罠
炎の結界は、エルザ達を守るのに功を奏したらしい。
けれどエルザの腕に大きめの切り傷が出来ていて、慌てたようにミルフィが治癒魔法をかけている、が。
真っ先に走り出したリフ、そして僕。
その後をルルとセンリが追ってきているが、覗き込んだリフが焦ったように、
「エルザ、大丈夫か!」
「お義様……く、もう追いつかれてしまうなんて」
「いや、そんな事を言っている場合じゃなくて……なんだ? 傷の所に何か……」
リフがそう言っているのを聞きながら、僕がのぞき込むと、傷口に薄ぼんやりとした文字が浮かび上がっている。
“呪い”の一種ではあるけれど、この“遺跡”には似つかわしくない気がする。
こういった類の魔法には覚えがあるけれど、それらしい模様が見られない。
嫌な予感がしたのだ。
あのミスティアという人が現れて師匠の今について何か知っていそうなあたりが、何かあったような気がする。
とはいえ、それよりもエルザの“呪い”を解かないと傷口が塞がらない。
むしろそのまま治療した方が傷が深くなり、死に至る……そんな魔法だ。
早く解呪しないとと僕が思っているとそこで、
「うーん、そういった魔法よりはこっちの方がいいかもね」
ルルが近づいていく。
彼女は治療に関しては優れた“聖女”だ。
十分に任せられる。それに。
「また大量にさっきの大型蝙蝠のような物が大量に飛んできたな。よし、今度こそは俺の出番、か!」
リフが早速呪文を唱え始める。
そしてセンリも剣を取り出し構えをとる。
さて、僕はどの魔法を使おうと一歩前に出ようとしたところで、治療中のエルザが、
「待って、その先に罠があるから! 私はそれにやられた!」
「あ、はい。確かに罠がありますね……先に全部解除、破壊をしておいた方がいいか。じゃあ、罠関係は僕が解除しますね」
「そんな簡単にできるわけない……なんで罠があるってわかったの?」
そこでエルザが治療されながら僕に言う。
それを聞きながら僕は、うん、初心者だなと思いつつ、
「そこの壁やら何やらで小さい魔力を感じるから。でも、リフ達が怪我をしないように先に処理しておこう。“探査”」
僕は魔力を“声”に乗せて使う。
その“声”が周囲に散らばり罠の部分に強く反応する。
要は目印をつけた状態だ。
これを師匠なら、探査するだけで全ての罠が解除される。
種類関係なく、その範囲も任意なのだ。
似たようなことは僕もがんばればできるけれど、そこに行くまでの過程は煩雑になる。
もっと単純に美しく魔法が使えればと思う。
でもまだ無理なのならその範囲で、僕のできる範囲で戦うしかないのだ。
そこで“印”をつけた場所に向かって、僕は、
「“氷水の連矢”」
呟き、ゆらゆらと水の矢を複数作り上げる。
後はターゲットの場所に向かってそれを飛ばす。
「行け」
目の前で蝙蝠を切り裂き、炎で焼き尽くしているセンリとリフの邪魔をしないように、それらを飛ばす。
先ほどの探査で発覚しているのは、8か所。
ビチャッと水が当たる音がすると同時に氷となり、細い隙間を超えてその罠の機構の内部に入り込み、その装置を動かす過程を止める。と、
ガウンッ
大きな音を立てて金属製の刃がいくつも現れて、それらによって蝙蝠が輪切りにされて倒される。
そしてその刃は、罠の発動を着るとその道の中央に停止するようだった。
幸運なことに今の罠の解除で残りの蝙蝠はすべて倒されたようであったけれど、
「……この文字は」
そこに描かれていた文字は、エルザに先ほどかけられた呪いの文字と同じだったのだった。
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