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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

地図で読む異世界史

地図で読む異世界史

作者: アリス&テレス

舞台となる星は地球と同じサイズの星で、地図に表示されている範囲は、緯度 0°~60°の範囲です。

後書きにメルカトル図法で日本地図と地中海との比較図を加えております。


現在この話しから500年後の世界を舞台にした連載を書いています。

http://ncode.syosetu.com/n4196dj/

地図で読む異世界史『復活の女王』ハードモードもチート回数制限も平気です、人は考える葦なのです

ここに数枚の地図がある。

挿絵(By みてみん)

今回紹介するピタゴラ帝国より以前からこの世界に在る、エルフの地図と呼ばれる物だ。非常に細かく精密な図法で書かれている。


標高図

挿絵(By みてみん)

河川図

挿絵(By みてみん)

かつては、古代遺跡より掘り出され、ピタゴラ帝国によって築かれた各都市の門に掲げられていた地図だ。

この地図を使ってピタゴラ帝国とセト中海世界の歴史を紹介しよう。


★ピタゴラ帝国


かつて巨大な世界樹(※1)セトに見守られたセト中海世界は、一つの帝国によって2000年の栄華を誇っていた。

ピタゴラ帝国である。

挿絵(By みてみん)


初代は、異世界より集団召喚された異邦人、約5千人の集団による小国家が始まりとされ、彼らは軍隊であり、技術者であり、政治家であり、そして哲学者であった。

人種の統一感は無く、黒い肌や褐色、白い肌までさまざまだ。

彼らが築いた街にイスカンダルや、アレキサンドリア等の名前が付いているので、名前に何らかの関係がある土地から来たのだろう。

彼らは一個の国としての機能を持ったままセト中海世界に現れ、わずか2世代50年の間にセト中海世界を統一するに至った。


セト中海世界は、魔法(※2 )のある世界である。

初期ピタゴラ帝国異邦人達の多くは、魔法才能に恵まれてはおらず、魔法を使いこなす先住民のセト中海人の目からは、ひ弱な異邦人とみなされ、相手にされていなかった。

挿絵(By みてみん)


ところがピタゴラ帝国人は、組織戦を得意とする軍隊と、優れた計算力をベースとした進んだ土木建築術に、セト中海世界の魔法技術を組み合わせ、一万人の軍隊を一日に200km移動可能な高速交通網(※3) や、城の周りの地形も城塞にしてしまうほどの土木建築術によって、周辺の蛮族や獣人、亜人の集落を取り込み支配地域を広げていった。

挿絵(By みてみん)


同時に、他国内の内紛を利用し分断したり、外交力で同盟を結んで襲いかかるような政治力の巧みさで、最初は圧倒的な実力差の有った敵対国を次々と破り、世界に現れてわずか50年程の時間で、世界の支配者として君臨することとなる。

挿絵(By みてみん)



帝国議会議場のレリーフに初代王の言葉が残っている「魔法に頼るな、お前の肩の上に乗ってる物は何だ?我々は巨人の肩の上に乗って世界を引き継いだのだ。考えよ」と。



★初期~中期 君主制→共和制ピタゴラ帝国時代



集団召喚直後から異邦人5千名を中心とする市民社会が形成され、共和制に近い形を作っていたが、環境の激変に対処するため強い権限を持つ王制が取られ、帝国の版図拡大の礎を築くことになる。

挿絵(By みてみん)


初代王の死亡後、王家とのパワーバランスが変化し、市民による共和制へと戻る事を選択するようになる。

市民評議会選出による執政官が置かれ、合議制の政治が行われた。



★中期 寡頭制ピタゴラ帝国時代

挿絵(By みてみん)


