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お話ししましょう

 僕は呪文を唱える。

 ここしばらく呪文を使っていなかったのを思い出しながら、


「糸車を回すは、一人の女神

 始まりの女神は糸を紡ぎ

 惑う者達の夢を重ねて

 小さな苗木に水を与えるように

 子守唄を唄うだろう

 やがて育つ木は果実を実らせて

 果実を収穫するように

 糸は切られる」


 そこまで唱えてからふうっと僕は息を吐き、手を前に掲げて、


「“女神の断裁アトロポス・カッティング”」


 呟くと同時に、先ほど張った“偏光の水晶ポライゼーション・クオーツ”のすべてが淡い白い光に包まれると同時に一瞬にして消える。

 そして次の瞬間、目の前にいた細長いその怪物か何かの攻撃をしようとした所で、まるで紙が引き裂かれるように横にひびがいくつも入り、つんざくような声が響いた。

 この怪物の断末魔の悲鳴のようだった。と、


「この程度は一匹程度じゃ駄目みたい。何匹か遊ぶ?」

「お断りします」


 そう“彼女”の声にこたえて僕は、敵のいなくなった道をかけていく。

 他の全員もそうだ。

 いくつも足音が聞こえてきて、不安を覚える。


 振り返ると、皆特に怪我は無いようだった。

 無事ここの空間を出たらやはり全員追い出そうと心の中で僕は決めながらさらに進む。

 そこにあったのは黒いドアだった。


 元の場所につながる空間。

 そこに僕が手をかける時その白い道の外側を見た。

 黒くどろどろとしたもので覆われた悪夢のような場所。


 気色の悪い場所だ、そう僕は思いながらドアを開ける。

 辿り着いた場所は、白い空間だった。

 そしてその中心と思える場所に鮮やかに、“青”がある。


 僕達を嘲笑う“青”が。







 楽しそうに、歌うように“彼女”は言う。


「やっぱりローデル君は凄いわね、“才能”があるわ」

「僕に才能なんてありません。師匠にはありますが」

「あら、貴方の師匠が持っている才能は、貴方と才能の質が違うもの、比べるものではないわ」

「……師匠はあこがれの人なんです。それは僕の望む“才能”です」

「人間的な意味で、という事かしら。そんなものあっても仕方がないのに。才能の無駄使いだわ」


 クスクスと笑う彼女。

 僕はそんな彼女から目をそらさないようにして、周りを確認する。

 出入り口は先ほどの空間へ繋がるドアのみ。


 天井をぶち抜けば地上に出られるだろうか?

 そう僕が考えているとそこでエルザが、


「貴方、何が目的なの?」

「……ローデル君のそばにいる、彼の師匠が好きというわけではない女に答える気はないわぁ。本当は今すぐにでも八つ裂きにしたいのだけれど、今日は前のようにローデル君に力があるのなら……お話ししたかったから、手を出さなかっただけ」


 そういって彼女はエルザを見てフフッ笑う。

 それだけでエルザが気味の悪そうな顔をする。

 エルザの反応は普通だ。


 どれだけ見た目が美しかろうとも内からにじみ出る“悪意”は美貌では隠せない。

 

「それで用は何ですか? 僕を欲しがる理由が僕にはわかりません」


 基本的に“彼女達”は、彼女とその師匠で世界が完結しているのだ。

 そこに取り込もうとしているのは、どうしてだと僕は思う。

 彼女がいつにもまして口を細い三日月のように曲げて、笑った。


「だって“私達”はこの世界に嫌われているもの。……そうね、折角だからローデル君にはお話ししてあげましょうか。そうしたら私達の方に来る気になるかもしれないし」


 それは絶対にないと言いたかったけれど、話を聞けるなら……惑わされない範囲で情報が欲しい、そう考えて僕は黙っていたのだった。

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