私の魔法がぁあああ
エルザが呪文を唱え始めた。
風系の危険な魔法である。
僕の不用意な一言でエルザが本気を出してしまった。
正気を失っているかのように怒りで瞳が爛々としているエルザ。
これではこの闘技場の外の生徒まで、危険が及んでしまう。
エルザは気づいていないようだが。
そこでリフが、
「エルザ、そこまでにしておけ! 周りに被害が……」
「お義兄様は黙っていて!」
「……ローデル、後は頼んだぞ~」
エルザを止められないと悟ったのか、リフが丸投げした。
もう少し粘ってもいいんじゃないかという気が僕にはしたけれど、お任せされた僕は、されずともする予定だった魔法を使う事にした。つまり、
「“魔法無効化”」
「ふああああっ、ちょ、私の魔法がぁああああ」
エルザの魔法、つまり集まってきた風の力を霧散させる。
この“魔法無効化”は相手の魔法に介入し上手く“誤魔化”のが必須である。
そのため、自分とは違う、“相手に合わせた魔法の操作”が必要でその繊細な魔法操作から、基本的にあまり使われない。
僕もそれよりは普通に魔法をぶつける方が得意なのだけれど、エルザに怪我をさせるわけにも、エルザに誰かを傷つけさせるのもダメと決めていたのでこうなったのだ。
だがこの“魔法無効化”はされた分だけその使用しようとしていた魔法の分の魔力が、術者から減少する。
その分魔法を使えなくなるのだから、エルザが涙目になっているのも当然だろう。
私の渾身の魔法が……と先ほどから呟いている。
だが僕にも僕の事情があるので、倒れてもらおうと思って近づくと、まだエルザは戦意喪失していないようだった。
そしてすぐに僕を睨み、呪文を唱え始めるが、
「“魔法無効化”」
「ま、これ持って、く、だったら……」
今度は炎系の魔法のようだった。
とりあえずエルザの唇から呪文を読みつつ僕は、
「“魔法無効化”」
「ま、また私の魔法がぁあああ」
涙目で今度はエルザが氷の魔法を使おうとするが、
「“魔法無効化”」
「こ、これもっ……私の魔法がぁ、このっ。貴方、いったい何の恨みがあって私に魔法を使わせないのよ!」
「と、とりあえず僕は、僕は……女装メイドになるのは嫌なんです! それに、エルザや周りの人達が怪我をしないようにしないと……」
そう僕は叫ぶと、エルザは一瞬無表情になってから、
「ふーん、周りを気遣う余裕があって、私や周りの人を傷つけないように、ね。……ここまで馬鹿にされたなら、たとえ負けたとしても私の力の片鱗を見せつけてやりたいわ」
「あ、あの……」
けれど僕の言葉をエルザは聞いていないようだった。
そして、次にエルザが何の魔法を使おうとしていたのか気づく。
だがこれは攻撃の物ではなく、エルザが言うとおり彼女が僕に力を見せつけるための物のようだ。
そこで僕はそれによってエルザの魔力が大分減少するだろうと予測する。
しかもエルザは満足する。
よし、とりあえずこの一発だけは、使わせようと思って僕は風の魔法で宙に浮かび上がった。
「“大地の亀裂”」
それと同時に、地面を割るような巨大な力をもって闘技場にエルザが穴をあける。
攻撃魔法ではないが、無茶なと僕は思いつつ見る。
エルザは今の魔法でかなり魔力を消耗しているようだった。
と……その穴の下に何か構造物があるのが亀裂から見える。
周りが騒がしくなっていて、エルザ自身もそれを知らないようだったけれど、僕には見覚えがあった。
そこで、光さす亀裂の底で、コロンと青い石のようなものが転がり、小さく震えだしたのだった。
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