ピタゴラ帝国がセト中海世界のほぼ全てを手中に収めてから百年、外の敵を失った帝国は大きな危機を迎えてた。

帝国議会内に大貴族が生まれ、少数の大貴族が権力の場を独占する事による寡頭制が取られるようになる。

これによって市民階級と大貴族間の軋轢が生まれ、さらに大貴族内でも権力闘争が始まる。

帝国中期には議会内の混乱により帝国分裂の危機が起きた。

当時の執政官達は、国家の価値観を統一する名目で、最も勢いのあった一神教セト教を国教として採用。信仰心を利用し、かろうじて国家分裂危機を回避する。




★中期~終期 アルキメーデ朝ピタゴラ帝国時代



帝国中期の混乱期に1人の魔導科学者執政官が現れる。アルキメーデである。

アルキメーデは勇者召喚方法を確立し、独占することで大貴族を抑え、権力掌握に成功した。自らを皇帝と名乗り、帝国国内の混乱を収める。

以後皇帝一族が皇帝を世襲し、皇帝制へと移る。

アルキメーデ朝ピタゴラ帝国となり、後半の一千年が過ぎた。




ピタゴラ帝国の政体を評価するに、基本的には人族支配による治世が行こなわれていたと言っていいだろう。

例え、異種族や地方植民地への圧政に反発した小規模反乱があったとしても、大きな戦乱は起きず、大半の人々は平和と文明生活を謳歌していた時代であった。




※1 世界樹セトについて、世界樹は、セト中海世界に31本確認されている巨大な樹木だ。

最も大きい世界樹は、直径で800km近くあり、高さは空を突き抜けて見ることができない。

世界樹は、星から吸い上げた魔素(マナ)を大気中に注ぎ込む。セト中海世界に住む生き物の多くは、魔素(マナ)を身体に取り込み生きている。

挿絵(By みてみん)


世界樹の種類には、精霊樹の『紅樹、蒼樹、翠樹、黄樹』の四種類と、光りと闇の両方の特性を持つセトと呼ばれる世界樹がある。

精霊樹は世界中に散らばって発見されているが、セトは世界中央に3本だけが確認されている。

セトの中で格段に大きな物は「始まりの樹」と呼ばれている。



※2 魔法について、セト中海世界には魔力の元となる魔素(マナ)が存在し、動植物の細胞内に取り込まれる。

挿絵(By みてみん)


この世界の動植物は、細胞に取り込まれたマナをHP(ヒットポイント)と、MP(マジックポイント)と呼ばれる二種類の魔力に変換する特別なミトコンドリア細胞を持っている。


 HP(ヒットポイント)魔力は、ヒット(撃たれる)度に体力値(ポイント)が減っていくためHPと名付けられた。ステータス等の数値表現方法が無いため観念的な表現で使われる。

この世界のHPは、細胞内で肉体を強化し筋力が増加する。また防御力としてのHPシールドが体表面に展開され、HPがある限り肉体が破壊されることはない。(痛みは残る、場合によるとその部位は動かなくなる)

問題は、HPが減る度に筋力強化に回されていたHPを防御シールドに回すので、筋力の低下と疲労感が増していく点にある。HPが切れると全く動くこともできくなり生命活動に支障が起きる。

また肉体の弱い部位への攻撃は特にHPが減る傾向がある。

HPシールドは常に展開されている訳ではない。攻撃を認知した時に展開される。意識外(不意打ち等)の攻撃は痛恨の一撃になってしまう。


HPおよび、MP魔力細胞から作られる魔力は、あまり効率的な物ではなく、全ては使い切れない。全生産数の内約半分は細胞維持の為に細胞内に留められているが、筋力やシールドに使う実HPが極端に減ると生命活動維持の危険を感じ、末端の手足を捨ててでも中央の重要な器官を守るため、予備に残されていたHP及びMP魔力を体中心に集める。

挿絵(By みてみん)


このまま死亡した場合、集まった魔力が冷えて固まる時に周りの細胞組織を取り込み魔石となる。(胸が陥没するように穴が空いて魔石が採取される)

魔力が冷える前だと、生前に攻撃者から受けた魔力と反応する事で、攻撃者が手をかざすとその手に吸い込まれるように魔力が吸収され経験値になる。


・HPは体力・HP防御シールドを支えるHP魔力※数値表示されないので感じ取るしかない。

・HPが減ると筋力も減る。

・攻撃を受けるとHP魔力がある限り怪我はしないが痛い。

・HPが無くなると動けなくなる。

・HP防御シールドは攻撃を認識しないと展開されない。

・HP魔力利用効率は良くない、生産数の約半分しか使えず残りは細胞維持に使われる。

・HPが極端に減りだすと身体の中心を守るため予備HP魔力が集まる。

・死亡すると集まったHPが魔石か、攻撃者へ吸い込まれて経験値になる

・倒した経験値は、物理攻撃を行った時の方が多くHP値が上がる。魔法攻撃がメインの場合はMP値が多く上がる。


 MP(マジックポイント)について、セト中海世界には、精霊魔法(火水風土)と光・闇魔法がある。これらの魔法を使うときに消費される魔力がMP。

MPミトコンドリア細胞によって魔素(マナ)からMP魔力は精製される。

HP魔力とは別物で、魔法を発揮するためだけの魔力。

MP魔力も半数が予備としては残り、命の危機になると体の中心へ集まって魔石になる。



※3 高速交通網は、世界樹の麓や大森林部に生息する巨大な甲虫(大きなもので長さ20mを超える。通常は10m程度)を牽引力に使い、後ろの貨車を平均時速20kmで牽引して一日に200kmを移動した。

