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僕だけ知らなかった気がする

 現れたエルザはランニングの途中であるらしい。

 長い金髪を一つに束ねてポニーテールにし、弾のような汗をかきながら走っている。

 着ている服はジャージという、おしゃれの欠片もないけれど僕には輝いて見えた。


 そんな彼女の後ろには、エルザとこの前も一緒にミルフィが青い顔で追いかけてきている。

 だがエルザが止まったことで、ようやく彼女も休めたようだ。

 ちなみに朝が早いとはいえ、そこそこ生徒は登校したりエルザのように朝の散歩をしているようだ。


 だから僕に向かって、エルザが声をかけてきたのを目撃した彼らは、僕達に視線を移したままピタリと動きを止める。

 しかもそのまま野次馬のように僕達を遠巻きに取り囲む。

 だがこの位置からであれば彼らの小さな声は、僕にも聞こえるようだった。


 あのエルザ様が……とか、おい、あの外部入学生と一緒にいるのは王子……とか小声でヒソヒソと話している気がする。

 リフの正体はすでにここの人がほとんど知っているのではないか疑惑が、僕の中で膨れ上がった。

 そもそも仮面と言っても、顔の上半分だけの可能性だってあるのだ。


「リフ、皆に正体が気づかれている気がする。というか僕だけ知らなかった気がする」

「HAHAHA,ソンナワケナイジャナイカ」


 声が裏返っている辺り、リフの想定通りなのだろう。

 つまり、知らなそうなのは僕だけだったので、普通の友人候補と狙われてしまったのかもしれない。

 やはり世間知らずなのは良くないなと思っているとそこでエルザがリフを見て、

 

「義兄さん、どうしてそいつと一緒にいるのですか?」

「ん? エルザも知っているのか? 俺はこのローデルと友人になって寮も同じ部屋だから一緒に歩いているのだが」

「友人、ですか? どうしてまた……」

「その様子だと、ローデルについては殆ど知らなそうか」

「どういうことですか?」


 冷たく僕を見るエルザ。

 こういう顔をしていると威圧感があるなと思いながらも僕は、偶然にもエルザに会ったので今こそ謝るべきだと思った。


「あの……」

「何?」

「この前は、服を破ってしまい申し訳ありませんでした!」


 僕は大きな声で謝り頭を下げた。

 周りのヒソヒソと言った声すらもなくなる沈黙。

 どうしてだろうなと思いながら恐る恐る僕が頭をあげると、そこには顔を赤くしたエルザがいた。


 なにを僕は間違えたのだろう、そう僕が思っているとそこでエルザが、


「か、勘違いしないで。私が服が破れてもいいから、して、と言っただけであって……」


 周りの観衆がざわめく。

 確かにエルザが言ったのでその魔法を僕は使ったのだ。でも、


「でもエルザは路地で下着になっちゃって、その後に怒って走って行ってしまったので僕が原因かと」

「ち、違うわよ。ただもらったズボンが小さくて入らな……」

「え、えっと、すみません」


 僕はその意味に気づいて察して、謝った。

 師匠がたまに不用意に、太った? とお姉さんに聞いて……。

 つまりこれは禁句だったのだ。


 だから僕は空気を読んでそれ以上語らなかったのだけれど、エルザはさらに顔を赤くして、


「……な、何でこんなこと私が言って謝られなきゃいけないのよぉおおお」

「エルザ、待ってぇえ」


 泣きながら去っていくエルザ。

 そしてエルザの友人のミルフィ。

 そういえばこの前もそうだった、と僕が思っていると周りの生徒達がヒソヒソと、


「え? あのエルザ様が泣いて走っていったぞ?」


 と話しているのが聞こえる。

 僕、何を間違えたのだろうと思っているとそこでリフが、


「お前、凄いな」


 何故か感慨深いように僕に告げる。

 こうしてモブになりたい僕が、悪目立ちしてしまった入学初日、朝だった。

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