呪文を唱え
どうも鈍っているらしい。
師匠と一緒にいた頃はもっと周りが危険だったら……僕も、警戒した。
けれど村に戻った約一年間。
あまりに平和な時間で、確かに魔法の応用はずっと自分なりに考えていたし訓練もしたけれど、それはただ単に食料を集めるためや、害獣を追い払うためのものだった。
そもそも、師匠に僕が会う切っ掛けになったあの件も、村では今まで聞いたことがないものだった。
そう、平和で長閑なのが僕にとって当たり前で、僕はその頃の“自分”に戻りかけていたのかもしれない。
しっかりしないと、僕はそう思って深呼吸する。
そこで、とん、と何かが小さな音を立てて現れた。
僕達全員に影を指すような、大きなそれは、細長い板が波打ったもの……としか表現できない物体だった。
先ほどの物のように地面から湧き出ずに外からこの道に出てきたものは、あまり長い間“起動”出来ないが、強力な魔法を使う兵器のようなものだった。
実際に師匠と戦っていた時は様子見もあったけれど、しばらくしてそれらは動かなくなり黒い灰になった。
けれど時間切れを待つには今のこちらの“戦力”では危険過ぎる。
とはいうものの、どう他の人達の力を使っていくのかも現状では考え、予行練習をしていた方が良さそうかもしれない。
そこまでは瞬時に僕は考え、小さく呟いた。
「“偏光の水晶”」
六角形の薄い硝子のようなものが周囲に半球状に広がる。
同時に、エルザ達が魔法を放つのが聞こえた。
「“風の矢”」
「“炎の矢”」
「“氷の礫”」
エルザ、リフ、センリの三人が次々に放った魔法が、最適な相乗効果を得られるように先ほど張ったその膜を通るようにを通ると自動で組み合わさり攻撃する。
最適と言っても、おおまかな地水火風の魔法の内訳でその力を保持、または目標の修正を行っているだけだ。
普通に師匠は目標に寸分無く当てていたので、それを解析しつつ自分のものにしようとしたらこうなったのだ。
……多少改良はしているが。
とりあえずは今のでそこそこダメージを当てられたようだけれど、
「このまま皆攻撃をよろしく。魔法は自動で振り分けられます。あ、それとこれには防御の効果もあるので、援護よろしく」
「……分かった」
「……分かった」
「分かった」
リフとエルザの声が間をおいているのに対し、慣れているのかセンリは即答だった。
暫くはエルザ達に攻撃はお任せして後は、僕自身が攻撃を仕掛ける前に、
「“ステータス・オープン”」
直ぐ側に、この怪物の魔力と体力が数値化され表示される。
こうしてみるとこの敵は結構強い。
今の攻撃でも、十分の一程度も体力が削れていない。
しかもこちらに向かって何かを打ち出してくる。
鋭い金属に魔法をかけたものだ。
とりあえずはこの“偏光の水晶”での防御は可能だ。
そう思いながらもまた妙に思う。
そもそも遊ぶにしてもこれ一体だけなのも変だ。
“彼女”の性格からして、もっと絶望を煽るように投入してくるはずなのだ。
なのに少ない。
“彼女”の“戦力”が削られたように。
けれど今は目の間の敵が先決だった。
「糸車を回すは、一人の女神……」
そう、僕は目の前の敵を倒すべく呪文を唱え始めたのだった。
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