02
希愛は僕のことを、どう思ってるんだろう?
許婚だって理解してるのか?
許婚自体意味がわかってるのか?
疑問だ。
「希愛」
「ん?」
「僕はなんだと思う?」
「え?」
「僕は希愛にとって、なに?」
希愛が小学校に上がる前に聞いてみた。
ちょっとは色々な意味を理解できてるんじゃないかと思ったから。
「んーのあの好きなひと」
「!!」
「のあ、さとるくんのこと大~~好きだもん」
「誰かに…」
「え?」
「お祖父さんとか親に、そう言えって言われた?」
僕はそんな希愛の言葉が信じられなくて、さらに問い詰める。
「?」
希愛はどうしてそんなこと聞くの? って顔をしながら僕を見てる。
「だって希愛が、自分でそんなことを思うはずないだろ」
「ううん。誰にもなにも言われてないよ」
「…………」
希愛は嘘がつけない。
と言うことは……
「ふーん……そう」
「うん♪」
希愛がまたにっこりと僕に笑顔を向ける。
なんでだか僕はまた……胸が“ツクン”となった。
そんな付き合いが数年続いてた。
見た目にはただ仲のいい幼なじみのようで、家族ぐるみで出かけたりふたりで出かけたり、ときどき真樹を誘って3人で出かけたりしてた。
ちなみに希愛と真樹は従兄妹同士だ。
僕と真樹とは幼稚園が一緒で知り合った。
もしかして希愛のことがあったから、真樹は僕に近づいたのか。
なんて思ったけど、それでも真樹とは気が合っていい関係だと思ってる。
でも僕が12歳、希愛が10歳のとき事件が起こった。
いつものように希愛とふたりで出かけることになって、今日は郊外の遊園地に遊びに来てた。
希愛が来たいと言ったからで、なんで僕はそんな希愛の希望を叶えてるんだか。
と言っても行き帰りは家の車だし、視界には入らない距離で僕達の護衛もしてるはず。
そんな中での外出も僕達は慣れてる。
「せっかく来たんだから、あれ乗れば」
そう言って指差したのは、ここの遊園地のアトラクションでも一番の絶叫系で有名なジェットコースター。
「ややや…ダメ! 希愛、そういうのってダメだもん!」
想像どおり、希愛は全力で否定する。
「根性なしだな」
僕はわかってて、そんな言葉を言う。
「じゃあ、聖くんが乗れば?」
「遊園地なんて来たくもないのに、希愛が行きたいって言うから来たんだろ。せっかく来たんだから希愛が乗るのがスジだと思うけど」
「そ…それでも無理…」
「僕が乗れって言っても?」
ときどき僕は希愛に意地悪を言う。
だって希愛を見てると無性に虐めたくなるときがあるんだ。
黒い感情からじゃなくて、そんなことを言ったあとの希愛の様子が面白いから。
「…………」
案の定、顔面蒼白で口をパクパクさせて焦りまくってる。
「うそだよ。あまりの恐さに、おもらしでもされたら迷惑だから」
「そ…そんなことないから! オネショだってしたことない!」
「女の子が人前で、大声で言うことじゃないよ」
近づいて、そっと耳元に囁いてやった。
「!!」
ボン! と稀愛の顔が一瞬で真っ赤になる。
本当、希愛は僕の期待を裏切らない。
「その前に身長でアウトか?」
横目で希愛を見下ろす。
相変わらず年齢と身体の成長が追いついてない。
「そ…そんなことないよ! ギリギリ大丈夫だもん……」
「怪しいけどな」
「もう!」
それからも至って普通に遊園地を楽しむ。
結局ジェットコースターには乗らずに終わった。
お腹が空いたと思えば園内のレストランで食事をするし、喉が渇けば販売機で飲み物も買うし、お土産だって希愛はちゃんと選ぶ。
支払いは当然僕で、自分のお財布から現金で払う。
こういう所で一般の生活の流れも勉強できる。
支払いは全てカードで、自分でお金を払ったこともないなんてナンセンスもいいところだと自分では思ってる。
「デートみたいで嬉しい♪」
と、はしゃぐ希愛だけど、これってどう見てもデートじゃないのか?
