シーちゃん!?
〜〜〜〜僕とシーちゃんの夏休み〜〜〜〜
夏休み初日。俺はうだるような暑さの中、一人ソファに寝転がっていた。というかもう動く事ができずにソファに倒れ込んだ感じなのだが。ちなみに今俺の家には暑さをしのぐ設備がない。エアコンも壊れ扇風機は羽がなくなり、両親は二人で海外旅行に出かけていてエアコンの修理を業者に依頼する事もできない。もうこれは完全に手詰まりである。
『キョーちゃあああん。暑いいいいいいい』
そういったのは僕の中にいる天使。シーちゃんである。彼女は僕の心の中にいて僕と心の声で会話をする事ができるのだ。
『お前が暑いって感じるってことは俺も暑いってことだから。我慢してくれ』
『無理いいいいい。このままだと私は死んでしまうよおおおお』
『多分俺が死なない限り大丈夫だと思うけど』
『じゃあキョーちゃん死んで!』
『俺が死んだらオムライス食べられなくなるよ。一生』
『キョーちゃん生きて』
『さっきと言ってる事が・・・ていうか俺の命はオムライスにつなぎ止められているのか』
『・・・・』
『・・・・』
会話が続かない。いつも話しかけてくるおしゃべり大好きなシーちゃんがほとんどしゃべらない。これは相当暑さで参っているのだろう。
『シーちゃん』
『なに。キョーちゃん』
『そんなに暑いんならさ。涼しいとこいこっか』
『涼しいとこってどこ』
『どこって・・・まあ店に入ればだいたい冷房はついているから・・・マックとか』
『マックにオムライスある?』
『多分ない。ていうか絶対ない』
『じゃあ行かない』
『いやでもマックうまいぞ』
『オムライスないんじゃ意味ないもん』
『いやでもハンバーガーもうまいだろ』
『オムライスの方がうまいもん』
『はあ。まあいいや。俺勝手に行くし』
俺は着ていた部屋着から外出用の服に適当に着替え財布をもって家を出た』
『ねー、キョーちゃん』
『なに、シーちゃん』
『私マック行っていいなんて言ったっけ?』
『シーちゃんの許可を得る必要はないだろ』
『キョーちゃんはいつから反抗期に突入しちゃったの?』
『反抗期って、お前お母さんみたいな事言うなよ。俺まだ小学2年生だし。反抗期どころか思春期すらまだきてないよ』
『私、キョーちゃんの育て方間違っちゃったかな』
『シーちゃんに育てられた覚えは全くない』
『ううっ。やっぱり反抗期だ』
『うるせえ』
シーちゃんと俺が不毛な争いをしていると既にマックの目の前まで来ていた。
『とりあえずマックはいるぞ』
『もう。キョーちゃんなんて知らない』
シーちゃんの愚痴を軽く受け流し俺はマックに入った。
店内はまだ昼前だからか全く混み合ってなく注文も並ばずにできる。
「ご注文はいかがなさいますか」
女性店員が聞き取りやすいハキハキした声でこちらの注文を聞く。
「あ、えっと、てりたまとマックシェイクで」
「かしこまりました」
『キョーちゃん。私ポテトも欲しい』
『結局食うのかよ』
『いいもん。オムライスは我慢するもん』
『そうですか』
「あ、えっとポテトもお願いします」
「ポテトですね。かしこまりました。店内で召し上がられますか。お持ち帰りしますか?」
「えっと、店内で食べます」
「かしこまりました。少々お待ちください」
店員は厨房らしきところに入っていった。2〜3分後。俺の頼んだものがすべて出来上がり俺は食べるために2階の席に向かった。
『キョーちゃん。涼しいね。うふふ』
シーちゃんはすっかりご機嫌である。
『だから言っただろ』
『そうだ・・・いやでもオムライスの恨みはまだまだ忘れた訳じゃないから』
『ああ。そのうち作ってやるから』
両親は仕事の都合でいろいろな所に行くので家には基本一人が多い。そのため俺は日常的に料理をするのだが、既に俺の料理の腕は小2とは思えないほどのものがあり母さんの腕はとっくに追い越していた。
『キョーちゃんのオムライスはおいしいもんね』
『ああ。そうだろ』
『うふふふふ』
『どうしたんだ。お前』
『むふふ。キョーちゃんの味を想像しちゃって』
『キョーちゃんのオムライスの味だろ』
『うんそうそう』
『・・・・』
『・・・・』
『ていうかキョーちゃん』
『うん?なに』
『そろそろ食べない?』
