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新しいおもちゃを見つけたかのように

 地面から湧き出てきた泡はやがて大きくなり、球状のボールがいくつも連なった物がふわりと浮き上がる。

 それが目の前に次々と生じていくのを見ながら、


「“炎の刃(フレア・ソード)”」


 他の全員がこの空間に慣れ親しんでいないがために動けずにいたため、僕は魔法を使った。

 炎の刃が、3体ほど現れたその、無機質な“魔物”のようなものを切り裂き燃やす。

 炎は他の魔力を“変質”させやすい。


 覆い隠すように刃のように炎が切り裂き爪痕を残し、周る。

 以前であったこの物体は形が変化し、棘や鋭く細い刃となり、駆けつけた時には息絶えていた冒険者の遺体を切り刻んでいた。

 おぞましい光景だが、それはまだ序の口だった。


 それに敵であるこの白い塊は接近したものを攻撃するだけだ。

 人間は近夷狄も攻撃できるが、離れた敵を攻撃もできる。

 そう考えるとこの程度であれば、“無詠唱(ノン・スペル)”で十分な敵だ。


 手加減してくれている、と思えればいい相手だが、彼女がそんな素直なのは逆に不気味だ。

 以前作られた空間に、師匠と一緒に、彼女と彼女の師匠と対峙した時は、それは思い出したくない気色の悪い敵だらけだったけれど今は、“彼女”一人だ。

 だからこの程度で済んでいるのかもしれない。


 そこで切られた塊が黒く変色して灰のようになり何処かへと、飛んで行く。

 一応は敵を出せる限界ががあったはずだけれど、それを待つ義理はない。

 そして一度出た場所からは次の敵は、少しまたないとこない。だから、


「走って、早く!」


 僕の声にハッとしたような皆を連れて僕は更に進む。

 同時にそこかしこで、ポコポコと泡が出てくる。

 少し経つとぬるりと先ほどの怪物が、白い地面から現われる。


 僕はすぐに魔法を使い、エルザ達も呪文を唱え始める。

 僕はそばにいる敵を中心に、エルザ達は遠距離の敵を中心に攻撃。

 意外にも敵を倒すのは容易……に思えたけれど、そこで僕は立止った。


「どうしたの? ローデル」

 

 エルザのその答えに僕は、沈黙しか出来ない。

 何かが見ている。

 その視線は、僕に注がれている気がする。


 まるで品定めをするかのようなそれ。

 それも見ている視線は、観察しているかのようだ。

 何処だ、と僕は感覚を研ぎ澄ます。そして、


「“風の矢(ウインド・アロー)”」


 視線の先にその魔法を放つ。

 何もないと思えるような空間だが、そこでびちゃっと音がして赤い液体が吹き出す。と、


「もう、“目”を潰すのは酷いよローデル君。私が楽しめないじゃない~」

「貴方を楽しませるつもりはありません」

「そうなの? うーん、酷いよ、私は楽しんでいるのに」

「悪趣味です」

「そうかな? 私にそんな事を言うのは貴方ぐらいだね。でもこんな小さいものだと楽しめないかな」


 そこで僕の後方から声がした。


「ローデル、右に半歩」

「はい!」


 ミルフィの言葉に僕は右に移動する。

 反射的に動いた僕だけれどそこで、先程までいた場所に黒い塊が落ちてきて、砕け散る。

 あまりにも速度が速かったがために確認が遅れたと僕は言い訳をしても良いのだけれど、


「ミルフィ、助かりました、ありがとうございます」

「はい!」


 そこでミルフィが嬉しそうに僕に答えたのだけれどそこで、


「今の何かな? ローデル君は油断したようだったのに、まあいいや。ちょっと強めの敵を他を犠牲にして、出しちゃおう。もう皆扉の近くにいるしね」


 まるで新しいおもちゃを見つけたかのように“彼女”はいったのだった。


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