都市案内の前に宿を
突然、目の前の美少女エリザが僕に都市を案内してくれることになった。
いつそんな話をしたのだろうと僕が思っていると、そこで僕の耳元で、
「素直に私の言うことを聞くのね。さもないと、どうなるのか分かっているのでしょうね?」
含み笑いをにじませた声で、彼女は僕に囁く。
だがこういう場合にどうなるか分かっているんでしょうねと言われたその後、師匠があのお姉さん達に何をされていたかというと……。
僕はガタガタ震えながら頷いた。
その様子にエルザが、
「何でそんなに怯えるのよ。……まあ良いわ、ミルフィ、そういうことだから」
「エルザ、そんな話私は聞いていないよぅ」
「話したら絶対止めるでしょう? こんな見ず知らずの男の子に都市を案内するなんて」
「それはそうです。でも珍しいですね、エルザが自分から人助けなんて」
「……珍しくもなんとも無いわよ」
ぷいっとそっぽを向いたエルザにミルフィが小さく笑う。
「良い兆候だと思うよ。それでそちらの彼は、何て名前なの?」
「あ、僕の名前はローデルです」
「ローデル、ローデルね……。うーん、何処かで聞いたような気がしますが。そういえばどのような御用でこの都市にいらしたのですか?」
「僕、明日、魔法学園の試験をうけることになっているんです」
「! そうなんだ。あ、その腕輪、魔道具だよね。そうか、魔法使いの才能があるんだ。試験、頑張ってね。今年入学なら、私達と同じ学年だね」
「そうなのですか?」
「うん。入学できたら、よろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします」
そう言って僕は、ミルフィさんと握手する。
細くて小さな女の子特有の手だ。
そう思っているとミルフィと僕は目が合う。
ニコリと微笑んだミルフィに、頬が熱くなる。と、
「それで、二人で見つめ合っているのは良いけれど、そろそろ行くわよ」
「はい!」
何処か怒ったようにエルザに言われて僕は、彼女に都市を案内してもらうことにしたのだった。
まず教えて欲しかったのは、
「安価で清潔な宿を教えて頂ければと思います」
まずは拠点ともなるべき宿だ。
今日と明日、最低でも二日間は泊まる宿である。
出来れば以前のような場所は泊まりたくない。
そう思ったので言ったのだけれど、それにエルザが変な顔になり、
「清潔? まるで清潔じゃない宿があるみたいに聞こえるわね」
「以前師匠、ぼくの魔法使いの師匠に連れたれて、この王都の一角に来たことがあったのですが……その時の宿が、ちょっと」
「ふーん、どんな宿だったの?」
「隣の部屋との壁が薄くて、ギシギシ言ったり、女の人の声がしていて眠れなかったんです」
「……そう。その師匠がどうしようもない人物だってのは分かったわ」
「! そんな事はないです! 師匠は凄い人です!」
僕はそうエルザに言い返すとエルザは黙って僕を見てから、
「その宿が煩いと思っただけなのね」
「はい。……あの、何か」
「いえ、純粋だなと思っただけ。それでどこかの村が出身?」
「はい、レテイユ村です」
「そう、それで男子の友達はいた?」
「……」
僕はその問いかけにそれ以上答えられなかった。
ちょっとだけ他の人達よりも魔法が使えたから、孤立してしまったので大人になるに連れて友達はいなくなってしまった。
でもこの魔法学園ならそんなことはないのでは、とも思った。
「流石です、師匠」
僕はそう呟くと、エルザに変な目で見られたがすぐに、
「まあ良いわ。これから安くていい宿を紹介してあげる」
エルザに僕はそう言われたのだった。