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妖精

「代理少女? 男女の間違いだろ」

「いえ、おっさん幼女。のほうがしっくりきますね。だって、三十路……」

「黙れ!! まだ29だ」

 さっき自分でおっさんといったじゃないか、何てのは野暮なツッコミだ。自称と他称では天と地ほどの差がある。主に、気持ちの問題として。

「ああ、もう。俺自分の人生に満足してるから元の時代に戻してくれよ」

「無理です。僕の能力の期限ははきっかり約7ヶ月ですから。期限が切れるまでは元に戻れません。」

「きっかり約7ヶ月って何!? つか、元の時代に戻れないとか拷問か!!」

 ああ、そういやコイツ新米とか言ってたな。

「なぁ、あんた歳は幾つ?」

 今後コイツの世話になることは多そうだし、こういうのは聞いておいた方がいい。

 純粋に、天使が何歳で「新米」などと呼ばれるかにも興味はあるが。

「今年……ああ、もといた時代で考えたら私は18ですね。」

「若っ!!」

「天使は18で大人になります。昔は13で大人だったらしいですが」

 それって、妖怪の話じゃないのか……?

「因みに天使の寿命は病などにかかった場合を除けばきっかり60年です。その後は天使の力の量次第で延命できますから、僕達天使はこうして人助けをするのです。」

「ふうん、随分と短命なんだな。いや、その天使の力とやらの延命期間によるか……?」

「それでも人と対して変わりませんよ。特に僕みたいな下っ端は天使の力をうまく使いこなせないから身体能力なんかもほとんど人間です。」

 ああ、こんなこと聞いてる場合じゃないのに現実逃避が止まらない。

「――ああ、ひとまずこの話は後でな。今はもっと重要な話がある」

「そうですね、さすがの僕でもわかりますよ。貴方の言いたいこと。」

「じゃあ、説明してもらおうか?」

 コホン、と天使は咳払いをし人差し指を立てる。

「僕がなぜ女の子の身体になったこと言いますと……」

「それじゃねぇよ!! それも少し気になるけどね、問題はそこじゃない。今後の生活だ。」

「ああ、そのことですか」

 コイツが俺の命運を握ってるかと思うと心底不安になるな。

「住居は今いるこのマンションを使います。僕は貴方の妹という設定で、父親は単身赴任中。母親は僕のパートナーの妖精に頼みます」

「急ごしらえ感半端無かったのにそのへんはちゃんとしてんだな。」

「はい。なにせ僕は一ヶ月早くこっちに来てましたからね。」

「は?」

「貴方は一ヶ月後の今日に送ったんです。ただ、場所の指定をミスったので道端に転送しちゃっただけです。」

「……」

 ああ、なんだろう。少しでも頼もしいと思ったのが馬鹿みたいだ。

「1ヶ月も学校休む理由ってなんだよ」

「入院ってことにしたらしですけど、詳しいことは妖精に聞いてください。あいつは僕よりもずっと頼りになりますよ」

 プライド無いのか、コイツは。

「まぁ、貴方が学校に着やすいように僕は妹ということにしてすでに学校にいましたから。安心してください」

「すでに友達グループが確定してる状況から馴染めるほど俺のコミュ力は高くねぇぞ……」

 そもそも、女の体というのが嫌だ。慣れるわけがない。

「貴方の好みの女の子になればいいので馴染む必要はないですよ?」

「そんなことしたら人格ができた後のこの子が迷惑するだろ……。」

「そうよ、貴方は本当にそのへんがお粗末!」

「そうそう……って、は? 誰!?」

 いきなり会話に入ってきたのは濃い茶髪の女性、パッと見たところ俺より多少年上といったところか。しかし、それがわかった上で妙な若々しさを兼ね備えて見えるのは気のせいではないはずだ。そうか、これが美魔女か。

