使える、選ばれた存在だったの。まがい物などではなく、ね」


 笑いながら見つめてくる先にはエルザがいる。

 けれど、今の話ではこの世界にいる“彼女達”以外の全員が、“彼女達”にとってまがい物であるようだ。

 狂っている、今更だが。


「それで、ある時不愉快だから、まがい物は一掃しちゃおうって話になったの。それで、“神々の作物(アンブロシア)”……この世界の事もさすけれどこの世界を形作る魔法装置が本来、“神々の作物(アンブロシア)”という名前なのだけれどね……それを騙して誤認誤作動をさせたの。だって“神々の作物(アンブロシア)”は“人間”に危害を加えても逆らってもいけないのだそうなの、仕方がないでしょう?」

「……それで、一体どうしたのですか?」

「世界を滅ぼしてしまったわ」


 たった一言、今紅茶が飲みたいわというかのように、その時の気分で行ったかのような発言。

 “彼女”は笑いながら続ける。


「ローデル君がさっきいた空間の下に、黒い世界があったでしょう? 昔はあそこに人間も、亜人と呼ばれる人も、魔物と言われる物も、全部いたのだけれどみんなあの闇の中に沈んでしまったの。“神々の作物(アンブロシア)”の力で、ね」

「それは、人類を滅ぼしたと?」

「文明もろとも、つまらないからある程度消し去ったのだけれど……そのあと“神々の作物(アンブロシア)”に騙したのがばれて、でも私達は“人間”だから殺せないという事で、私、師匠と一緒に“神々の作物(アンブロシア)”に時空のか彼方に飛ばされてしまったのよね」

「その貴方方がどうして、ここにいるのですか?」

「頑張って戻ってきたの、三年前に」

「え!」


 そこで声を上げたのは、僕ではなくミルフィだった。

 どことなく青い顔をしているのは何故なのか。

 “彼女”はそれに興味を持ったらしく、


「なにかあるの? 私、“神々の作物(アンブロシア)”が私達への対策を立てていないとは到底思えないのよね。このキューブだって、“神々の作物(アンブロシア)”の一部で、またこれを使って今度こそ失敗せずにこの世界を、以前の世界のように闇に沈めて“遊ぼう”と思っていたのに、各地に隠して、守り人なんていう魔獣までつけたりして……面倒なことをしてくれたしね」

「……ミルフィは三年前にちょうど嫌なことがあっただけですよ。両親が喧嘩していただけ」


 僕が適当なことをでっちあげると彼女は、なんだそんな事、つまらないわと告げて、


「ローデル君の師匠以外にも、何かあるかと思ったけれど、そんなわけないか」

「師匠が関係しているのですか?」

「うん、だってあなたのお師匠様、“私達”に対抗するために異世界から呼ばれて、この世界の装置、いわゆる“神様”に直に接続(アクセス)する権利を貰っているのだもの。だからこの世界を構成するそのものが分かるから、どんな言葉でも理解して出力……会話もできて、文章まで読めてしまうの。おかげで私達は、そういった意味でもあなたの師匠にはやられてばかりだわ」

「なんで異世界人の師匠がそんな……」

「“適正”と“才能”、そして人格面も観察して候補をずっと“神々の作物(アンブロシア)”は異世界から探していたようね。常に私達への危機感を忘れなかった。自分のミスは、この世界にいる人たちの記憶から抹消したのにね」

「記憶の、抹消」

「そう、魔法はある意味で世界そのものだから、悪夢とトラウマを残さないように私達の記憶と共にあの文明の崩壊を、“無かった事”にしたの。はじめは混乱したらしいけれどね~、でもそれは私達にとって都合がよかった。戻ってきた後はね」

「なぜ、戻ってきた後に記憶がないとよかったのですか?」

「だって私達の“本当の名前”を呼ばれたら、その時点でその魔法の形を認識されて、“神々の作物(アンブロシア)”に気付かれてしまうもの。だから認識へのタイムラグがあるから、名前を知ったものは片っ端から殺さないといけない」