石畳で舗装された道路上には、等間隔で二本の溝が掘ってあり、その溝には先程の巨大な甲虫の腸(小型甲虫でも1kmを超える長さが採れる)を加工したクッションが敷かれ、貨車内の揺れを大幅に減らし、車軸への負担をも減らした。

また腸を加工したクッションは、常時魔石から魔力供給を受けることで弾力を保ち10年近く使えたと言われる。


これらは帝国の心臓部と言うべき技術で、情報は統制されており、帝国崩壊と共に大半の技術は失われた。



●魔王について


そんな帝国の支配において最も頭を悩ませたのは、魔王の存在だ。

魔王はピタゴラ帝国より前の歴史に度々現れ、多くの巨大国家を滅ぼしてきた。

魔王は特に決まった姿をしていない、魔人であったり、魚人であったり竜であったりした。

文献の多くに現れる魔王の特徴は、金色の瞳を持ち、自分の支配した魔獣や魔物の群れを一個のスライムのように操って、世界を飲み込んだ。



●勇者について


魔王にも天敵はいる。勇者と呼ばれる存在だ。

勇者についても多くの文献には、魔王と同時に世界に現れるとされる。多くの勇者は異世界より来訪したと証言しており、勇者の印が覚醒すると金色の瞳が現れ、その瞳で魔王の所在を暴いて倒してきたとされている。


ピタゴラ帝国初期にも魔王は現れ、多くの犠牲を払ったが、帝国軍の一将校が勇者として覚醒して魔王を打ち破った。この時の勇者は最初に居世界から来た異邦人の子孫であった。

その後2000年の間に何度か魔王が現れたが、帝国はその領内に高速道路網※1 と高速通信網を敷き、魔王発生に即応することで、発生初期の弱い内に倒す必勝パターンを確立してこれに対応した。

だが、必勝パターンが失敗すると、勇者が現れるまで多くの犠牲を出して国力を疲弊させた。

帝国中期に現れたアルキメーデ皇帝によって、勇者召喚が確立され、以後の魔王被害は激減することになる。





★帝国の終焉



2000年の歴史を持ち、魔導科学によって盤石の基礎を築き、総人口で3億弱まで国力を増やしたピタゴラ帝国であったが、栄華を極めた慢心からその繁栄に綻びを生じる。


・最初の一撃


帝国末期、魔王への危機感は薄れ、勇者召喚を利権化し、皇族と大貴族達の政治道具として気軽に呼び出すようになっていた。その中、1人の異世界人が召喚される。

召喚された異世界人は、金色の毛髪と青色の瞳をして白い肌の美しい女性勇者であったため、多くの貴族や聖職者、大商人等に人気となりすぐに交流の場を持たれた。

召喚されて6日後、歓迎パーティーの最中に勇者は突然嘔吐し、高熱を出して倒れる。

悪夢の始まりであった。


最初は召喚後連日のパーティーによる疲れだろうと楽観視されていたが、勇者の首が腫れ上がり、白かった肌は黒くなり、回復魔法を持つ帝国有数の魔法治療師が全く通用しないまま、勇者は息を引き取る。