「私はですねー」

「話の流れ的に妖精さん?」

「あら、正解。私は彼……今は彼女ね、のパートナーを務める妖精。セイラ-アリエス」

「セイラ……アリエス?」

「今はあなた達の母親よ。」

 セイラは可愛らしくウインクをすると天使の方へ向き直る。

「私はこの子の曾祖母さんに鍛えられた恩で、この子の母親と相棒となり。今ではこの子の相棒をやっているの。」

 曾祖母さん!? コイツ、ババアじゃねぇか。

「言いたいことは何となくわかるけど。とりあえず一発殴ってもいいかしら?」

「ヒィ!!」

「なんでお前が怯えるんだよ、天使。……ああ、えっと。すまん、セイラ。天使の寿命を聞いた後だとどうにもな」

「妖精の寿命は10年+妖精の力。その辺を加味すれば大体が100年近く生きるわ。」

 セイラは納得の行かなそうな顔で俺を眺めすぐそばのソファに座った。

「ま、そのへんは追々話すとして、今は貴方に重要なことを話しましょうか。」

 セイラが足を組んでニッコリと笑う。年甲斐もなく履いたミニスカートから下着がチラリと見えるが、ここはスルーしておこう。歳は知らんが。

「まず、この子も説明したとおり貴方は今女の子。元の時代に戻れるのは7ヶ月後で、それまでに貴方は最低限その体に人格を生み出さなくてはならない。」

「ああ、それは何となくわかってる」

「ええ、でもね。重大なことをまだこの子は言ってないの。」

「そんな気はしてた」

 横目で天使を見れば天使は指を折って何かを数えている。おそらく説明事項についてだろう。

「貴方はその体が人格を形成するまでその身体から出ることができないわ」

「……ふむ?」

 正直言って、それだけ言われてもしっくりこない。どうせ7ヶ月元の時代に戻れないのに何を言っているのか。

「……これだけじゃ、理解しきれないわよね。そうね、実例を出して教えてあげるなら今のあなたと全く同じ体験をした者を例に出すならばは人格形成までに5年かかっている人だっている」

「ご、5年!?」

「3日で完成した人もいるわ」

「早!!」

 ピンきりってことか、いや。振り幅がありすぎてわからん。

「人格形成に必要なのは「経験」。3日で人格形成が成功した人間はそりゃー濃い3日間を過ごしたらしいわ。」

「5年の方は?」

「普通に過ごしていたらしいけど、単に天使の力との相性が悪かっただけでしょうね。」

「うーん、そりゃまた。なんとも言えないな。」

 天使の力とか出されたら俺の想像では及ばない。まったく、はた迷惑な天使だ。いや、過去を変えるというのはそれ程に難しいことなのか?

「そうそう。一応言っておくけど、期限までに人格が形成されたとしても貴方の意思で出ていかなければあなたはその体の中にいれるわ。」

「ああ、言わんとしてることは何となくわかった。」

 つまりあれだ。人格形成が終了した時点で俺の魂が追い出される心配は無いわけか。

 ………………って、あれ。過去を変える?

「ちょちょちょ、ちょっと待て!!」

 なんだか、今更ながらおかしなことに気がついたぞ。

「あら、どうしたの。」

 セイラが不思議そうな顔で尋ねる。その隣で天使も小首をかしげた。何だそれは、癖か。

「俺の”あの時”を変える為に過去に飛んだんだよな? だったら俺は俺自身の身体に入るか、”あの子”の身体に入るべきじゃないか!」

「あらら、痛いところつれたわね」

 セイラがまゆをひそめる。

「まさか、あの子が今の俺だ。なんて言わないよな?」

「まさか。」

 それだけは違うとばかりにセイラは否定するとコホンと小さく咳払いをした。そして、真剣なめで俺を見つめる。

「”あの時”のこと、よく思い出せる?」

「そ、そりゃ……」

 確か、あれは小6のクリスマスの日だった。当時オレの好きだった子に、俺は告白された。正直うれしかった。返事はまたこんどでいいと言われ、2日後の俺の誕生日に俺は彼女の告白を断ったのだ。

 確かに、彼女のことは好きだった。けれど、人と付き合うということがどうにも嫌だったのだ。

「うん、思い出せる」

「相手の名前は? 性格は? 容姿は?」

「……は?」

 名前……は、ちょっと思い出せないけど。性格は、ほら……あれ、見た目も、なんだっけ、あれ? あれ?

「どう、思い出せる?」

「無理でしょ?」

 セイラは心配していると声色で、天使はさも当然と言わんばかりに言葉を掛ける。

「な、なんで?」

「過去にあなたという存在が生まれ、未来が変わった。そんなところかしらね」

 そんな……。

「おいおい、俺の思い出壊してんじゃねぇよ。クソ天使」

「く、クソ天使……」

「その点には合意だわ。でも、もう取り返しつかないし」

「あっさりだな!! ていうか、さっきからテンションよく突っ込んでるけど三十路手前でこの篆書は恥ずかしいし、そもそもこんなかわいい声じゃ気持ちが乗らないんですけど!?」

「可愛いのは声だけではないわ」

「やかましいっ!!」

 ああ、なんだろう。天使の性格ってセイラのせいなんじゃ……。

「ともかく、貴方はこれから恋のライバルを蹴散らし過去貴方のこだわり(?)すら打ち壊すほどに過去の貴方を惚れさせるのよ」

「ああ、失敗すれば未来には帰れないからな!」

「さらっと重大発表するな!!」

 ヘタしたら俺、一生このままなのか。それはかなりまずい……。

「大丈夫よ、たとえ貴方が過去のあなたと恋仲になれなくても過去の貴方のこだわりさえ変えることができれば問題ないわ。つまり、めっちゃ惚れさせなさい」

「さっきから思ってたけど天使の力って魔法じゃなくて、呪いに近いよな」

「「それは禁句!!」」

 ……ああ、気にしてたのね。

「ひとまず、ひと通りの準備を済ませちゃいましょう」

 無理やりセイラが場を占めて、この話は終わった。

 って、俺が幼女やる理由を説明してねぇし。


天使・妖精・人の設定はある程度はしてますが詳しいことはあんまり決めてないです

割りと短めに終わらせて次作への糧にしたいな、とか考えてます。

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