Episode2 #10 Unknown
ジェームズがバート達の前から立ち去った直後、バートはすかさず彼の後を追いかけて行った。だが、影にでも潜んでしまったのか、あっという間に行方を眩まされてしまった。しかしそれがバートにしてみれば、はぐらされたかのような気がして癪だったわけで。
「ジェームズ!!」
彼は改めてジェームズの名を呼んだが、返事はない。だが、奥から気配は感じた。彼は駆け足でそちらへと行き――そして。
バートはその人物の前で、思いっきり叫んでしまったのである。
「ジェームズ!!」
「わあっ!」
だが、目の前にいたのは全くの別人。
路地の影で僅かに薄暗い中、しかしそれでもよくわかる金糸のような見事な金髪。その髪は肩まで伸びていて、それをワンレンにして下ろしている。そしてこれまた綺麗な緑色の瞳。薄暗い中ではあるが、緑であることには間違いはなさそうだった。
更に透き通ったその肌は、血色が悪く思える程に白い。しかも一見すると男か女か分からない顔立ちだ。しかし、185cmはある身長と、服装―これまたきちんと整ったスーツ姿だ―で、男だとバートは判断した。30代ぐらいかもしれない。どちらにせよまだ若い。
突然バートに叫ばれて、その人物の顔は驚きに染まり、そしてバートもジェームズではないことに驚いてしまっていた。
――まさか、ジェームズじゃないなんて、と。
しかし、このままではまずいと思ったバートは、慌てて口を開いた。
「ああ、ええっと……すみません。人違いみたいで――」
そこまで彼が言ったその瞬間。男はバートの口の前に自らの人差し指を出し、そしてうっすらと笑みを浮かべた。どうやら「しゃべるな」と言いたいらしいが、その行為そのものと、意図が汲めないためにバートはきょとんとするばかり。
「君、ベネー商会の社員?」
「……へ?」
男の質問に、バートは更に目を丸くした。
「え、ええ。そうですけど……」
「じゃあ、ウィリアム・ベネーにこれ、渡してくれる?」
そう言って渡されたのは――薄茶色の紙に包まれた、何か。中身は何か硬いものらしく、30cm程度の大きさだ。一体、これは何なのか。そう思ってバートは首を傾げたくなったが、しかしそれ以上に聞いておくべきことを思い出し、男の方を向いた。
「あの、失礼ですがお名前は――」
そこまで問いかけたバートに、男は再びクスリと笑って、そして今度は自らの口元を自分の人差し指で抑えた。
今度は、言いたくないということなのだろうか。
「彼に渡せばわかるよ」
「……え?」
予想通りというか何というか。しかしバートはその言葉に更に凍り付いた。名前を名乗らないなんて、おかしい。
「じゃ、頼むよ」
しかしその一方で、男は気安くバートの肩を叩き、どこか知らぬ方向へと行こうとしていたのである。
「いや! ちょっと! そういうの困ります!!」
バートの言葉も聞かず、男は路地の奥へと消えていった。バートも慌てて男を追いかけたものの――どうやら今日は路地に好かれていないらしい。あっという間に男を見失ってしまった。
「あーあ……」
思わず落胆。溜息一つを吐き、元の道を戻ろうとした矢先の事。
「バートー!!」
クリスの、バートを呼ぶ声が聞こえた。しばらくするとクリスとライラが彼の元へとやってきたのだ。
「ちょっと! 何で突然ジェームズ追いかけに消えちゃうのよ!! もう! ジェームズもろとも影ん中に消えちゃうと思ったじゃないの!!」
ライラがバートを見かけるなり、キンキン声でどなり、バートは思わず苦笑い。
「……まあ、『ジェームズもろとも』はともかくとしてさ。ジェームズも、ジュードも見っかんなかったろ?」
「……ああ」
今度はクリスの問い。バートは落胆を込めて頷きを返した。それを見て、クリスはバートの肩を叩いた。
「大丈夫だって。ジェームズの奴さ、約束だけは守るから」
「……確かに」
クリスの言葉に、納得しつつ頷きを返す。彼が何故、ジュードと戦わねばならなくなったのかは――彼が約束してくれた以上、必ず教えてくれるだろう。
「じゃ、帰ろう。ジェームズの車使ってさ」
「……そうだな」
クリスに促され、バートが頷いたその時。そこで初めて、クリスはバートが持っていた紙袋を指さした。
「ところでさ、バート。それ何? さっき、ジェームズを追いかけた時はそんなの、持ってなかったよね?」
「ああ、これ?」
――これを言ったらあんまりいい顔はしないだろうな。バートは一瞬そう戸惑いはしたものの、しかし黙っているのもおかしいので、覚悟を決めて、口を開いた。
「ああ、その……。……誰だかわからない人から、渡されたんだ」
バートのその言葉に、クリスは思わず、怪訝そうに眉根を寄せていたのであった――。