ペストだった。

以前他の召喚によって呼び出された勇者が呼ばれ、死体を見てペストであると証言し、非常に恐ろしい伝染病で在ることが伝えられた。

後にこの証言をした勇者もペストに倒れてしまう。


勇者が召喚される前に暮らしていた場所は、ペスト禍が蔓延したヨーロッパで、勇者の衣服にペスト菌を持ったノミがくっついてセト中海世界へ侵入した。

帝国は、勇者と一緒にペストを招き入れてしまったのだ。


その後は最悪の結果が待っていた。

高速交通網の発展で、世界の隅々まで流通が行われ、流通網に乗って感染菌を持ったノミが世界中へ運ばれた。

セト中海世界にも伝染病はあったので、伝染病へのノウハウが無かったわけではない。無かったわけではないのに感染が全く止まることがなかった。


最初のペスト禍を生き残った皇族の1人が、勇者の印を覚醒した。

彼の黄金の瞳によってこの世界で起きていた事が判明する。


最初の勇者と共に入ってきたノミが魔王だった。

ノミの魔王は下水道に入り、ネズミを感染させ、ネズミの血を吸ったノミをさらに創りだし魔王の眷属を増やした。

その後は、増えた眷属のノミの群れが一個の生物であるかのように組織的に広がり、感染を悪化させたのだ。


魔王のネットワークの細い魔力の糸が、勇者の黄金の瞳に捉えられるまで、一カ月の時間が過ぎてしまい、地方の小都市や南方の島々では全滅する場所も出ることになる。


勇者がノミの魔王を倒した後3年が過ぎ、世界はまた平穏を取り戻すかに見えた時、最後の地獄の蓋が開く。



挿絵(By みてみん)



・最後の一撃


帝国東方の帰らず高原と呼ばれる人類未踏地からそれは溢れ出た。


ペスト禍を逃れようと、人が居ない帰らず高原へ踏み込んだ貴族一族があった。

彼らはすぐに魔獣や魔物の群れに襲われ、散り散りになって彷徨うことになる。

その中の女騎士がオークの群れに捉えられ、凌辱の末、一頭のハーフオークを生む。

ハーフオークの成長速度は早く、一年後には群れのボスに挑んだ。この時ハーフオークの瞳が金色に輝き、ボスの頭を素手でちぎり捨て、雌の大半を支配下にした。

元々オークは多産系で一年に2回の出産をする。自然条件があまりに過酷なため成獣になれるのは非常に少なかった。

ハーフオークとの子供は、一度に10頭生まれ、この内雄5頭が他の部族の雌オークを妊娠させて50頭のハーフオークを生む。さらに魔王は雌の5匹を妊娠させ50頭のハーフオークが生まれる。この間にも元から部族内にいた雌は次々妊娠して増え続ける。と、わずか3年の間に他の部族や魔獣を従えて、億を超える魔王軍が生まれてしまった。

挿絵(By みてみん)


十分に数が揃ったあと、オーク以外の魔物も捉えて一緒に移動を開始した。オーク以外の魔物は戦力であり、オーク達の食料でもあった。


秋が深まり山々が紅葉を初めて黄金色に輝く頃、帰らず高原からピタゴラ帝国へと億の軍勢が雪崩れ込む。

帝国は、ペスト禍の後遺症からまだ立ち上がれてはなかった。あっと言う間に帝国の国境砦を越え、近隣城壁都市の壁をオークがオークの死骸を積み上げて乗り越え喰い尽くし、帝国の誇る大要塞まで迫った。

この大要塞を人型種族最後の防衛ラインとして、帝国各地の防衛にあたっていた10軍団を引き抜き、12万を超える大軍勢でオークを撃退する。

挿絵(By みてみん)


帝国の将軍たちは胸をなでおろす、東方の山脈地形を利用し、高さ50mを超える壁で鉄壁の守りを誇った大要塞だ。それまで億を超える大軍団の進撃を止められなかったが、さすがに勢いは止まったかに見えた。


大要塞で止まっていた魔王軍が、要塞防衛軍の目の前で転進を始める。当初は魔王が退却を始めたと帝都への連絡が入った。

帝都の議会貴族達は大いに喜び、近年暗い雰囲気に陥っていた帝都での祝賀の祭を一ヶ月後に行うと決めた。


ところがこれは、帝国にとって最悪の選択であった、それは魔王軍の動きを読み違えたことだった。

帝都と、帰らず高原がある東方諸島の間の海峡は、潮の流れが早いのでオークでも渡ることはできなかったはずだった。

この地域上部の北セト海は、毎年流氷が発生する、この年は例年になく寒く、いつもの年なら流氷がこない海域だったのに、大陸と島々の間の海峡を埋める程の流氷が押し寄せ、首都との間にある島々を陸路として結んでしまったのだ。

挿絵(By みてみん)


そして撤退の報告の一ヶ月後、魔王撃退祝賀祭の最中、帝都から黒セト海越しに見える世界樹セトの島に、地面を覆い尽くす黒い影を、黒セト海沿岸に住む全ての者が見ることになる。

