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手の平でコロコロされている

 ミスティアに視線を映されたリフは、びくっと震えていた。


「お、俺は関係ないはずでは」

「……優れた才能を持つ人物の囲い込みという面では、偶然とはいえ真っ先に王子様が声をかけたのは正解かもしれない」

「お、俺は王子ではなく他人の空似……」


 何故か往生際悪く、リフそう言って頑なに王子ではないと言っている。

 他の人達には全員バレているようなのにと僕が思っているとミスティアが嗤った。


「愚かな王子様だ。あの程度の偽装工作を施した書類で私を騙せると思っていたのか?」

「!」

「今どうしてバレたと思ったな」

「当然です。アレを作るのにどれだけ宮廷魔術師やらお抱えの……いえ、それは良いです。どうして気づかれたのですか? 姿が似ていたなら他人の空似……」


 必死になってリフがミスティアに聞いている。

 でもこの人だったらそれくらいしそうだなと、今まで何度も接触した経験からそう僕は思った。

 そしてミスティアは楽しそうに、


「あの偽装は暇つぶしのパズルにもならないレベルだったが、なるほど、頭の硬いお城の人間達がその叡智(笑)を結集して作ったと言うのは、面白いな」

「なん……だと……」

「そもそもこの学園にはいる者達は、一度は私自身が目を通している。その人物本人と書類、どちらかは確実に。そんなことも知らないのかな? 王子様は」

「いえ、それが分かっているからこその偽装だったはずです。あんなに頑張ったのに」

「なかなか面白い方法を使っていたがアレよりも、凄まじい工作のされた書類は見慣れているからな。ちなみに、ローデルの書類は一切、工作がなされていなかった。アレには私も笑ったな」


 リフが無言で僕を見たが、普通書類は偽装するものではないはずなのだ。

 なのに、どうしてお前は偽装しないんだ、というかのようなリフの視線が痛い。

 そう僕が思っているとミスティアが、


「まあ、そういう事だから。それに王子様もローデルの探しものを手伝ってみるのも良いのでは? その程度こなせないようでは冒険者ギルドで、一度も冒険しない冒険者(冒険に行かずに登録しただけ)の称号、“無色者(ホワイト・マン)”を頂いてしまうぞ」

「く、冒険者にとっての最大級の屈辱、よく入口付近で倒された冒険者がやる気を無くしてその称号を得ると言われている……分かりました、探しものの一つや二つ、俺にだって出来ます」

「そうかそうか、では二人共よろしく。それと、もう少し詳しい話が聞きたいのであれば今日の放課後あたりに私の部屋に来ると良い」


 そういうミスティアだが僕としては、


「何処に聞きに行けばよろしいのでしょうか」

「学園長室だ。私はここの学園長だからな、今は」

「え?」


 新たな情報を得た僕だが、それ以上説明せずにミスティアは去っていく。

 だが僕は今更ながら、面倒事を押し付けられたのに気づいた。

 たしかに彼女の言うその金属は“危険”なものであるけれど、いち生徒として入学した僕に頼まずともいいものなのだ。


 しかもミスティアは師匠すらも上手く“使ってしまう”人物。


「大丈夫じゃない気がする。僕のモブへの道が……」

 

 僕は小さく呟いたのだった。








 ローデルがミスティア学園長とお話をしている頃。

 エルザは自室の鏡の前で顔を洗っていた。

 頭を冷やす目的もあった。


 そこでエルザが大きく深呼吸をして、吐く。


「この私が、あんな庶民の男の手の平でコロコロされている……そんなの許せない」

「そういうことはないと思うけれど」

「ミルフィ、貴方はどちらの味方なの?」

「意地を張るのは良くないよ、エルザ」

「……ぷいっ」


 ミルフィの窘める声に、エルザはそっぽを向く。

 それを見ながらミルフィは、苦笑する。

 エルザにしては珍しい反応だ。


 なのでミルフィは、


「お友達になれると良いね」

「な、何で私が!」

「? 違うの?」

「違うわよ! もう良い、教室に行く!」

「エルザ、待ってよ~」


 こうしてエルザとミルフィーは、新しい学年の新しいクラスに向かったのだった。


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