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プロローグ、そして出会い

「」は主人公とその他の人間が話して口から発している言葉で、

『』は京介とシーが脳内発声で会話している声なので周りには聞こえていません。

~~~~プロローグ~~~~


 俺こと神奈木京介かんなぎきょうすけは一人ではない。昔から一人でいることはほとんど、というか全くなかった。

 いつも俺のそばにはシーちゃんがいた。だから俺は孤独を感じたことがない。

 はじめは皆、そばに誰かがいるものだと思っていた。世界中に孤独な人間など全くいないと思っていた~~




〜〜~~出会い~~~~


 はじめに話しかけてきたのは幼稚園に入ったばかりの頃。

 いきなり頭の中にきれいな女の子の声が聞こえた。彼女は自分をシーだと名乗った。

 それからというものその女の子の声は時々、俺の頭の中に響くようになった。

 しかしそれはいつも向こうから一方的に話しかけてくるだけで、こちらが返事をしても彼女は反応しなかった。

 彼女の声が聞こえているのはどうやら俺だけ。それがわかったのは彼女が話しても誰も何も反応をしなかったからだった。

 彼女の声が聞こえ始めてからおよそ一ヶ月たった。俺は彼女に質問をすることにした。


『京介くん。今日はいい天気だねー』


 いつもの通り頭の中に彼女の声が響く。


「たしかに今日はいい天気だ」


『・・・・』


「ねー。シー。君はいったいどこから話しているの?」 

 俺はいつも不思議に思っていたことを質問した。


『・・・・』

 彼女の返事はない。


「ねー。シーさん。聞いてる?君はいったいどこから話しているの?」

 やはり彼女の返事はない。


『・・・・』

「ねー。無視しないでよシーさん」

 

 いつまでも沈黙を続けるシーにいい加減イラッとくる。


「ねー。シーさんってば」


『京介くん。君、独り言ばかりいっているとみんなにみられちゃうよ。というかもうみられているけど』


 今自分のいる、幼稚園のグラウンドの脇のベンチから周りを見渡すと、周囲の友達や先生が自分をみていた。それも気持ち悪いみたいに。

 まあ普通誰もいないベンチで一人で独り言。それもかなり大きい声でやっていたら少し気持ち悪いだろう。


『ちっ。何だよこのシーって言うやつ。いつも話しかけてくるくせにこっちから話しても無視するし。』

 俺は正体が分からないシーにイラついて今度は周りにみられないように心の中で愚痴をこぼした。


『やっと・・・・京介くんの声が聞けた』

 誰にも聞こえないはずの俺の心の声は


 初めてシーちゃんに届いた。


 俺は彼女と初めて言葉を交わした。

 俺が彼女の軽い悪口を言って、彼女はその声に反応した。

 といっても彼女の悪口を俺は心で思っただけなのだが。


 俺はこのとき初めて、彼女には俺の口から発せられる言葉が聞こえないことを知る。

 彼女に聞こえるのは俺が思ったことだけ。つまり彼女と会話をするためには彼女に伝えたいことを心の中で思う必要があるのだ。

 思うだけなら簡単だと言う人がいるかもしれないが、これがなかなか難しい。しっかりと彼女に伝えようと、伝えたいと願わなければ彼女には伝わらない。

 そして俺は彼女と不自由なく心の中で会話ができるようになるまでに半年ほどかかった。

 彼女と話せるようになってからは毎日が楽しかった。

 俺は毎日彼女、シーと心のなかで話した。現実の、生身の人間と話す時間より、心の中でシーと話している時間の方が長くなっていった。

 シーと話しているうちに、シーとの他愛もない会話は俺の生活の中心となる。

『ねー京介くん。今日の夜ご飯は何かな。私の大好きなオムライスだったりして』


『シー。まだ幼稚園にいくバスの中。それにさっき朝ご飯を食べたところ。それによるご飯の前に昼ご飯でしょ』


『もー。京介くんは何にもわかってない。幼稚園のご飯はオムライスが出ないんだよ』


『あー。確かに出たことなかったっけ。ていうかシーさ。お前いつもどうやってご飯を食べてるの?お前がご飯食ってるとこみたことない。ていうかお前の顔もみたことないし』


『うーん。確かに私は食べてないけど。京介くんが食べると私もお腹いっぱいになるの。それに京介くんが食べると私も味を感じるし。だから京介くんがオムライスを食べると私もすごくいい気分になる』


『ふーん。そんな感じなんだ』

 

『うん。そんな感じ』


『じゃあさ。俺が痛いって感じたらシーも痛いって感じるの』


『うん。感じる。この前京介くんがタンスの角に小指をぶつけたとき私もすっごい痛かったんだから』


『へー』

 俺はそういいながら自分のほっぺたを思いっきりつねってみた。


『痛い。痛い。京介くん痛いよ。すっごく。ほっぺたつねらないでよ』


『あはははは。ごめんごめん』


『京介くんはすっごく意地悪だね』


『そんなことない。俺はすっごく優しいんだ。ていうかさ、その京介くんって呼び方なんだかよそよそしくない?』


『じゃあなんて呼んだらよそよそしくないの?』


『まあ、普通に京介って呼び捨てでいいと思うけど』


『京介・・・・なんかしっくりこないなー』


『しっくりって何だよ。しっくりって』


『まあ考えてみるよ。京介くんの呼び方』


『ああ頼む』

 シーとの会話が一段落したところで幼稚園にバスが着いたようで、バスが停車した。

 前に座っている人がおりていく。俺は一番後ろに座っているから降りるのは最後になりそうだ。

 しばらく待って自分の降りる番がやってきた。俺が降りたのは本当に最後の最後。俺の後ろには運転手しかいない。

「ありがとうございました」

 この声は現実で実際に俺の口から出た言葉。つまり俺が運転手に向けて発した言葉だ。そしてこの声はシーには聞こえていない。

 

『ねー、シー。お前ってさ。俺の声聞こえないんだろ』


『そんなことないよー。だってちゃんと私とお話ししてるじゃない』


『いや。そうじゃなくて。俺の生身の声。心の声じゃなくて生身の声のほう』


『うーん、たしかにそっちの声は聞こえない』


『なんでなのかわかる?』


『わかんない』


『じゃあシーはさ。俺の姿は見えてるの』


『うん。見えてるよ』


『俺以外は?』


『ばっちり見えてるよ。人は』


『人ってことは、それ以外は見えないの?』


『うん。見えない』


『じゃあ今俺の近くにいる人は何人?』


『うーん。半径10メートル以内に9人。半径50メートル以内に67人。半径1000メートル以内には394人だね』


『ねー、シー』


『なーに?』


『・・・・半径って何?』


『キョーちゃんにはまだ難しかったかな』


『ねー、キョーちゃんって何?』


『何って京介くんの新しい呼び名。かわいいでしょ』


『なんかかっこわるい』


『キョーちゃんがかっこわるいのは知ってる』


『ちっ何だよ。シーちゃん』


『なんかその呼び名かわいい。今度から私のことはシーちゃんって呼んでね。キョーちゃん』


『うるせえよ。シーちゃん』


 キョーちゃんとシーちゃん。このとき俺と彼女は初めてこの名前で呼び合った。

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