調査隊が出発するよりも早く、この島と帝都のある半島との狭い海峡を大量のオークと魔獣が泳いで渡り、近くの街を喰い尽くし出した報告が帝都を襲う。


帝国は宝物殿を開き、大出力の魔法を放出する魔道具で吹き飛ばしたが、オーク達の数は桁違いだった。

結局数の力は防衛線を食い破り、オークは敵味方の大量の死体を作って帝都へと迫る事になる。


オークは飢えていた、仲間の死骸は飢えを満たすための物であり、帝国民に至っては生死に関わらず飢えを満たすためのであった。

飢えを満たしたオークは更に子を産み、数を増す。


帝都に残った大魔導師達の合同大魔法も焼け石に水で、億を超える相手の前に帝都は飲み込まれた。


皇族及び皇位継承者の生死は不明、指揮系統は壊滅して混乱の地方都市の上にもオークの津波が覆いかぶさり、地獄が産まれた。

挿絵(By みてみん)


更にそれまで安全だった南方にも、新しいオークの群れが襲いかかる。

帝都奪還作戦が無軌道に発令され、南方の軍団30万が大陸側へと移動した。

それまで安全だった南方は兵力の空隙を襲われ、食いつくされた。

南方ではこれで終わらず、南方の島々の間は海流が比較的ゆるく温暖であったためか、大量のオークの群れが泳いで渡るのが確認され、避難してきた人々をパニックに陥れた。

パニックにより完全に無政府状態に落ちた南方諸島では、狭い島に大量の人が押し寄せ、人同士の争いによって壊滅し、泳ぎ着いたオークの群れに食い尽くされることになる。


南方諸島に連なって南西にある大陸と呼ぶには小さく、島と呼ぶには大きなアグリにもオークの群れは上陸し、元々兵力が少なかったアグリも食い尽くされることになる。

挿絵(By みてみん)



★人類反転作戦


大陸北側では、人型種族避難民一千万近くと、地方軍団の生き残り、貴族諸侯の私設軍隊が難民となって放浪し、追い立てられるように、一度オーク達に食いつくされオークが移動してもぬけの殻になっていたヘウメス平原に集まった。ヘウメス平原は山に囲まれ天然の要害であり、穀倉地帯だったのもあって多くの人型種族が集まったのだろうか。

また、南方軍30万もこれに合流して志気が上がる。


一方最初に北東の大要塞で戦っていた軍団12万も、春になり、冬の北セト海の大荒れだった気候が収まり、流氷が無くなって移動を開始した。

大要塞を放棄したのには理由があった。

帝国側の土地もオークに蹂躙され、避難民が大要塞に雪崩れ込んできた。こうなると補給もままならず、人が人を食う状況へ追い込まれるのも時間の問題だった。

大要塞司令部は大要塞の放棄を決断。避難民も連れての帝都奪還作戦を発動。

陸路からと、海路からの両方から移動する。幸い陸路側のオークはすでに移動して北西へ去っていた。このチャンスを逃せない。

海路側は、元々集められていた大船団を使って移動する。帝都近くの港まで移動した時、その惨状を目の当たりにする。

荒らし回られた帝都は人の住める状態ではなく、城壁は崩れ、オークが戻ってきたら防衛は不可能だった。

周りに斥候を出すと、首都の隣県にあるロゴス盆地との堺の要塞がまだ生きていて、オークを撃退していた。

ロゴス盆地へ各地から集まった敗残軍と合流して、20万の軍団が再編成された。

ここへ陸路から移動してきた民間住民数百万と、護衛兵士が加わり、一気に大所帯になったが、食料備蓄と麦畑は整備すれば当面は食いつなげると、軍団司令は安堵した。

挿絵(By みてみん)


ロゴス盆地と隣接するヘウメス平原の北方混成軍との連絡が繋がり、連携が取れる約束ができた。

さらに、ヘウメス平原方面で行方不明だった皇族の1人が避難民の間から発見される。彼は勇者の金色の瞳を持ち、魔王の位置が見える人類の希望であった。


集められた人型種族の間に一筋の光が見えた。

挿絵(By みてみん)


