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彼の業務日誌~人生最悪の一日の始まり~②

富樫レベルの信頼度の週刊です

  夜明け前、太陽が顔をのぞく前に僕の仕事は始まる。

 いつもどおり製材所から運ばれた木を門の前で受け取ると、店の近くにある薪割り台で薪を割るのが僕の朝の仕事だ、この日は寒さも和らぎ、前日までの雪も止んでいた、店で出す薪はだいぶ前に作って乾かしたものだから、今日薪を作るのを怠けたところで、町で凍える家は無いだろう、だがこの土地の冬は厳しく、雪が明日降らないというわけでもない、だから僕の日課はしばらく続く、嫌な仕事ではない、一人黙々と出来るから客の顔をうかがわなくてもいい。

 「あら?おはようランディ、いつも大変ね、」

 挨拶をしたのは鍛冶屋の女主人だ、鍛冶屋の看板を掲げているのは妙齢の女性だが、その肌は工房の照り返しで黒く焼けている、鍛冶という重労働を夫と二人で切り盛りしているからか、こうして朝早く仕事を始める僕と良く出会う、昨日は夫と挨拶を交わしたから、おそらく交代なのだろう。

 「おはようございます、ソフィアさん、ブルさんまだ眠っているのですか?」

 「ええ、あの人は昨日風車の羽をみんなで直すって遅かったから、今は寝ているわ」

 いつもの挨拶だ、この鍛冶屋では剣や防具といった冒険者や町の兵士に売るものからナイフや包丁といった生活に必要な金物の類まで何でも作ることが出来る、もっとも剣を作るのだけは妻のソフィアさんの腕に頼っているらしい。

 「そうだ、ジェフ、一つ頼みごとをお願いしても良いかしら?」

 彼女はそういうと私に折り曲げた羊皮紙を渡した、一見するとその紙はなにかを記したメモのようだったが、あまり良い教育を受けていない私にはその紙に記されている内容が分からない。

 「ベンにこのメモに書かれている品を用意して欲しいの、夫が欲しがっているって」

 なるほど、そういうことか、たしかに店の主、すなわち僕の雇い主は起きるのが遅い、一々伝言をするために店を開けるぐらいならということなのだろう。

 「分かりました、伝えておきます」

 僕はそのメモをズボンのポケットに入れるとそう快諾した、夫妻たちにはたまに薪割り斧を修理してもらったりしているのでそのぐらいのことはしたい。

 「お願いね。」

 そういうと彼女は店の中へ入っていった、おそらく朝食の準備をしているのだろう、扉を開けたときにスープの良い香りがして来た、ああ、そういえば僕も朝食をまだ食べていなかった、早く仕事を終えよう。

 僕はそうおもいながら斧を振り上げていた、あと半刻もすれば、町の住人が起き、この町もいつもどおり活気のある声がしてくるだろう、それまでは、自分が鳴らす薪割りの音がただ響いていた。





 「残念だがうちの店では盗品は買い取れないよ、お嬢ちゃん」

 「だ~か~ら~盗品じゃないって言ってるでしょ」

 ベンは朝起されるのを極端に嫌う、自分が店主であって営業時間は自分が決める、だから下働きなんかに起されてるのは腹が立つ、そんな持論を繰り返すのが彼の特徴だ、だから僕は朝の薪割りがすむと、店の近くにある宿屋で朝食を買い、そこで食事を取る、大体それが終わるぐらいに彼は起床し、帰ってきた僕に「何処に行っていた?まさかサボってたんじゃないだろうな?」というのが日課だ、別に僕と彼がとりわけ憎みあっているとか、そういうのではない、ただ彼が店主であり、僕が下働きであるというだけだ。

 「お嬢ちゃんみたいなのが、どうしてこんなものを持ってるんだ?おかしいだろ?」

 どうやらベンはなにやら口論になっているらしい、いつも裏口から店に入っているため、口論の相手はベンの影に隠れて見えないが、カウンターの上にはいくつかの宝石と砂金が転がっている、おそらくいかがわしい客が買取を求めているのだろう、これでは伝言を渡せるのはもう少し先だ。

 「おおランディ、遅かったな、まさかサボってたんじゃないのか?まあいい、このお客の相手をしてくれ」

 逃げ遅れた、ベンがそういう時は必ず「客を店からつまみ出せ」という合図だ、この前は割れた皿を骨董品として売ろうとした客をつまみ出そうとして衛兵がくるまで顔を殴られた、正直同じ目は二度と会いたくない。

 「ちょっと、私はアンタと話をしているのよ、それなのに他の奴に相手させるなんてどういうつもり?」

 どうやら客は女性のようだ、だが油断は出来ない亜人の女なら素手で胡桃を割るほどの力があるとかいわれている、

 「あ~、お客さん?とりあえず落ち着いて、一度外に出ましょう、うちの店主も朝に弱くてイラついてる、お互い冷静にならないと」

 とりあえず相手をなだめ、表に出そう、その後は衛兵に任せるなり全力で逃げるなり好きに出来る、そう考えながら、カウンターの前にいるはずの客に顔を見せようとベンの横に回るが、目線の先に肝心のお客の姿はなかった、困惑した僕はカウンターの前に出ようとした時に、右足になにかがぶつかり、バランスを崩して床に倒れた、これから掃除をするつもりだった床は濡れており、ドロが私の頬に付いた、

 「おいっ?だいじょうぶか?」

 ベンが声をかける、ドロが付いてはいるが問題は無い、だがそれが僕に対して発せられた言葉で無いことを私は気づいた

 「何処見てるのよ?ほんとろくな人間がいないわねこの店」

 起き上がり目の前にいたのは、背の小さい少女だった、僕が躓いたのは少女の左足で、僕は少女を巻き込み倒れていたのだ、共に転んだのだろう少女は、この地方では珍しい肩から露出する服でその右肩のあたりの素肌には僕と同じようにドロが付いていた、それだけではない、彼女の服は異国のものだろうか、柔らかなスカートになっており、僕から見て彼女のそのスカートの中、女性用の下着が丸見えだったのだ、そしてそれを先に気づいたのは、彼女自身であった。

 「・・・この変態、死ねやぁああああああ」

 倒れた状態での少女の懇親のかかと落としが僕の後頭部に直撃して、僕はその場で気を失った、ああ、これなら亜人のパンチのほうがよかった....そんなことを考えながら僕は床に倒れていた。

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