「じゃあ今日は一体なんなんだ?」
「え?」
最後に観覧車に乗って、お互い向かい合って座ってる。
そんな真っ正直に座ってる希愛に、ちょっとムッとした視線を送った。
「んーーーっと……いつものお出か…け?」
「………ああ、そう!」
気も使わず、ムッとした言葉を吐き出した。
「聖くん?」
「バカバカしい。もう希愛とは出かけない」
「え!? どうして? なんでそんなこと言うの?」
僕が急にそんなことを言い出したから、希愛が慌ててる。
僕はそうなることがわかってて、そんなことを言う。
「今日だって貴重な僕の時間を希愛のために使ってるのに、いつものお出かけなんて言われたら出かける気が失せる」
「聖くん……」
「これからは真樹に連れて行ってもらえ!」
「…………」
どうして僕は……こんなにもイライラするんだろう。
やっぱり希愛は僕とのことは理解していなんだと思い知る。
「!!」
だからって、なんでこんなにもムカムカするんだろう。
「……ひっ……ぐずっ…」
「は?」
視線を希愛に戻すと、希愛は静かに泣いてた。
「なんで泣くの? 簡単に泣くな!」
僕は腕と足を組んで、希愛から視線を逸らしながら命令口調で話し続けた。
本当は変に心臓がドキドキ・バクバク言いだしてて、それを誤魔化すためだ。
「ご…ごめんなさ…い……」
「………言い直せば、許してあげる」
「……へ?」
ああ……僕は一体なにを言いだすんだろう。
「これはデートだと認めれば、許してやるって言ってる!」
「本当? ……クスン…」
希愛が小さな手で、自分の目を擦りながらホッとした顔で僕を見る。
「お出かけとデートの違いが希愛にはわかる?」
「……えっと…」
「希愛は僕のことが好きなんじゃないの?」
「え?」
「希愛が好きな相手の僕と、ふたりっきりで遊園地に出かけてるってことはデートだろ? 違う?」
「うん……」
「まったく。別に希愛がもう僕のことなんて、なんとも思ってないと言うならそれでもかまわないけど。そしたら婚約は解消だな」
「ええ!?」
「当然だろう? 好きでもないのに、なんで希愛と結婚しなきゃいけないんだ」
「そ…そんなことないもん! 希愛……希愛……ずっと聖くんのこと好きだもん!」
真っ赤な目で両手をグーに握り締めながら、僕に向かって希愛が叫ぶ。
僕はそんな希愛を見て、なんでだか満足するんだ。
「そう、じゃあさっきの言葉は取り消してあげる」
「うん! ありがとう、聖くん!」
「…………」
ありがとうと希愛に言われ、なんだか複雑な心境の僕。
もっと大きくなったら、お祖父さんに言って婚約は解消するつもりでいるのに。
希愛にそんなことを言わせて、期待を持たせて……僕はどうするつもりなんだろう。
「希愛」
「ん?」
「こっちにおいで」
「え?」
「こういうときは、ふたりで並んで座るんだよ」
「……でも…」
「なに? まだ、なにかあるの?」
僕はちょっとイライラ。
希愛のくせに、なにを躊躇するんだ?
「傾いたりしない?」
「は?」
「希愛が聖くんの隣に座って、この乗り物がそっちに傾いたりしない?」
「…………」
一瞬言ってる意味がわからなかった。
でも希愛の顔はいたって真面目で……
「ぶっ! あははははは!!」
「え?」
「くっくっくっくっ……バカだな、希愛は。はぁ…はぁ…」
おかしいったらありゃしない。
あー笑わせてもらった。
「そんなヤワな造りをしてるわけないだろ? 大丈夫だからこっちにおいで」
「うん……」
そう言っても希愛はおっかなびっくりで、僕のほうに来てチョコンと隣に座る。
「まったく。ホント、希愛はいつも僕を笑わせてくれる」
「だって……重たいほうに傾くでしょ?」
「頑丈だから、大丈夫」
「うん……」
ふたりで並んで座ったからって、手を繋ぐわけでもないし寄り添うわけでもない。
12歳と10歳のカップルなんて、これといってやることなんかないけど。
でも隣に希愛にいてほしかった。
「高いね〜スゴイね~~遠い所まで見えるね~~ふふ……」
窓から見下ろす景色に、いちいち感心する希愛。
本当にまだ幼い。
希愛の僕への「好き」は、一体どんな好きなんだろう。
複雑な想いの聖でしょうか?
希愛は聖のコトが好きなのは確実。
素直じゃない聖。
次回事件です!