彼女の記憶~暗い狭い・・・?~
大変だ、リア充指令官が爆発する、きっと年末年始彼女とよろしくやりすぎたんだ
指令官「ホアァァァァァアァァァァァァ」
その男は悩んでいた、町の頂にあるその要塞、さらにその奥にある玉座に座り、ただ悩んでいた。
その彼を悩ませる問題の答えを、彼自身が決めなくてはいけないということが、彼にとってその問題を複雑にする要因でもあった、しかし、彼はそれを悔いたりはしなかった。
その男、バルムント・グリーズは聡明な王として知られている、この時代、巨大な帝国の一端でしかない彼の都市国家が、疲弊をもたらしていた時代における唯一の安息の地として存在したのも、ひとえに彼が納めていたからに他ならない、民族を取りまとめ、時には身を粉にしてその問題の解決に当たる彼の人柄と、旧世代の家柄や規範に囚われない柔軟な発想をする彼を、その小さな国民は慕い、彼もその思いに答え続けた。
しかしいくら富をもとうとも国という概念そのものが問題を生むように、彼には新たな問題が用意されていた、まるで生き物のようなその問題を解決することが、彼の今の重要な仕事になったのだ、だから彼はこうして悩み続けていた、他のだれもが座ることの無い、自分だけの玉座で・・・・
国には人がいる、人がいるということはそれらと付き合うためのルールがある、それを行使する以上、国には少なからず罪人という観点がある、社会では罪人は快い扱いを受けない、その一端が、牢獄の存在だ、牢獄は罪人を隔離し、時には公正させる、故にこの都市国家にも、罪人のための牢獄が在るのだ、といってもそれを使うべき「招かざる住人」はこの待ちには少なく、たいていが暴れる酔っ払いを拘留するための施設だ。
小女が連れられたのは小さな牢であった、石で出来た壁に、孔子で閉じられた窓と入り口、極寒の大地において必要である暖は、床に敷き詰められたカビ臭い藁でしかない、せめてもの慈悲なのか、毛皮の毛布が置かれている。
「さあ。入れ、おとなしくしているんだぞ」
衛兵は女にそういうと入り口に鍵をかける、鍵は精巧に作られており、簡単に開きそうにはなかった。
「とりあえずココで頭を冷やして、それからキミの処遇を決める、安心してくれ、ただの暴行では死罪にはならない、といっても気休めにしかならないか、なにか欲しいものが在れば言ってくれ、可能ならば届けるから」
衛兵は彼女に対してそういうとすべての牢屋が見渡せる場所にあるイスに座り、羽ペンで書類を書いていた。
残された少女、頭を抱え座り込む少女は、無言のまま小さな牢を歩いていた、その牢は大人なら寝るのにギリギリの幅しかなかったが、彼女の小さな身体では一回り大きく見える。
「ねえ、おじさん、私このままだとどうなるの?」
少女は衛兵の男に大声で叫んだ、衛兵はそんな彼女の声を聞いて、机に立てかけていた剣を取ると席を立ち、少女の牢の前に歩いていった。
「キミは店主の暴行罪で罪に問われる、それは理解しているだろう?あと衛兵に対する抵抗、怪我をした衛兵はしばらく仕事を休まなければいけないからね、キミの預かった荷物に盗品がなければ、キミはその二つに問われることになる、まあ、盗品があればさらに上乗せされるけど、たぶん強制退去と罰金刑がいいところだろう。」
少女があの日男に食らわした蹴り、その後はのことは、調書にはその後の顛末が記録されていた、男はそのまま昏倒して、店主はその光景を見て恐怖のあまり裏口から逃亡、歩いていた衛兵に助けを求めた、近くにいた衛兵が店内に入ると、少女が店の棚から薬品に手を伸ばすところを目撃、取り押さえようとした衛兵の膝を持っていた薪で叩き、衛兵の足の骨を折った、その後店から出ようとしたところを店主が護身用に持っていた麻痺毒の塗られた矢を受け倒れ、衛兵たちに取り押さえられたのだ、店主の行動は勇敢な市民とされ、王から壊された店の扉の修理費が出た。
「キミが薬品の棚に手を伸ばしたのは倒れていた男性を助けようとしたのは分かる、だけどその後の行動があまりにもお粗末だ」
衛兵は調書を身ながら、少女にそう話した、衛兵として長く働いた彼にとっては、こうした囚人たちとの語らいが一種の娯楽のようなものなのだ
「正当防衛よ、棚に手を伸ばしたのだってあの男を治療しようとしたからよ。」
少女は機嫌が悪そうに衛兵に弁解をした、彼女自身、彼を殺そうとしたわけではない、すべてはその時の彼女の判断ミスなのだ、衛兵も本来なら背中に背負っていた剣で切れば殺すことも出来た、もし私が本当の極悪人であればその場で逃げていると彼に言い続け、彼もその言葉に耳を傾ける。
