いい方法を教えてあげよう
やあ主席弟子くん、そう言われたその声に僕は振り向いた。
そこにいるのは美女なのは分かっている。
よく見知ったそのスラっとした長身の美女の姿を見つけて僕は一歩後ずさる。
青い瞳に赤い髪を束ねて輪を作るようにして後ろに結んでいる彼女。
名前はミスティア・ウェイト。
だがこれも偽名かもしれない。
余裕の笑みを浮かべる彼女は、僕や師匠達にとって何処にでもいる人物だ。
師匠の動きを監視するために時々僕達を追いかけ回し、時に僕をそそのかして師匠を巻き添えにしたりする危険人物だ。
だがそんな彼女も時折僕達の手助けをしてくれることもあったりで、完全に憎みきれない人物でもある。
ただこれだけは言える。
彼女が現れたと同時に、厄介事が降ってくる。
そもそも、先ほどの呼び名自体がおかしい。
「なんですかその、首席弟子って」
「ん? 筆記試験で首席をとっただろう? ルーデル君」
「ローデルです! 首席、ですか?」
「入学試験の最後の学力試験で、全問正解だった。試験官が満点なんぞ受験生に取らせてたまるかと入れておいた変な問題すらも解かれて、来年は更に難しくすると息巻いていたぞ」
何でそんなことにと僕は心のなかで悲鳴を上げた。
だって試験の椅子は本当に、ちょっと手を抜こうかなと思った瞬間、ピリッてしたのだ。
その小さな電流の走る感覚はそれだけで傷みを感じたのだ。
僕は痛いのはそれほど好きではないので(以前師匠が戦った相手に、痛みを快楽に感じる敵もいたが、僕にはそのレベルまで辿り着けそうになかった)その攻撃に降伏し、大人しく試験を受けたのである。
内容なども含めて以前の姉さんに教わった内容で十分どうにかできる範囲であって、つまり、
「モブになれない」
「首席弟子くんは一般生徒になりたいのかな?」
「そうです! もう少し周りの常識を学び溶けこむようにする、それが僕に課せられた使命なのです!」
「そうかそうか、では、いい方法を教えてあげよう」
「本当ですか! ……いや、ミスティアさんはそういったまた僕を、良いように扱う気なんです」
「うーん、そういうなら仕方がないなー、首席弟子くん。もしかしたら師匠のお手伝いができるかもシレナイノニナー。シカタガナイナー」
「……待ってください、師匠のお手伝いってなんですか?」
師匠と言われてしまうと僕は弱い。
そんな僕を見て獲物が引っかかったというかのように、ミスティアが笑う。
「実はあるものを探して欲しい。この学園内にある人物が隠したものだ」
「どんなものかを具体的に言っていただかないと困ります」
「それは立方体の形をした金属だ。だが表面には細かな模様が刻まれている。……何か分かったようだな。そう、それだ」
「何でそんなものがこの学園内に? ここは生徒の学び舎、ですよね?」
「“特に才能を持った”生徒、な。才能が有るものとなれば誘惑も多い。そして、すでにそういった人間を仲間に引き込もうと、入り込んでいる者達もいる」
僕は黙ってその話を聞いた。
才能のある人間に誘惑が多いのも師匠を見ていたから分かる。
それでも師匠は、悪い誘いに乗らなかった。
強い人だと師匠の事を僕はその時心の底から思ったのをお思い出す。
そこで、ミスティアがリフに視線を移したのだった。




