目撃者は消すべきか
リファインが手を振る。
そこで気づいたのはお付の人? のような黒ずくめの人物達がいない。
何処に行ったんだろうと僕が思っていると、リファインが笑顔で、
「やあ、やはり突破したようだね」
「そうみたいですね。でもよく分かりましたね」
「それは以前地方に行った時に、君が魔法を使っているのを見たからね」
「……それで分かるものなのでしょうか」
「うん」
即答されてしまった僕は、もうちょっとごく普通の善良な一般市民を演じるべく、ここで他者を観察しようと決めた。
さて、さわやかなイケメンである彼に僕は、
「先程の護衛のような方は?」
「彼らには帰ってもらった。今日から偽名で暫くは学生生活を送るからな」
「……偽名?」
そこで周りを見回してから小声で僕に、
「実は仮面をつけた、謎の王子、それが俺だ」
「……はあ」
「? 反応が薄いな」
「そもそも僕、田舎にいたのでこの国の王子様といった王族を見たことが無いです」
「んー、地方に視察という名の旅行に行った時俺達、君たちを見かけたぞ? 美少女がいっぱいいたから間違いない」
「でも僕は記憶が無いですよ?」
「ああ、それは、あそこの地方の悪徳領主を成敗している最中だったからな。倒してすぐに俺達に気づくと何処かに逃げていったんだよな」
僕は無言にならざるおえなかった。
それは反逆とかそういったもので、気づかれるとまずいような内容であって確か……いや、幾つもやったのでどれだか分からない。
だが目撃されたのは事実だ。
つまり目撃者は消せ、ということなのだろうか?
師匠なら殴って都合のいい部分だけ記憶を喪失できたはずなのだが、僕には出来るだろうか?
「やるしか無いか」
「追い詰められているように見えるが、今ここで動くのは得策じゃないぞ。ここは王族の“庭”のような場所だ」
「……何が目的なのでしょうか」
「いや、その悪徳領主関係は挿げ替えも出来たし、こちらにとっていい事ずくめだったからそれに関しては手配書は回っていないはずだぞ」
「……」
「そもそも、君の師匠は、アレなこともしているが、それ以上に功績が多いから表彰レベルの状態じゃなかったか」
「……ではどうして僕に声をかけたのでしょうか」
彼の目的が分からずに僕が聞くと彼は、
「いやー、森やダンジョンやら古代の遺跡やらに冒険に行きたかったんだ。だが仲間がいないので良さそうな人間を見繕うと決めていたら、君がいた。俺の前に」
「つまり冒険仲間が欲しかったと」
「そうだ、後は同い年の普通の友人だな。まあ、秘密を知ったからには君も巻き添えだが」
「! まさかだから僕にそれを話して!」
「その通りだ、これからよろしく、相棒」
そう言われた僕は、なんてことだと思う。
お友達とはもっと……もっと……。
そこまで考えた僕は、最近友達がいなかったのを思い出し、二重の意味で泣きたくなってしまった。
そしてこれから僕はどうなってしまうんだろうと。
「……今すぐここから逃げ出して、師匠の所に逃げ込むのも手だよね」
「あー、試験を今から途中で逃げ出したら、測定装置の費用を請求されるかもしれないぞ。壊すために来たと思われてもおかしくないし」
「……」
「落ちるとしたら筆記試験だが、わざと落ちるような事をすると電流が走る椅子に座らせられるからな」
「!? どうして!」
「いや、以前、それをやって能力がないなどと偽った魔法使いがいて、それで大変なことになってな……それ以来、ぶっちゃけ魔力が有る一定以上ならほぼ合格になっているんだ。つまりこの時点で、合格と言っても過言ではない」
「……もしこれで筆記試験に落ちるとどうなるのでしょう」
「学園に入れないが確か、どこかの研究所の地下で、延々と魔力を注入するだけのお仕事に回されるという噂があったな。魔力が多いだけでも悪用されると危険だし。そもそも成長するに従って魔力が増大した場合の回収も兼ねた試験でもあるからな」
そんな話を聞きながらそういえば以前師匠に、“ステータスオープン”されて、たった一ヶ月でこんなに伸びたなと褒められたのを思い出した。
でもひょっとしてこれはここに来ないとまずいフラグだったのでは、と今更ながら僕は気づいたのだった。