しまった。シーちゃんとの会話に夢中になっていた俺はすっかり食べるのを忘れていた。
『・・・・そうだな』
俺は注文したてりたまを広げかぶりつく。うんなかなかうまいなこれ。
『おいしいね。これ』
『だな。俺はなかなか好きな味だ』
『じゃあ次はポテト食べて』
『はいよ』
俺はポテトの包みを開け、手頃な大きさのポテトを口に放り込んだ。
『うーん。おいしいー』
『そうか?よくある普通のポテトのようだが』
『全然違うよ。同じポテトでも私は断然マック派だからね』
『ポテトに派閥なんてあったの?』
『もちろんだよ。世の中には大きく分けてケンタッキー派とマック派の2種類があってね。私はマック派の代表なの』
『っておい。シーちゃんいつから代表になったの』
『代表って言っても自分で言ってるだけだけどね』
『なーんだ』
『ねーキョーちゃんはどっち派?』
『強いて言えばケンタッキー派かな』
『キョーちゃんとは馬が合いそうにないね』
『まあどっちとか関係ないだろ。でも今度はケンタッキーのポテト食べにいくけどな』
『マックは?』
『もう2度と行かない』
『キョーちゃん大っ嫌い』
『ごめんごめん。嘘だよ』
『キョーちゃん大好き』
『二十面相かお前は』
『私顔とかひとつもないよ』
『まじめに答えるなよ』
しまった。また食べるのがおろそかになってしまった。どうもシーちゃんと話していると食べる事を忘れてしまう。のどが乾いた俺は頼んだシェイクに口を付ける。
「ずーずー」
思った以上に飲みやすく速く飲み終わる事ができた。
時刻は午前の11時。昼ご飯を食べ終わるのにはかなり速い時間だ。これからどうしようか。このままマックに篭城するのもいいが、これから昼時になり客が増える中で食べ終わっているのにずっと居座っている客というのは店としてもすごく迷惑だろう。となると、近くの図書館か、はたまた違う店に立てこもるか、覚悟を決めて家に帰るか。
『なーシーちゃん。この後どうする』
『・・・・』
『図書館か帰るか。どっちがいい』
『・・・・』
『シーちゃん?』
『・・・・』
何かがおかしい。いつもならこちらから話しかけたら絶対に答えるシーちゃんが答えないなんて。寝てる?ていうかシーちゃんって寝るのかな。新たな疑問が生まれてしまった。
『ねーシーちゃん』
『・・・・』
答えはない。なんでかわからないけどシーちゃんはしばらく何も話せない気がした。なぜだかわからないけれどシーちゃんがいなくなっている気がした。根拠はないけど心にシーちゃんを感じないのだ。いない。どうしてだろう。
「しーちゃん」
僕は心の声でなくて肉声でシーちゃんを呼んでいた。
店の店員がこちらを訝しんだ目で見ている。とりあえず店からでる。
『シーちゃん』
『・・・・』
心の声で呼びかけるが反応がない。
『シーちゃん』
『・・・・』
『どこにいるの?』
『・・・・』
シーちゃんが消えた。俺はどうすればいいのだろう。シーちゃんが消えるなんて全く装うしていなかった。
俺は今までの人生の約半分をシーちゃんとともに生きた。そばにいるのが当たり前なシーちゃん。僕にとってシーちゃんはとてつもなく大きなもの。そのシーちゃんが消えた今、そこには言いようのない空虚な気持ちが俺を支配していた。
「シー・・・・ちゃん」
俺は膝から崩れ落ちた。
「シーちゃん」
シーちゃんがいなくなってしまった。探しにいきたい。でもどこへ?シーちゃんは今までずっと俺の心の中にいた。それがいなくなったからといってどこを探せばいいのだろうか。そしてこの事は誰にも頼る事ができない。大人にシーちゃんの事を言っても信じてくれないだろう。信じてくれたとしても探してはくれない。完全に手詰まりだ。俺はこれからのシーちゃんのいない生活を想像して鳥肌がたった。
シーちゃんシーちゃんシーちゃんシーちゃんシーちゃんシーちゃんシーちゃんシーちゃんシーちゃんシーちゃんシーちゃんシーちゃんシーちゃんシーちゃんシーちゃんシーちゃんシーちゃんシーちゃんシーちゃん。シーちゃんシーちゃんシーちゃんシーちゃんシーちゃん『シーちゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん』
『なーに?』
『っえ!?』