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 現れた彼女は歌うように告げる。


「偶然出会えるのも“運命”だよね」


 笑い声と共に僕は、僕自身がここでは会う事もないだろうと思っていた人物……けれどミスティアの手に入れたあれは、“彼女達”が欲して止まないものだったから。

 かつんかつんと、靴が地面を打つ音がする。

 暗く溶けるような闇から、その闇が垂れさがり形づくるようにそれは現れる。


 けれどすぐに闇のよう、という印象はただの気のせいだと分かる。

 現れた“彼女”を見たならば誰もが思う色は“青”だ。

 澄んだ白い無垢な雲一つない快晴の空を見上げて、何処までも何処までも落ちてしまいそうな深淵とも思える蒼穹の色。


 青い空に不安は抱かないけれど、“彼女”からは悪意しか感じられない。

 相変わらずの無邪気な笑顔。

 彼女はこの笑顔で、子供が意味もなく“遊び”で蟻を踏み潰すように、その時の気分で笑いながら……人を殺すのだ。


 以前師匠が問いかけた時の答えは、自分のすぐそばにいて動いていたから、と答えていた。

 答えが答えになっていない。

 会話をするのも無意味な存在。


 だからここで問答無用で攻撃を加えてしまった方がいいのだけれど……ここには、“普通”の人たちが大勢いる。

 モブを目指すためにここに放り込まれたのだから、大人しくしておくべきか否か、そう思っていると、


「? 私が来ているのに、いきなり攻撃してこないんだ~、うーん、ちょっと会わないだけで“弱く”なっちゃったのかな? だったら“遊ぶ”? そうして来いって言われたし」

「残念ですが、僕にはそのつもりはないです」

「そうなんだ。だったらやる気を出させた方がいいかな? よいしょっと……ふふ、これなーんだ?」


 そう言って彼女が取り出したのは紛れもなく、ミスティアが無くしたといっていたアレだったのだった。


 





 “彼女”達があれを折っているのは僕も知っている。

 意味がある問いかけとは僕自身思わなかったけれど、


「それを盗んだのは貴方方ですか?」


 その僕の問いかけに“彼女”は小さく笑い、


「別にこれが貴方達の物であるわけではないでしょう? これは誰のものでもあり、誰のものでもないものだもの」

「どちらでも構いません。それを……返してください」


 とりあえずは、返してくださいと告げる。

 一応は言っただけでそれで頷いてくれる相手ではないのは知っている。案の定、


「いーやっ。ローデル君が“遊んで”くれるなら考えてあげる~、私の師匠にも内緒にしておいてあげる~」


 楽しそうに笑っている彼女はそこで、とろりと黒い闇の液体に変化して地面に落ちる。

 周りのみんなはぎょっとしているようだったし、僕も初めは驚いたけれどこの程度はまだまだ問題がない。

 驚かれたり怖がられたりするのが“彼女”は好きなようなのだ。

 

 悪趣味だと思うが。

 そしてあれを持っているのを見せつけられたから僕は追いかけざる負えない。

 あれは危険なもので、それもあってか師匠がこの世界に呼ばれたようなのだ。


 そして僕はアレを使われたがために何が起こったのかを知っている。そこで、


「あー、ローデル、そろそろ説明を頼んでもいいか?」


 リフに声をかけられたのだった。 


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