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執政の手記~奇妙な少女~

A「そろそろ新しいリーダーを決める時だ」

B「おじいちゃんご飯はさっき食べたでしょ」

A「・・・・・・」

 妙齢の王がその少女を見た第一印象は、「幼い」であった。

王の名はバルムント・グリース、一代でこの街を取り仕切る王となった彼の眼力は乱世と呼ばれる時代においても確かなものであった。

 大陸の中心に位置する都市国家であるドラヴェルグが中立を保ち交易の中心として反映できたのも、ひとえに彼の外交手腕によるものである。

 そんな彼にとっての仕事は山積している、その中でもっとも彼が嫌い、嫌がったのは罪人への罪の言い渡しであった。

 元来彼は温厚な人物として知られている、ひとたび戦となれば冷徹な武人ではあったが、それ以上に民を愛し、命を守ることを喜びとしていた、そんな彼が自らの領内で起きたことを知り、時には自らが愛する市民に罪を言い渡す行為は、彼の心にとってもいいことではないのだ。

 だがそんな彼も一人の王であり、為政者である、自らの心象のために偽政者となるつもりは毛頭ない。


「罪人よ、お前は罪を犯した、なにか言うことは?」

 罪人に対する言葉は決まって「やっていない」だとか「無実だ」という、だが目の前の少女は兵士の足を折り、その場で取り押さえられている、言い逃れも何も出来ない現行犯だ。

「・・・・・お腹減った」


それがその罪人である少女の第一声であった。




「ああ・・・・そうか、朝食がまだだったな、悪かったな」

そう言った王は右手を握り左手でその拳を擦るような動作をしていた、長年隣に立つ執政の男は知っている、この行為は王が「感情的」になるときに行なう動作であることを。

 目の前に立つ少女はその手を縛られ、罪人が着る麻の服に身を包み座らされていた、しかしその目はにらみつけることはなく、まるであきれ返り見透かすような目でしかなかった、そんな彼女から発せられた意外な言葉に、周囲は微妙な空気に包まれている、さらに追い討ちをかけるように、その少女は口を開く。

「ねえ、その横にあるリンゴ、私に頂戴、どうせ食べないんでしょ」

この一言がまずかった、王は眉間に皺を寄せ、傍らに置かれた皿にあるリンゴ、そして後ろに飾っていた斧を取り、少女の元へと歩いていき、リンゴを遠くへ投げ飛ばした。

「あまり私をからかうな、今のリンゴのように貴様の首がこの場で飛ぶことになるぞ」

脅しであった、なにしろこの謁見の間は数十年の間血が流れたことなどない、この国の誇るべき場所だ、そんなところを罪人の血で汚すつもりなどはじめからない、少女が驚き、許しを請うように涙を流せば、リンゴをあたえんでもない、そんなことさえ王は考えていた。


「無理ね、だってあなたはリンゴと人の命を同じだなんて考えていないもの」

少女は鼻で笑いながら答える、ただの罪人、それも年の若い少女なら泣きながらもすがるようなその脅しをまるでものともしない豪胆ぶりだ。

「罪人と在れば話は別だ、秩序を乱す人間を俺は人とは思わん」

しかし彼もいくつもの罪人を見ている、罪人の中には同じように脅しに屈しないものもいる

「ならばなぜ私の元へ歩いて来たの?わざわざそんな斧を持って」

「貴様をこの手で葬るためだ」

「嘘ね、本当にそうだったら私の首はリンゴみたいになってるわ」

「今からそうしてやろうか?」

「それが出来ないから貴方はリンゴを投げた、貴方は優しいから」

「その優しさがいつまで続くか貴様に分かるのか?」

「さあ、貴方の気分でしょうね、でも貴方は気分で人を殺すような人じゃないわ」

「だから貴様は死なないと?」

「ええ、だって矛盾してるもの、貴方は私に怒って刃を向けている、でも貴方は法を遵守していると答えた、貴方が感情に任せて私の首を切れば、それは法を守らず罪人を処刑したことになるわ」

「今ココにいる人間全てが口を閉ざせば、貴様の存在すらなくなる、そうなれば・・・」

「無理ね、私が貴方なら今ここで私を殺して秘密をつくるなんて馬鹿馬鹿しい真似なんてしないわ」

「同列に考えるか?罪人である貴様と、王である私を?」

「ええ、種族は違うけど、同じ生き物だから」


いつしか二人の問答を周囲が固唾を呑んで見守っていた、聡明である王と奇妙な罪人の少女の問答を、しかしそれはどちらが正しいという問答ではないということを察した王がとめることで終わりを告げた


「いいだろう。罪人、私の負けだ」

王がそういいながら玉座へと戻る。そして少女にもう一つリンゴを投げる、それを少女は身体で受け止めた。

「それでどうする?リンゴをもって牢屋にもどるか?それとも出て行くか?選べ」

それが王の彼女へと伝えるべき罪であった。

「荷物は?私の荷物を返してもらえばすぐにでも出て行くわ」

少女は答えた

「残念ながら無理だ、盗まれたものかどうかを証明できない以上返すわけにはいかない」

その言葉に少女はそれまでの余裕を忘れたかのように立ち上がり、王へ詰め寄る

「ふざけないで、私の荷物よ、返して、返しなさい」

少女が王に触れる直前で、兵士によって抑えつけられる

「残念だが規則だ、だがキミの態度次第では今すぐにでも返してやってもいい」

王はそんな彼女に対してにやりと笑みを浮かべながら答えた、そのときに彼女は理解した、王はこの一言のために私を確かめたのだ、命を惜しめばそれを引き換えに、金を惜しめば金に、そうして彼女自身に自らの要求を飲ませるためにあえて「挑発に乗った」のだと。

「・・・・どうするつもり、私を」

彼女に断るという選択肢はなかった、おそらくここで引き下がっても別の方法で・・・たとえば王への不敬で捕まり同じ問答を繰り返す、先ほどのように言葉や手を換えることはできる、だが消耗戦になっても彼女に得るものはない、ならばいっそのことはじめから要求を呑んだほうが早い。


「そうか、それで話を続けよう」

王は目の前の罪人に話を続ける、その声を、執政は震えながら聞いていた。



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