そんな時ついに魔王軍襲来の一方が入る。北方を喰い尽くした魔王軍が戻ってきた。

魔王軍は気がつくとヘウメス平原、ロゴス盆地の入り口全てを塞ぐように囲んでいたのだ。

各軍団の司令部は気がつく、人型種族は逃げ込めたのじゃない、ここに集められたのだと。


圧倒的な数の差がついに、防衛砦の一角を崩した、ロゴス盆地の北側の峠が突破され、オーク軍が雪崩れ込んできた。

ロゴス盆地側では南側まで防衛線を下げ、反転の機会を伺う。


魔王軍は、外に逃げ出した人族を押さえ込めるだけの数を残して、突破口の空いたロゴス盆地にオークを呼び込もうと、兵力を呼んだ。

魔王の能力は軍団を一個の生物のように自由に操れる事で、今回は人族が最後に組織的に戦える力を根絶やしにかかってる。


この時、ヘウメス平原で戦っていた皇族の勇者から連絡が入る。

ロゴス盆地のピュータハゴラース山付近に、魔王の反応ありの報だ。


恐らくチャンスはここしかない。ロゴス盆地内に外からのオークの群れが続々と入り込もうとしている。これが揃うと、もう無理だ。まだ魔王軍がそろって無い今しかない。

急ぎロゴス盆地軍の軍議を開き、ヘウメス平原軍との協議に入る。

実は、この時点ですでに兵糧をめぐって、ロゴス盆地軍とヘウメス平原軍はギクシャクしていた。

だからと言ってこのチャンスを逃すともう二度と戦えない。両軍は最後の反転攻勢にでる事を決める。


ヘウメス平原側から軍を進めて、勇者を囮にする大胆な作戦だ。

勇者は魔王が見える、恐らく魔王も勇者が見えるだろう。勇者へ意識が行く事を予想して、釣り出されたオーク軍の横から突き崩し、そのまま勇者と魔王までの血路を切り開く作戦だ。


作戦が成功したとしても、恐らく作戦参加の半数も生きては帰れないだろう。ロゴス方面軍団長は自身を最前線に置く事に決めた。攻撃力のある者を最前線に置き、鋭い槍の穂先となって勇者の道を開くのだ。

挿絵(By みてみん)




死戦は開かれた、南西側から勇者を前に立ててヘウメス平原軍が進む、これに答えるように魔王軍が正面から勇者側に殺到してぶつかる。

大型魔導兵器が炸裂し、紅蓮の炎が最前線で戦う兵士の顔を照らす。仲間の死骸を乗り越え迫るオークの津波で地面が揺れる。


最初の衝撃が両軍の間に起きた時、ロゴス方面軍が動いた。

縦に延びたオーク軍の横腹へ、魔道士大隊の大出力魔法三連射の後、手持ちの甲虫の全て400匹を使って突入させる。

突入した甲虫の重さに、多くのオークがひき肉になる。

ひき肉にされながらもオークは甲虫に飛び乗り倒していくが、一度崩れて狂ったように戦いだしたオークの戦線は中々元に戻らない。魔王の能力でもここまで興奮をすると制御が効かなくなるのだ。


ヘウメス平原軍は、自分達への圧力が減ったのを見て、勇者を中軍に下げ、前軍が槍のように鋭く、無軌道になったオークの群れにまっすぐ突入を開始した。

槍は魔王軍奥深くまでズブズブ刺さっていく、刺さっていくが両側からすり潰すように削られ、数を減らしていく。

それでもあと少し、もう少しのところが抜けない。


魔王軍側も最後の壁に最精鋭軍を配置していた。

あと少し、もう少しなのに、人型種族全体に絶望が伝染しかけた時、後方から毛皮でできた鎧を身にまとった集団が上がってくる。

ダークエルフの部族だ。その数100人足らず。

ダークエルフは、人族のセト教によって迫害されていたため、勇者に付き従った1人を除いて今回の戦いには参加してないはずだった。


最前線に上がってきたダークエルフの戦士達は、周りの兵士達に『5分でいい、5分で前の壁を吹き飛ばすからここを死守してくれ』と告げ、両手を前に突き出してそのまま斉唱を始める。

目の前のオーク達も黙っては見てない、手持ちの武器をダークエルフに投げつけ、何人かのダークエルフはそのまま吹き飛んだ。

それでも残ったダークエルフは微動だにせず、斉唱を続ける。


周りの兵士達もここが勝負と、残った最後のポーションを飲み干す、ポーション中毒を起こし目がくらむ、激痛で震える腕を上げ、剣を振るい、盾で押し込む。



さっきまで聞こえていたダークエルフの斉唱が聞こえなくなった、周りが光りだす。


一番前で戦っていた騎士ノエルの耳に、「退(しりぞ)けっ!」誰かの怒鳴り声が聞こえ、横で倒れていた戦友の泣いているような笑っているような顔を横目に見ながら後ろに下がった。

