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サイトからの転載になります。
全6話のお話です。
☆このお話はフィクリョンです。皆様の広いお心でお願いします。
「…………」
「ふえ……」
僕から1メートルほどの目の前で、明らかに年下と思える女の子が盛大にコケてすっ転んだ。
なんも段差のない絨毯の上で、それこそベッシャリという音が似合いそうなくらいのすっ転び方で。
「う……うぇ……」
必死になって起き上がろうとするけれど、膝下まである自分のドレスを踏んずけてて起き上がることができない。
なんてマヌケ。
僕は黙って、そんな彼女をジッと見ていた。
「希愛ちゃん、大丈夫!?」
「ふえ……真樹ちゃん……」
「もう今日の主役が台無しじゃないか。聖もそんなところに突っ立ってないで、希愛ちゃんのこと起こしてあげればいいのに」
そう言って僕の友達の“津田沼 真樹”が、彼女を起こしながら僕に呆れた眼差しを送る。
今日はこの“佐方 希愛”の5歳の誕生日だそうだ。
どうして僕がそんな彼女の誕生日に呼ばれたかと言うと……まあ、大人の事情だ。
「赤ん坊じゃないんだから、自分で起きれるだろう」
「起きれてなかっただろ? 希愛ちゃん小さいし、ちょっとトロイところがあるからさ。次は手を貸してやって!」
「………軟弱だな」
「か弱いって言うんだよ! もう、聖は! それに今日の主役で、ここの屋敷のお嬢様だよ。今日くらいは紳士になりなよ」
「7歳の子供に紳士を求めるの? 真樹」
「7歳の男の子が5歳の女の子を助けるのは、紳士じゃなくてもできるだろ! もう!」
「大体なんでこんなまっ平らな所でコケるの? それが不思議」
「希愛ちゃんだからだよ! 憶えておきなよ!」
「なんで?」
「なんで? それは聖の許婚だからだろ! なにシカトしてるんだよ!」
「僕は頷いたおぼえはないんだけどな。父と母が勝手にしたことだし」
「お爺様同士だってさ! なんでもふたりは子供のころからの友だちだって! って言うか、なんでオレのほうが詳しいんだよ!」
「ミーハーだから」
「違ーーーーう!!」
人のいい真樹は、僕の言うことにいちいち目くじらを立てて言い返すから面白い。
しかも肩で息してるし……くすっ。
「真樹ちゃん…おこったら、だめ…」
真樹に抱き起こされた彼女が、真樹の服を引っ張って心配そうな声を出した。
「希愛ちゃん……大丈夫、怒ってないよ」
「…………」
僕は目の前の小さな女の子を見下ろしてた。
7歳ということもあったろうけど、どう見ても鈍臭い。
しかも、年齢よりも幼く見える女の子に興味なんかない。
許婚の意味はわかってはいたけど僕の中では受け入れてなくて、今のままなら絶対拒否するだろうと思っていた。
でも……
「のあ、いつもこうなの。びっくりしたでしょ。ごめんね、さとるくん」
そう言ってにっこり笑った彼女の笑顔に、なんでだか胸の奥がつくん! となった。
「ふん♪ ふん♪ ふ~~ん♪」
あの希愛の5歳の誕生日から、なにかにつけて彼女と過ごすように仕向けられていた。
今日は彼女の屋敷の彼女の部屋で、一緒に遊べとの両親の命令だ。
一応僕はまだ親に養ってもらっている身だし、親の庇護がないと生きてはいけない身なので大人しく言うことを聞いてるフリをしている。
彼女の相手なんかしてないし、ただ時間を潰してるだけだ。
そんな僕の態度をまったく気づきもしないで、希愛はひとりで折り紙を折っている。
希愛の家はそこそこの家柄で、希愛はそこのお嬢様。
幅広く事業を手掛けてて、今は洋服のブランドを立ち上げて海外にも進出している。
なかなかの業績を上げているそうだ。
僕の家はというと、一族で各方面に事業を展開しホテル経営やIT関係の分野でも手広く事業を展開してる。
そんなのはホンの一角らしいけど。
“宝仙グループ”と言えば、それなりに箔の付くものらしい。
血族の中にも、結構な地位のある者も多数いる。
そんな「宝仙家」の本家に当たるのが僕の家で、今のところ祖父が彼らの頂点だそうだ。
あんな軽そうな老人が、そんな大役を果たしているとは到底思えなかったが、どうやらそれは本当らしい。
何度かいつものあの僕に対するおチャラけた祖父さんが、あんなに人を威圧できるほどのオーラを発せられるとは思ってもいなかった。
そのときから僕の中で、祖父さんの位置が上位に上がった。
でもやっぱり普段の祖父さんは、唯のおチャラけた祖父さんでしかないけど。
そんな祖父さんが引退したら、僕の父がその跡を継ぐはず。
そしてその父が引退したあとは……きっと僕が跡を継ぐはずなんだよね。