「なるほど、でも残念ながら罪を決めるのは僕ではない、王であるバルムント様だ、興味深い話で面白かったが、僕が守るのは市民と法だ、キミではないよ。」
法を守るという仕事でしかない彼らに、裁量を決める権利はなかった、彼が彼女の話を聞いたのは、あくまでも好奇心でしかない、彼になにかできることはなかった
「そう・・・ね・・・馬鹿みたい、もういいわ」
少女は落胆をすると、敷かれた毛布に身を包み、壁に寄り添うように座り込んだ、その顔は弱ってはいたが、年相応の恐怖や悲しみといった感情はなく、とにかく諦めたような顔であった。
「ああ。こんなことならこの町のアップルシナモンケーキを先に食べればよかった」
アップルシナモンケーキはこの町の名物である、交易の中心であるこの街では銀と同等以上の価値を持つスパイスが安易に手に入る、故にその土地での料理はスパイスを多様する、シナモン独特の風味と甘くソテーされたアップルを乗せたパンケーキは、この町の宿での有名な朝食だった、彼女にとってこの町に来たのはその食べ物の存在が大きい以上、それが食べられなくなったという事実は厳しいものであった。
「キミ、この町であのケーキを食べていないのか?」
少女の小さな一人声は人のいない牢屋では響いたのか、男の耳に入った、そして衛兵が彼女に対して言った言葉は彼女を驚かせたのだ。
「もしよければ僕の母の作ったものだが夕食に用意しようか?」
衛兵の言葉に、少女は耳を疑い、その意味を理解すると、それまでの落胆が嘘のように目を光らせて衛兵に話しかけた。
「本当なの?嘘じゃないわよね、」
「ああ・・・毎晩母が仕事明けに用意してくれるんだが少し量が多くてね、半分ぐらいならキミにあげてもいいよ」
少女は微笑みながら賛辞を送る。
「やったぁ、ありがとう、ねえ、貴方の名前は?」
衛兵は喜ぶ少女に肩をすくめながら答える
「ざんねんだがそれは教えられないよ、規則でね、旅人の罪人に名前を知られて仕返しをされたらこまるからね」
あくまでも男は衛兵で、少女は罪人であった、その間には鉄格子があり、その外と中では世界が違う、それはゆるぎない事実なのだ、男は融通の利く人間であっても、彼女が牢のなかにいる以上は哀れみを持っても親しみを持つとは無い。目の前の男はそういった線引きが出来る男なのだ。
衛兵はそれ以上は話すことはなかったし、少女もそれ以上話かけはしなかった、もっとも少女の場合、夕食にやってくる甘味に心を躍らせて、それ以外のことが頭になかっただけなのかもしれないが。
日は頂点まで上り、そして傾いていく、小さな孔子窓からの光も弱くなり、薄暗くなっていった、牢と牢の間につけられた燭台に火をともせば、ある程度は明るくはなるのだろうが、本来火をともすべき人間はそこにはいなかった、衛兵は食事を取りに席を立ったからだ、それはすなわち、彼女にとっての待望の時を意味する。
「ランランラーラララーララ」
罪を償うべきである牢の住人は鼻歌を歌いながら回っていた、それは少女の喜びの踊りなのだ、軽やかにステップを踏み、時には広げ、待ち受ける至福の瞬間を待っていた。
牢から外へ抜ける螺旋階段を下りる音が聞こえてくる。一つではなく複数が、一定のリズムを刻みながら、その音は次第に大きくなっていった。
「やってくる~私のおいしいアップルケーキ、シナモンたっぷりいい匂い~」
即興でそんな歌を歌いながら、彼女は次第に大きくなる音に期待していた、しかしその期待を裏切るように、彼女の目の前に現れたのは別の衛兵だった、それも女だ。
「今日捕まった罪人だな?」
衛兵の一人、やけに筋肉質な女が口を開いた、高圧的なその声は、牢の中で食事を待って踊っていた少女に向けられる
「アンタ誰?見張りの衛兵さんは?」
少女にとって彼女が何者であるかはどうでも良かった、問題は彼がいないということは夕食が目の前にないということでしかなかったのだから。
「ずいぶんと威勢のいい子供だな、まあいい、我々の王が貴様に謁見を許すそうだ、一緒に来てもらう」
少女にとっては心底動でもいいことだった。いまの彼女の頭にはそんなことは些細なことでしかなかった。
・・・一緒にきてもらう?
・
・
・
・・・・今から?
その言葉は、この暗い牢のなかから出るという言葉は彼女を再び暗い地獄へと叩き落した。
2/14日はうまい棒を買いにいこう