ダークエルフの両手から光りが伸びる。周りの魔力が巻き込まれて正面へ飛び出すのが騎士ノエルの目に見えた。

音は無い、一瞬の事だった。

目の前の精鋭オークの群れが倒れ動かない、その先に魔王らしきオークが見える。

「ちっ奴は倒れてないのかよ」

足元にはオークと同様に、さっきまで目の前で立っていたダークエルフの戦士達が、まるで萎びた干し肉のようになって倒れていた。


考える余裕は無かった、その場に残された全てが魔王へと殺到する。

オークは魔王を守るために。人型種族は勇者の道を切り開くために。まだ生きている者全てただそのためだけに走る。


後ろから来た勇者が、横から切りつけようとしたオークを抑える騎士ノエルの横を走り抜ける。

騎士ノエルは叫ぶ。

「いけっ!」


「いけえええええ」

その場に居た種族を超えた全員が叫ぶ。


勇者は走る。異様な力がその地に充満し、ありえないような高揚感に全ての者がその血を捧げる。

勇者と魔王がぶつかりあい、光りに包まれる。

少しの静寂の後、光がやみ、光の残骸の中に立っていたのは勇者だけだ。


「やった」

声にならない声で騎士ノエルは呟く。騎士ノエルの背中からはオークの槍が生えて、すでにその目から力は失われていた。


魔王が居なくなった後、そこにいたオークや魔獣達は、我に返ったように突然逃げ散った。

森や山の中、ロゴス盆地の外に逃げた魔物を追うだけの余力は、人型種族には残されてなかった。





★帝国、その後


魔王戦役は終わりを告げたが、ここからが人族の業の深さだった。

一時は今回の戦争最大の英雄の勇者である皇族を立てて、帝国再興にまとまりかけたが、守り切ったロゴス盆地とヘウメス平原以外の多くは、魔獣魔物濃度が高く、今の人類に残された力では奪い返せなかった。

僅かに取り戻せた土地は、ロゴス盆地内の補給連絡線が維持出来た一部と、その北部周辺だけであった。

そして、狭く荒廃した土地に多くの人口が集まりすぎ、食料問題が発生。あっと言う間に帝国は空中分解をして、人族同士で殺しあう事になった。


人族は飢えの苦しみから、外の土地を取り戻すより自分達で殺しあう事を選択した。


ここに南方諸島の残存していた海軍艦隊が海賊化し、混乱は加速してさらに人口を減らす。


恐らく魔王との戦いが終わった時点で、2000万程生き残っていた文明圏内人型種族は、この混乱で800万を割り込んだ。


帝国絶頂期には3億弱あった人口は激減し、帝国の叡智の多くが失われ、狭い国土の中で争うようになった時代、後の人はこの時代を暗黒時代と呼ぶ。









それでも歴史は続く、例え暗黒時代と呼ばれようとも世界は続き、大崩壊の時から500年が過ぎた。

挿絵(By みてみん)


これはまた別の物語である。

初投稿になります。

誤字や、アドバイス等ありましたらお教えください。次作へ活かしていきたいです。

次作は、今回の世界観を使った、もう少し柔らかい形の異世界転生物を予定しております。


補足

地図の大きさですが日本との比較図です。

メルカトル図法で書いていて、経度の横軸側でのみ距離の目安になります。

挿絵(By みてみん)


地中海との比較図

挿絵(By みてみん)

最後まで読んでいただいて有難うございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 作者のような設定厨を待っていました。 人間と魔力の関係性に感動しました。テンプレステータスであるHP.MP.経験値に根拠を持たせていることにとても好感が持てます。 地図の精巧さにも驚かされ…
[良い点] かなり練り込まれていて、すごいです。 短編にするには、おしい!細部にまで拘っておられるようで・・・・。 [一言] 素敵な内容を読ませていただき、充実した夏休みとなりました。ありがとうござい…
2016/08/19 01:14 退会済み
管理
[一言] >地球と同じサイズの星で緯度は0°から60°までの範囲です。 ・・・と、言われるとやはり「この惑星全体図」ってのを見たい・・・と思いたくなるヒトのサガ…w(チラッw
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