 名前を知ったものを殺していたのはそうであったらしい。

 その彼女は更に告げる。


「もしもここに戻る前であれば“名前を呼ぶ”だけで、本当の形を示す名前で魔法の形が定まったのなら、私達と繋がりやすくなって戻りやすかったのだけれどね。そういった意味でも記憶が抹消され、よほど脅威を感じたのか時空のかなたに私達は飛ばされてしまったのよね。でもその間に色々と計画を練られたし、あなたやあなたの師匠に出会えたのは、よかったのか悪かったのか……」

「不運だと思うべきでしょう。何度も防がれているのですから」

「あら、でも一回は成功したでしょう? この立方体、“神々の作物(アンブロシア)”のかけらで獣人都市ミレニアムは滅んだ」


 それを聞いて確かにそうだと思う。

 この世界の最果てと言われる小さな都市であるけれど、その都市を僕たちは救えなかった。

 闇に飲まれるその都市を僕たちは確かに見て、その悲劇を繰り返さないと誓ったのだ。


 そこで、リフが、


「獣人都市ミレニアムなら、滅んでいないぞ」

「「え?」」

「この前も、エルザがゲームに負けた時用に、猫耳とうさ耳を購入したからな。やはり本物志向のあそこの獣人の獣耳カチューシャは品質が良くて」

「……そういえばローデル君の師匠と戦った時、『お前たちの破壊した獣人都市ミレニアムは、無傷だぞ』と妙なことを言っていた気が……どういう事?」


 “彼女”が思案するように沈黙してから、次に僕を見て再び笑う。


「ローデル君の師匠が、“異世界の概念”をこの世界で“実現”する恐ろしさがあるとしたら、ローデル君、貴方の能力は分析と応用の才能があるの。応用はあなたの師匠が持っているのと同じもの……だからあなたには師匠と同じ才能がある」


 それは咲くほどから驚かれたこの“ステータスオープン”の簡易版か。

 彼女の言う通りだとするなら“神々の作物(アンブロシア)”に直接、師匠は接触するからあれだけの事が出来るだけで、けれど……待てよ?


「今の話だと、同一のものを示すという意味で僕たち全員がまるで魔法を使う時、“神々の作物(アンブロシア)”に接続しているように聞こえます」

「そうよ? 魔法の形は、特定の物を示すのにはすべて同一。だから私達は違う言葉を発するけれど同一の物を示し、“魔法”を使える。魔法=本質であるから。“神々の作物(アンブロシア)”を一度通してから魔法を使うから、同一のものが現れるのは当然だけれどね。そもそも人間がこの世界の魔法を使う場合のほとんどは、魔法を使う際に“神々の作物(アンブロシア)”に接続して魔法を使いやすくしている。でもそんなものがなくてもローデル君は魔法が“私達”と同じように使える気がするの。だからほしいの」

「お断りします」

「相変わらずつれないわね。師匠にそっくり。その師匠は私のお師匠様と、これを使ってせめぎあいをしたせいで相打ち。私の師匠は時空の彼方にまた飛ばされて、貴方のお師匠様は昏睡状態。それをいつも一緒にいた彼女たちが必至で守っているのよね」

「……そんな話知らない」

「でしょうね、危険だからってローデル君、追い出されちゃったものね」


 その言葉に僕の心は揺さぶられた。

 だって僕が師匠にこの学園に入れと言われたのは……まさかそんな意味があったなんて。

 衝撃の事実に僕が動けずにいると、そこで彼女は、


「ね、捨てられたのだから私達の方に来ない? いらないって言われたのだから」

「お断りします」

「そんな~仕方がないな。周りの子たちがいるから、寂しくないのかな? だったら先に“処分”してしまいましょう」


 それと同時に、僕たちの周りに魔物たちが現れたのだった。


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