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あの過酷な現実

 一瞬クラスの生徒全員がざわめいた気がした。

 けれど僕としては、あまりふわっとした定義ではなく厳密に約束事は決めておくべきだと知っている。

 それでよく師匠がお姉さん達に良いようにされて、貞操の危機に陥っていたのだから!


 さて、そのような理由から僕はエルザに問いかけると、エルザは少し考えてから、


「そうね、“奴隷”というからには、貴方を“ご主人様”と呼ぶような関係になるのかしら」

「? それは、エルザがメイドさんになるという事でしょうか?」


 大きな貴族のお屋敷には、黒い服に白いエプロンを着た女の子達が働いているのを見たことがある。

 またある都市では“メイド喫茶”なるものがあって、確かに彼女達はお客さんの事を“ご主人様”と呼んでいた気がする。

 でもそのどちらも“奴隷”ではない。


 だから僕が首をかしげているとそこでエルザが、


「た、確かに言う事を聞くというと、メイドっぽくなるけれどそうじゃなくてもっと……」

「もっと?」

「え、えっちな事とか、性的な、こう……」

「?」


 顔を赤くしてもじもじするエルザだが、僕にはよく分からない。

 以前師匠には、『奴隷の女の子が居たら、酷い扱いをしちゃ駄目だぞ? ローデルは村か出身だからそういったものは見たことがないかもしれないが、奴隷といっても女の子には優しくするんだぞ』と言われていたのだ。

 だからどうしてその、えっちな事に繋がるのか分からない。


 僕がよくわからずに黙ってエルザを見ていると、エルザがさらに顔を赤くして、


「ほ、ほら、いう事を聞かせられるようになるわけだからこの場でその、服を脱いで裸になれとか、あ、後はほら、ここでスカートをめくってみろとか……そんな命令をするとか……」

「でも、そんな命令をしたら、女の子が可哀想なのでは?」

「そ、そうね……そう……」


 エルザが顔を赤くしながら僕の問いかけに段々と声が小さくなり、うつむき、それから小刻みに震えだした。

 様子がおかしい。

 どうしたのだろうと僕が心配をしているとそこでエルザが、


「……また私を騙したわね」

「え、な、なにが……」

「わざと私にいやらしいことを口にさせるためにそう聞いたのね。そして自分はいかにも、純真無垢な穢れのない存在であるかのようにアピールすると……」

「そ、そんなつもりじゃ……」

「言い訳は聞きたくないは。意見を通したいなら力で証明することね。それで、“決闘”は受けるの? 受けないの? もっとも、受けないといったらそれなりの手は打つけれど、どっち!」

「う、受けます!」


 エルザの迫力に押されて僕は、受けますと宣言してしまった。

 だがここで僕はあるミスを犯したことに気付く。つまり、


「あ、あの、僕が負けたらどうなるのでしょうか」

「……そうね」


 そこでエルザがにたぁと、今までで見たこともないような黒い笑みを浮かべた。

 僕は危険を察知したけれど、どうしようもない。

 エルザがゆっくりと楽しそうに僕を見て、言う。


「これから……女装メイドにしてこき使ってやる。顔もなかなか可愛いし、メイド服が似合いそうだしね。もちろんミニスカートにしてやるわ。それと絶対領域ありのニーソをはかせてやる。他にどうしてくれようかしら」


 楽しそうに僕を見てどうしてやろうかと言い出したエルザ。

 それを聞きながら僕は今までで一番恐ろしいものを味わったかのような気分になり、真っ青になる。

 鬼畜だ、このエルザっていう女の子はすごい鬼畜だぁああ。


 そういえば以前師匠達と一緒に女の園にもぐりこんだことがあったけれど、お姉さん達が本気を出したおかげで……男だと全くばれなかった。

 良かったけれど絶望した。

 師匠と共に。


 あの過酷な現実をもう一度僕に突き付けようというのか?


「ぜ、絶対に勝たないと」


 僕がそう呟き決意した所で、走る足音がして、


「エルザ……待ってよぅ……ふう、ようやく追いついた。あれ?」


 そこでやって来たミルフィが、何が起こっているんだろうというかのように教室をのぞき込んだのだった。


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