子供ながら、そのことだけは祖父さんに刷り込まれてる。
そんな祖父さんの昔からの親友の孫が希愛で、本当なら父のときにその約束は果たされる筈だったのに。お互いの子供が男しかできなかったがために、僕に番が回ってきたということらしい。
相手の家に、希愛が生まれたから。
どうして「お互いの子供を結婚させる」約束なんて交わすんだか。
そう思っても、一番の権力者の祖父さんの言うことは誰も逆らえず。
でも僕は、もう少し大きくなったらハッキリと断ろうと思っている。
今のところ希愛はひとりっ子で、大らかな両親と溺愛の祖父のせいなのか、おっとりとしてる。
僕もまだひとりっ子なんだけれど。
鈍臭くてトロくて、ときどきイライラすることもあるが、慣れてしまえばそれが彼女のペースで、トロいだけで決してできないワケじゃない。
ただ、時間がかかるだけ。だからそれを踏まえて時間を待ってやれば、なんでもできるんだと何度目かの遊びで知った。
結構な努力家らしい。
「なに折ってるの?」
「えっと……ふうせん」
「希愛にそんな高度なものが折れるの?」
「この前教えてもらったから折れるの。教えてもらったもん」
「そう…」
一生懸命折り紙を折る希愛を反対側からジッと観察。
もうすぐ6歳になる希愛。
それなのに身体はまだ5歳…4歳でも通じそうに小さい。
手だって僕の手よりも小さくて、赤ちゃんみたいにプクプクしてる。
そんな手が、一生懸命折り紙と悪戦苦闘してた。
ずっと下を向いて、折り紙を折る希愛。ちょっとピンク色のぽっちゃりとした頬っぺたが、今にも落ちそうなほどぷっくりしてる。
なんでだか、そんな頬から僕は目が離せない。
最近気づいたけど、希愛のそんな所にときどき目を奪われるときがあるのが自分でもわからない。
希愛の身体の作りはぽちゃぽちゃしてて、可愛いとさえ思える。
まあ、そんな所だけだけどね。
僕が気にする所は。
希愛自身に興味があるかどうかは疑問。
「あれ? じょうずくできないよ?どうしてここ、ひらいちゃうの?」
希愛が出来上がった折り紙を見て、不思議そうに見つめる。
「ちゃんと端を合わせて折らないからだろ」
「ちゃんとあわせたよ」
「合わせてないって! 1枚もらうよ」
「うん! いいよ♪」
折り紙1枚で、そんなに嬉しそうな顔するな。
別に1枚もらったからって、感謝なんかしないから。
「こうやって……端っこはぴっちりと合わせて折るんだよ」
1ミリのズレもなく、正確に折っていく。
「ほわ~~さとるくん、すごい~~」
「これが普通。希愛が雑すぎるんだよ」
「ざつ?」
「適当ってこと!」
「ちゃんと折ってるよ」
「じゃあ、なんでちゃんとできあがらないんだ。ほら完成!」
そう言って、でき上がったふうせんを希愛の目の前に置く。
「ぷう~~ってして」
「は?」
「これじゃふうせんじゃないよ」
「…………」
ペッチャンコのふうせんを見て、希愛がそん不満を言う。
「生意気だな。自分で空気入れればいいだろ」
「だってのあ、じょうずにできないもん」
「ったく。だったらふうせんなんて作ろうと思うな。自分でちゃんと作れないくせに」
「じゃあ、さとるくん教えて」
「はあ?なんで僕が…」
「じょうずだもん♪ ね?おねがい」
そう言ってにっこりと笑顔を僕に向ける。
「しょ…しょがないな。一回しか教えないぞ」
「うん! でもゆっくりね? のあ、早く折れないから」
「わかってるよ」
たった1年にも満たない付き合いで、希愛のことは大体理解できた。
「っと……できたぁ! できたよ、さとるくん!」
今度はさっきに比べて、大分マシな形になった。
「僕が教えたんだから、当たり前だ」
「ふふ♪ ふぅ~~」
「!!」
淡いピンクの唇を尖んがらかせて、一生懸命折り紙のふうせんに空気を入れる希愛。
そんな仕草と、尖んがった唇が可愛かった。
「ハッ!」
可愛いって…なんだ?
なに考えてるんだ? 僕は。
「はい。さとるくん、あげる」
「は?」
目の前に今、でき上がったばかりの折り紙のふうせんが差し出されてた。
「のあからのプレゼント♪」
「な…なんでだよ! せっかく自分で作ったのに…」
「だって最初からさとるくんにあげるために作ってたんだもん」
「!!」
差し出された希愛の小さな2つの手の平の上に、膨らませたふうせんがチョコンと乗ってた。
「はい! さとるくん♪」
また、いつもの笑顔つきて渡される。
「………仕方ないから、もらってやる」
「うん」
僕が希愛の手から折り紙のふうせんを受け取ると、またあの笑顔だ。
まったく……調子が狂う。
あまりにも幼い2人の出会い。
オマセな聖とお子ちゃま希愛。
色々教育されていて、口が達者な聖だと思って下さいませ。